サリオンからの評価

「お前も分かってんだろ? この先は危険が伴う。もしもの時に守ってやれないことだってある」


 ウィニーの諭すような言葉を受けて、ルチアは観念したように肩を落とした。

 普段の彼女からは想像できないような消え入りそうな声を出している。


「……ジンタは思ったよりも成長しなかったっす。もう少し粘りを見せたなら……」


「それで十分だ。ジンタはアルカベルクに残ってもらう、いいな?」


 ウィニーに視線を向けられると、内川は弱々しく頷いた。

 その様子を見るのは苦しかった。

 作戦会議が必要なのは理解しているものの、この状況に居心地の悪さを覚えた。


「サリオン、カイトは芽が伸びつつあるって言ったんだっけか?」


「はい、そうです」


「ルチアにジンタのことを話させちまった。お前からカイトのことを聞きたい」


 今度はサリオンが自分への評価を話す順番になり、にわかに緊張感が高まる。

 彼が自分のことをどう見ているか、まだまだ分からないことが多かった。

 

 ウィニーに話を振られて、サリオンは話す内容を考えているようだった。 

 少しの間をおいて、彼は表情を変えずに淡々と話し始める。


「アインの町への配達と古城の見回りに同行した際、周囲への警戒を怠らない慎重な行動に注目しました。それ以外では臨機応変なところが評価に値します」


「それで、カイトはこの先についてきても大丈夫だと思うか?」


「未熟なところはありますが、ウィニーひいてはエリーの力になってくれるはず。ミレーナやルチアとも打ち解けており、協調性の面からも問題ないでしょう」


「分かった。話してくれてありがとな」


 ウィニーの感謝にサリオンは笑みを浮かべて応えた。

 サリオンの評価が高かったのはうれしいのだが、内川が落胆していることで素直に喜べない。

 それから、今後についての話があったが、上の空になってしまい、内容はあまり覚えられなかった。




 翌朝、クラウスの宿屋で目を覚ました。

 相部屋ではなく個室が用意されたので、気兼ねなく熟睡することができた。

 窓の外にはアルカベルクの町が見えて、ガスパール王国の王都を離れたことを実感する。


 用意された寝間着から外出用の衣服に着替えて、顔を洗うために水場へと向かう。

 この町は湧き水が豊富で、宿屋の中にも湧き水が配水されている。

 昨夜、クラウスが設備の説明をしてくれたので、だいたいのことは把握できていた。


 水場へ行くとミレーナが顔を洗っているところだった。

 彼女は寝間着姿で寝癖が直りきっていない。

 水色の髪の毛が無造作に跳ね放題になっている。

 ぼんやりとして無防備な様子に新鮮さを覚えた。


「おはよう」


「……うん」


 ミレーナにあいさつをすると、横目でちらりと見て返事を返してくれた。

 彼女はここでの用事が済んだようで、そそくさと離れていった。

 朝が苦手なようで眠たそうだった。


 ミレーナと同じように顔を洗い、用意された部屋に戻った。

 今後に向けて荷物を確かめてみたが、ブラウンベアーの時に見つけた魔石ほど使えそうはものは見当たらなかった。

 サリオンの話では値が張るようなので、魔石を再入手するのは難しそうだ。


 整理を終えて荷物を床に置いたところで、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。

 俺は振り返って、間髪を入れずに反応を返す。

 

「はい、どうぞ」


「失礼するわね」


 ダニエラが扉を開けて中に入ってきた。

 その手には木製のトレーが乗っている。

 彼女が朝食を用意してくれたように見えた。


「ウィニコットさんたちが立てこんでいるみたいで、部屋で食べてもらってもいいかしら?」


「大丈夫ですけど、何かあったんですか?」


「さあ、わたしは部外者だから。詳しいことは教えてもらえないわ。クラウスが巻きこまないようにしてくれるから、必要以上に知ろうとはしないの」


「分かりました。朝食ありがとうございます」


 ダニエラはトレーをテーブルに乗せて、部屋を出ていった。

 皿の上にはスクランブルエッグや焼いたウインナー、それに色とりどりの野菜が盛りつけてある。

 主食にはパンが用意されていて、至れり尽くせりなメニューだった。

 ウィニーの状況が気になるため、すぐに食べ始めることにした。


 食事を終えて空いた皿が乗ったトレーを手にしつつ、ロビーへと向かった。

 そこには昨日と同じかたちで、ウィニーたちが向かい合って話しているところだった。

 どこか張りつめた空気を感じるが、加わらないわけにもいかない。

 輪に加わるように近づいて、ウィニーへと声をかける。


「おはよう」


「おっ、カイトか」


 ウィニーからはいつもの明朗快活な感じが見られず、どことなく表情が固かった。

 何か起きているのは間違いないみたいだ。


「……何かあったの?」 


「それなんだが……。隠す意味がないから話すが、ジンタが朝になったらいなくなっていた」


「えっ、ホントに!?」


 最近、ぎくしゃくしていたとしても、唯一無二の友だった。

 彼がいなくなったなんて、何が起きたのだろう。

 戸惑いが浮かぶばかりで、返す言葉が見つからなかった。

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