【完結】Snow Drop(作品230521)

菊池昭仁

Snow Drop

第1話


            エデンの園を追われたエヴァは 

            地上で初めての冬を迎えた

            それを嘆くエヴァに天使は 

            舞い落ちる雪をsnow dropに変えたという




 穏やかな冬の朝だった。

 夫がリビングのレモングラスの鉢に水をやっている。


 「早くご飯を食べないと、会社に遅れるわよ」

 「今日、一緒に病院について来てくれないか?

 この前の精密検査の結果を、一緒に聞いて欲しいそうなんだ」

 「えっ、まさか悪い病気でも見つかったの?」

 「それはないと思うけど、手術という話はあるかもしれない」


 その時、私は酷く悲しそうな夫の横顔を見た。

 夫の光明のそんな顔は今まで見たことがなかった。

 私はイヤな胸騒ぎを覚えた。





 糊の効いた白衣を着た村田医師は、慎重に言葉を選んで話をしてくれた。

 カウンセリングルームから見えるクリスマス前の冬景色は、雪が頼りなく風に漂っていた。



 「ご主人からすでにお聞きになっているかもしれませんが、残念なお話があります」

 

 私はその前置きの一言ですべてを理解し、夫の光明を見た。


 「あなた、知っていたのね?」

 「ごめん、俺からお前に言えなくて、先生にお願いしたんだ」


 村田医師は続けた。


 「ご主人は末期の膵臓ガンです」

 「膵臓ガン?」

 「他にも転移が見られ、手術は・・・、出来ません」

 「・・・」


 夫の光明は、まるで他人の話をするかのように言った。


 「あと、長くて半年くらいだそうだ。

 日本語は便利だよな? 6カ月と聞くと短い気もするが、半年というと、少し長く感じるよな?」


 私の目の前の景色が歪み出した。


 椅子も、会議テーブルも、蛍光灯も。そして夫も村田医師もすべてが泪の海に沈んでいった。

 私は声をあげて泣いた。


 

 


 病院の待合室で会計を待っている間、私はこれは悪い夢を見ているんだと思った。

 だがその悪夢は、一向に醒める気配がない。


 28歳の時、光明と結婚した。職場結婚だった。

 今年で結婚19年、息子の遼は高校2年生になっていた。

 飛行機のパイロットになりたいと言っている。


 今、この隣にいる夫は、あと数か月でこの世を去るという。

 どうして?

 

 夫婦にいつか終わりが来るのはわかる。でも、それを考えたことはなかった。

 遼が生まれるまでは夫を「光明」と呼んでいた。

 私も「加奈子」と名前で呼ばれていたが、いつの間にかそれは「お父さん」と「お母さん」に呼び名が変わっていた。

 こんなに元気そうな人がガン? しかも末期のステージ4・・・。


 

 「ねえ、他の病院も受診してみたら? 誤診ってこともあるでしょう?」

 「そうだな? そうかもしれないな?」

 「だったら他の先生にも診てもらいましょうよ」


 すると夫は斜め上の天井を見てこう言った。


 「そうかもしれない。でも、もういいんだ。

 もう、いいんだよ、加奈子。

 村田先生はね、俺に泣いて告知してくれたんだ。

 俺は先生を信じるよ」

 「何言ってるの! 自分の事でしょう!

 可能性があるなら、それを試すべきよ! 諦めちゃダメでしょう!」

 「加奈子、人はいつかは死ぬんだよ。親父もお袋もそうだった。

 親友だった奥寺もそうだ。

 それが定めなんだよ。人はいつかは死ぬものだからね?」

 「でも、でもあなたはまだ51なのよ! 定年まであと14年もあるのに、そんなの不公平じゃない!」

 「じゃあ、いくつならいいんだい?」


 夫は寂しそうに笑った。


 「遼がパイロットになって、素敵なCAさんと結婚して、かわいい孫が生まれて、そしてその孫が大学生になって彼女を紹介してくれて、それから、それから・・・」


 私は涙が止まらなかった。

 夫の光明はそんな私の手を握ってくれた。


 私はその時、ハッとした。

 光明の手があまりにも冷めたかったからだ。

 それはまるで死人の手のようだった。


 その時私は夫の死を初めて実感した。


 (この人が、この人が死ぬ。死んじゃう!)


 いつの間にか肌を合わせることもなくなった私たちは、お互いの肌の温もりを既に忘れていた。


 「イヤ! 絶対にイヤ! 私よりもあなたが先に死ぬなんて、絶対に許さないから!」


 周囲の憐憫の目が私と夫に注がれた。


 私はこの無機質な冷たい病院から一刻も早く、夫を連れて逃げ出したかった。


第2話

 私たちは帰りのクルマの中で、お互いに言葉を探したが見つからなかった。


 私はカーオーディオのCDの中から、山下達郎を選んだ。

 冬枯れの街を走る私たちに、達郎のバラードが沁み込んでゆく。



 「若い頃、よく山下達郎を聴いたなあ? 久しぶりに聴く達郎はいいもんだ」

 「達郎を聴きながら、よくドライブデート、したよね?

 あなたは免許を取ったばかりで、すごく運転が怖くって、緊張して助手席に乗っていたわ」

 「あれからもう25年かあ?」

 「そうね、あれから25年、結婚して19年」

 「あっという間だったな?」

 「まるで昨日のことみたい・・・」


 もうダメだった。夫との会話が続かない。

 私は両手で顔を覆い、肩を震わせて号泣してしまった。

 泣きたいのは夫の方なのに。


 夫はコンポのボリュームを少し上げてくれた。

 そんなやさしい気配りの出来る人だった。

 余命宣告をされているというのに。

 出来ることなら私が代わってあげたい。



 ふたりの沈黙がまた始まろうとした時、『エンドレス・ラブ』が掛かり、夫はそれを口ずさんだ。



         終わりなき恋。



 なんて馬鹿げた唄なの? 私たちの愛は、まもなく終わろうとしているのに。

 





 家に着いた。

 遼は学校で、この家には夫と私だけ。

 私は夫の光明に、急に抱き締められた。

 

 「大丈夫、俺は大丈夫だから。

 何も心配はするな、保険金も降りるだろうし、この家のローンも消える。

 君と遼はしあわせに暮らせばいい。

 それでいいんだ」

 

 私は光明の手を引いて寝室に入り、服を脱ぎ捨て、キスをした。


 「抱いて!」


 夫も服を脱ぎ始めた。

 私たちは何年かぶりにお互いの肌の温もりを確かめ合った。

 夫のカラダから、微かに病院の匂いがした。

 すでに閉経していた私は、そのまま夫を受け入れた。



 虚しいだけのセックス。ただ自分の体に光明の記憶を刻みたかった。

 消えてしまう夫の記憶を。


 

 私は光明に腕枕をされながら、こんな提案をした。

 


 「ねえ、一緒に旅行に行かない?」

 「どこへ?」

 「どこでもいい。でも、どこかに行きたいの、あなたと」

 「じゃあ、ふたりで行った思い出の場所を巡るというのはどうだろう?

 病気のこともあるからハワイやヨーロッパは無理だとしても、国内なら大丈夫だろう。

 いいなあ、お前と思い出を辿る旅かあ。

 北は小樽、仙台、会津、いわき。

 それから神戸、広島、博多、長崎、沖縄」

 「北陸が抜けてるわよ、富山、金沢も入れましょうよ」

 「旅行プランは君に任せるよ。俺は明日から仕事の引き継をしてくるから」

 「任せて頂戴、そういうの、私の得意分野だから」


 私たちは見つめ合い、唇を重ねた。


 近くで小学生の下校する声が聞こえた。





 

 夕食は、遼の好きなチーズハンバーグにした。

 

 「うまそうだなあ! どんぶりご飯、3杯はイケるよ!

 ママ、目玉焼きも載せてね、ダブルで!」

 「ハイハイ、たくさん食べなさい。

 遼のハンバーグは300gにしたから」

 「どうしたの今日は? 何かのお祝いみたいだね?」

 「ハンバーグでお祝いはないわよ。あはは」

 

 私と夫はお互いに目で頷き合った。

 それは残されたこれからの時間を、大切にしようというアイコンタクトだった。

 

 何も知らず、美味しそうにハンバーグを食べる息子を見ていると、私は泣きそうになった。

 


 「遼、俺のも半分食べるか?」

 「えっ、いいの?」

 「たくさん食べて大きくなれ」


 夫はそう言って、自分の皿を遼の前に置いた。


 「ありがとう、お父さん!」


 遼は私をママと呼び、夫のことは「お父さん」と呼んでいた。


 「私のことも「お母さん」と呼びなさいよ。もう高校生なんだから」

 「そのうちね」


 どうやら息子は照れ臭いようだった。

 子供の頃から「ママ」と私を呼んでいたからだろう。


 


 食事が終わり、遼はテレビのバラエティ番組を見て笑っていた。

 この子にどうやってこの悲しい現実を伝えるべきか、私は悩んでいた。


 息子は父親が大好きで、尊敬もしていたからだ。

 来年には航空大学校の受験も控えている。


 私は暗澹たる想いだった。


第3話

 私は外食チェーンの店舗開発部の部長をしていた。


 「作田専務、少しよろしいでしょうか?」

 「おお、どうした? 鎌田の新店舗の件か?」

 「専務には大変目を掛けていただき、感謝しています。

 本当にありがとうございました」

 「なんだよ、会社を辞めるような口ぶりじゃないか? どうしたいきなり?」

 「業務の引き継が終わり次第、会社を辞めさせていただきます」

 

 専務の作田はデスクから立ち上がり、ソファへ座ると光明にも掛けるように勧めた。


 「何かあったのか?」

 「実は先日の健康診断で、膵臓癌が見つかりました。

 すでに手遅れだそうです」

 「そうですって、お前、他人事みたいに・・・。

 それで、つまりそのー・・・」

 「あと、持って半年だそうです」

 「そうか・・・。

 俺も3年前に胃癌で手術をして、今も定期的に医者に通っている。

 それは・・・、辛いな?

 確か、高校生の息子さんがいたよな? 遼君」

 「はい」

 「残念だが、仕方があるまい。

 俺もそんなには永くはないだろうから、また、向こうで一緒にやるか? レストラン」


 私は内ポケットから辞表を出して、作田専務の前に置いた。


 「色々とお世話になりました」


 私は涙を流した。

 拭っても拭っても、涙が止まらない。

 作田も泣いた。


 大学を卒業してから、作田と二人三脚でここまで店舗を拡大してきた。

 まだまだこれから事業を躍進させていこうという矢先だった。



 「人はいつか必ず死ぬ。

 俺もお前の気持ちはよく分かる。

 ガンだと言われた時、俺も絶望した。

 俺は今まで何をしてきたのかとな?

 自分に腹も立った。

 何でもっと女房や家族を大切にしなかったのかと反省もした。

 辛いよな? これからという時に・・・」

 「業務は佐々木課長に引き継ます。専務、お身体を大切にして下さい」


 作田は財布から、すべての札を取り出して光明に渡した。


 「とりあえず、これで奥さんたちと何か旨い物でも食べろ。

 身体が調子がいい時は、一緒に飯でも食おうな」


 それを辞退しようとする私に、作田は無理やり札を握らせた。


 「ありがとうございます」


 私は深々と頭を下げた。

 それには10万円以上の厚みがあった。



 一方、私と常務の今村は反りが合わなった。

 どうせ辞めるのだ、気を遣うのは止めて、常務の今村には挨拶をしなかった。




 私は課長の佐々木を会議室に呼んだ。

 

 「佐々木課長、一身上の都合で会社を辞めることになった。

 後の事はよろしく頼む」

 「いきなりどうしたんですか! 部長!」


 と、驚く佐々木ではあったが、口元に喜びが隠せない。

 佐々木は部下の手柄は自分の手柄にし、自分のミスは部下のせいにして課長になった男だ。

 私はそんな佐々木を軽蔑していた。


 「明日から関係先に挨拶をして回るから、一緒について来てくれ、紹介するから」

 「何かあったんですか? ご家庭の事情とかですか?」

 「まあ、そんなところだ。

 作田専務にはさっき辞表を出して来た」

 「寂しくなりますね?」


 反吐が出そうだった。

 佐々木はそういうパフォーマンスが平気で出来る男だった。






 仕事を終え、駅に向かって歩いていると、部下の山岸沙也加に呼び止められた。


 「部長、どうして会社をお辞めになるんですか?」

 「佐々木課長から聞いたのか?」


 沙也加は黙って頷いた。

 佐々木は嬉しさのあまり、部内に吹聴して歩いたようだ。

 だがそれは想定内の出来事だった。

 そして佐々木は今村常務のお気に入りでもあった。

 常務の今村には佐々木から真っ先に報告がいくはずだった。

 つまり、手間が省けるというわけだ。



 山岸沙也加は私の直属の部下だった。

 大学を出て新卒でウチに入社して来た娘だった。

 彼女を採用したのは私だった。

 若いが仕事熱心で、細やかな気配りの出来る娘だった。



 「少し、時間あるか?」

 「はい」


 私と沙也加は銀座に出て、しゃぶしゃぶの店に入った。


 「君にも世話になったな? どんどん食べてくれ」

 「会社を辞めてどうなさるおつもりですか?」

 「旅に出ようと思ってね、女房と」

 「どうしてそんな急に」


 私は沙也加の胡麻タレに、湯に潜らせた肉を入れた。


 「やはりしゃぶしゃぶの最初は胡麻だよな?

 まずは肉を食べよう。話はその後だ」

 「はい」

 

 沙也加は仕方なく肉を口にした。

 だが彼女はすでに最悪の事態を想定しているようだった。

 私も自分の胡麻ダレに肉を入れ、食べてみせた。


 「美味いな? これ。流石は銀座の高級店だけはある」

 

 沙也加は箸を置いた。


 「どうして会社をお辞めになるんですか? 教えて下さい」


 私は彼女に告白した。


 「ガンになってしまったんだよ。もう手術が出来ないそうだ」


 私は今度はポン酢につけて肉を食べた。

 

 「どうして、どうしてそんな・・・。

 部長はまだ、これからじゃないですか!」

 「仕方ないよ、なっちゃったんだから。

 ステージ4って本当にあるんだな? あと半年だそうだ。

 うん、旨いな。

 山岸君も食べなさい、若いんだから」


 沙也加は俯き、嗚咽した。


 「どうして、どうして部長が・・・」

 「山岸君のお父上は、確か3年前に亡くなられたよね?

 俺にもその順番が回って来た、ただそれだけのことだ。

 君も今は若くて美しいが、いつかは死ぬ時が来る。絶対にだ。

 これは人間の定めなんだよ、生き物すべての必然なんだ。

 いいから、食べなさい、せっかくの松坂牛なんだから」

 「はい・・・。」


 沙也加は泣きながら肉を口にした。

 

 「どうだ? 美味いだろう?」

 「わかりません、お味なんて・・・


 それが彼女との最期の晩餐になった。





 「ただいまー」

 「お父さん、お帰りなさい。今日もお疲れ様」

 「あなたお帰りなさい。お風呂が先よね?」

 「ああ、そうするよ」

 「ご飯は? 今日はカレーだけど」

 「職場のやつと軽く食事をしたが、ママのカレーなら少し貰おうかな?」

 「ママのカレーはすごいよ、神保町でも十分やれるよ」

 「ありがとう、遼」


 

 私は湯舟に浸かり、声を押し殺して泣いた。

 死ぬ覚悟など、まだ出来てはいなかったからだ。


 私は死ぬのが怖かった。


第4話

 私は米沢牛を買い、夕食はすき焼きにすることにした。


 「どうしたのママ? こんなにいい肉」

 「たまにはいいでしょう? みんなで外食するよりもはるかにお得なんだから。

 たくさん食べなさい」

 

 夫の光明はビールを飲みながら、肉を頬張っていた。

 夫は私にもビールを勧めてくれた。


 「お前も飲めよ」

 「ありがとう」


 私は泡が多くならないようにと、グラスを傾けて注いでもらった。


 「大学は航空大学校と防衛大学か?」

 「うん、そのつもりだよ。一般大学の工学部からでもいいかもしれないけど、早くパイロットになって空を飛びたいからね?」

 「俺も若い頃、パイロットに憧れたよ。

 親父もパイロットになりたくて、自衛隊のパイロットの試験に合格したらしいが、婆ちゃんに反対されたらしい。当時は特攻隊のイメージがまだあったからな?

 親父はそんな婆ちゃんを責めなかったそうだ」

 「それでお義父さんは銀行員になったのね?」

 「そんなところだ。親父は親想いだったからな?」

 「パイロットは春木家の血筋なのね? お義父さんもパイロットになりたかったなんて」

 「僕、必ずパイロットになってみせるよ。

 そしてママとお父さんを僕の飛行機に乗せてあげるからね?」

 「楽しみにしているわね」


 光明は黙っていた。

 遼は美味そうに肉を食べていた。



 私たちは食事を終えてから、息子の遼に話をすることにしていた。

 食事を終え、私は後片付けはしないで遼に言った。


 「遼、聞いて欲しい話があるの、とても大切なお話よ」

 「何? いやだな、大切な話なんて前置きされると」


 息子は勘のいい子供だった。すでにただならぬ雰囲気を察知している様子だった。

 今夜のすき焼きの意味が、今、伝えられようとしていた。


 「あのね、お父さんが病気になってしまったの」

 「何の病気?」

 「膵臓の病気」

 「ガンなの?」

 「初期のね、だからこれから入院や手術で大変になるから遼にも協力して欲しいの」


 私は嘘を吐いた。

 余命があることなど、遼にはまだ言えなかったからだ。

 

 「お父さんも大変だったね?

 でも、今の医学は進歩しているから大丈夫だよ。きっと良くなるよ」

 「ありがとうな、遼。

 それで入院前にママと旅行して来ようと思ってね? いいかな? 旅行に行って来ても?」

 「うん、いいよ。

 僕は料理も出来るし、心配要らないよ」

 「ゴメンね、遼。

 来年で結婚20年だから、そのお祝いも兼ねて出掛けることにしたの。

 あなたも学校がなければ一緒に行けるんだけど、春休みになったら今度はみんなで温泉にでも行きましょう。

 その頃にはお父さんも良くなっている頃だから」

 「すまないな、俺たちばっかり。

 土産をたくさん買って来るからな?」

 「お土産はいいからさ、ゆっくり楽しんでおいでよ、旅行」

 「ありがとう・・・遼」


 私は迂闊にも泣いてしまった。

 それを見かねた夫がフォローしてくれた。


 「何も泣くことはないだろう? 大袈裟なんだからママは。

 今までママには苦労を掛けたからな? 俺も奥さん孝行をしないと」

 「よかったね? ママ。旅行は何処へ行くの?」

 「まずは神戸に行こうと思うんだ。後は成り行き任せだな?

 会社もあるからそう長くは出来ないが、留守中、よろしくな?」

 「うん、気をつけてね。いつ行くの?」

 「休みが取れたのが明日から1週間なんだ、だから急なんだけど明日から出掛けることになる」

 「そう、随分急な話だね?」


 遼には夫が会社を辞めたことは内緒にしていた。

 受験を控え、心配させたくはなかったからだ。


 私たちは徐々に息子に真実を伝えていくことにした。


第5話

 いつも通り、東京駅はかなり混雑していた。


 「お弁当とか買う?」

 「冷えた高い弁当を食べるより、神戸牛が待っているからいらないよ。 

 あの店、まだあるかな?」

 「どうかしらね? 震災もあったしね。

 でも、あるといいわね? 私たちの思い出のお店だから」

 「飲物とつまみでも買おうか?」


 私たちはKIOSKで缶ビールと珈琲、柿ピーとポッキーを買った。


 「ポッキーなんて珍しいね?」

 「うん、普段は買わないんだけど、なんとなくね?

 そうだ『都こんぶ』も買おうよ、懐かしいなあ。

 遠足みたいだね?」

 「そうだな? 遠足みたいだな。あはは」


 夫は寂しそうに笑った。

 これが私たち夫婦の最後の旅行?

 遼が家を出て行ったら、ふたりで旅行に行こうと思っていたのに。どうしてこんなことになってしまうの?

 こんな元気そうな夫が末期ガン?

 嘘よ、絶対に嘘。


 「不思議ですねえ? 完治しています! 奇跡ですよ奥さん!」

 そうあの村田医師は驚いて言うはずだ。絶対に。

 そして笑顔で「良かったですね?」と。

 そうよ、すべてが笑い話になるはず。

 

   「あの時は大変だったわよね?」


 と、家族で笑いながら。




 私と光明は昼過ぎの新幹線に乗った。明るいうちには神戸に着くはずだ。


 「奮発してグリーン車にしちゃった。いいでしょ?」

 「いいね、ゆったりして。社長か芸能人になった気分だよ。写真週刊誌に気を付けないとな? 愛人と不倫旅行だな?」

 「こんなおばさんと?」

 「俺もおじさんだよ」


 私たちは笑った。


 「ヨーロッパに旅行した時は、エコノミーで予約したのにビジネスクラスだったわよね?」

 「ああ、俺たちはいつもツイているからな?」


 ツイている? そうよ、私たちはいつもツイているのよ。

 子供も、家も、光明の仕事もすべてが順調だった。

 家族全員、大きな病気やケガもせず。

 それなのに・・・。


 いけない、暗い想いばかりが想い浮かんでしまう。

 何のために旅行に来たの? 夫を楽しませてあげないと。私は笑顔になるように努めた。

 私は心の中で祈った。


 (神様、どうか奇跡が起きますように)




 東海道新幹線『のぞみ』は定刻通りにホームを滑り出した。

 高層ビルの森の中を、『のぞみ』は徐々に加速して行った。

 私は缶ビールを開け、一口だけそれを飲むと光明に渡した。

 

 「殿、お毒見完了でございます。うふふ」

 「どうだった? お毒見は?」

 「美味しいわよ、冷たくて」


 私たちは笑った。

 私も珈琲のスクリューキャップを開けて飲んだ。

 そして夫と手を繋いだ。


 「なんだか新婚旅行に行くみたいね?」

 「そうだな?」


 夫は寂しそうに外を見て笑った。

 今は余計なことを考えるのは止そう、ただ楽しむのだ、この旅を。

 私はそう、自分に言い聞かせた。



 しばらくすると、左手に太平洋が広がった。


 「あなた、海よ海! きれい!」

 「ほら、こっちには富士山も見えるよ」

 「東京よりも南には殆ど来ないもんね?」

 「ママが大学を卒業して、ウチの会社に入社してからだからな、もう25年ぶりだな?」

 「初めての旅行だったね? 

 ねえ、旅行中は「ママ」、「お父さん」って呼ぶの辞めにしない?

 名前で呼ぼうよ、昔みたいに」

 「そうだな? じゃあ、加奈子」

 「光明さん」


 私は恥ずかしさを誤魔化すために、ポッキーを齧った。



 名古屋、新大阪を過ぎ、新幹線は新神戸駅に到着した。

 私たちはタクシーでポートアイランドのホテルへと向かい、チェックインを済ませると、ポートライナーで三宮へ出た。

 三宮は沢山の人とお洒落なお店で溢れていた。

 

 「まるでメガロポリスね? 東京よりも洗練されているわ。ここで震災があったなんて嘘みたい」

 「神戸はどこの港町よりもエレガントな街だ。

 横浜、東京、博多、長崎。

 俺は神戸が一番好きだな」

 「光明、お腹空いたー」

 「そうだな、行くか? 神戸牛?」

 「うん」


 私たちは25年前の記憶を辿り、その店を探したが、あまりにも街並みが変わってしまい、記憶も曖昧だったので、中々見つけることが出来なかった。


 「スマホで調べるか?」

 「ううん、探そうよ、探してみようよ。

 私たちの思い出のお店を私たちの足で」


 私は賭けてみたかったのだ。

 もしもあのお店に辿り着くことが出来たなら、必ず奇跡は起きると。


 「こうして加奈子と神戸の街を歩いていると、色んな事を思い出すなあ。

 ちょうどあの時は夏でさ、マックでチョコバナナシェークなんて飲んだよな?」

 「あれ、おいしかったわよね?

 バナナシェークにチョコソースをかけて、それが固まってチョコチップみたいになって。

 なんでなくなっちゃったのかしらね?」

 「何か問題があったんだろうな? コストの面とかで」



 そんな話をしながら、私たちは2時間も店を探し回った。

 そして遂に見つけた。私と光明の思い出のその店を。


 「光明! ここだよ!ここ! 間違いないわ!」

 「すごいな? 加奈子の執念は」

  

 私はまた泣いてしまった。

 それはお店を見つけたことに対する感動の涙ではなく、夫の病気が治ったと確信した喜びの涙だった。



 「いらっしゃいませ」

 「東京から来ました。25年前にもお邪魔しましたが、良かった、まだお店が残っていて。

 震災は大変でしたよね?」

 「そうでしたか? 25年前に。

 ありがとうございます。凄くうれしいです、ご贔屓にしていただいて」

 「こちらこそ、感激ですよ!

 良かった、思い出のお店が残っていてくれて!

 私たち、その後、結婚したんです。

 今日はフルムーン旅行なんです!」

 「そうでしたか? それはおめでとうございます」

 「では折角来たので、この5万円のシャトーブリアンをふたつ、お願いします」

 「かしこまりました。ではささやかではございますが、グラスワインをサービスさせていただきます」

 「えっー、うれしい!」

 「少々お待ち下さい。ご用意させていただきますので」



 私たちはワインを手にした。


 「何に乾杯しようか?」

 「光明の病気が治ったことに乾杯しましょうよ」

 「そうだな? じゃあ乾杯」

 「乾杯!」


 夫はうれしそうに笑った。

 私も笑った。私は奇跡が起きたと信じた。



 神戸牛が溶岩の皿に乗せられて、フランベされた青い炎のまま、運ばれて来た。

 お肉にナイフが吸い込まれて行くようだった。


 「ねっ、私たちってツイているでしょう?」

 「そうだな、ホント、ツイているな?

 ツイているというより、加奈子のお陰だよ。ありがとう」


 夫の光明はしみじみと言った。

 私はまた、泣きそうになったので、


 「美味しい! 何これ? これってお肉なの? なんだか全然別な物をいただいているみたい!」

 「流石は神戸牛だな? 神戸まで来た甲斐があるよ」

 「ホントだね?」



 

 その後、私たちは老舗の有名なBAR、『やながせ』で、まったりとした時間を過ごした。

 暖炉の薪が赤々と燃えていた。



 「美味しかったね? 神戸牛」

 「ああ、旨かったな、5万円の価値はあるよ」

 「ねえ、また来ようよ、神戸。

 今度は遼も連れて」

 「そうだな」

 「なんだかこうしていると、恋人同士に戻ったみたいだね?」


 光明は何も言わず、ジントニックを口にした。


 「ジントニックって、カクテルの基本なんだよ。

 イギリスの南国の植民地時代に、健康飲料として飲まれていた炭酸水に、ジンを混ぜただけのカクテル。

 シンプルだからこそ、その店のバーテンダーの腕が試される。

 ここのジントニックは今までで最高のジントニックだよ」

 「少し、私にも飲ませて」


 私もそれを飲んでみた。

 すっきりとしていて、ジンの香りがとても清々しく爽やかだった。


 「そしてジントニックには「強い意志」とか「希望を捨てない」という意味があるんだ」


 夫の光明も、まだ生きることへの希望を捨ててはいないようだった。




 ホテルに戻り、夫の光明がバスルームへ行った。

 荷物を整理していると、シャワーの音に変化がないことに気付いた。

 私がすぐに浴室へ行ってドアを開けると、そこに光明が倒れていた。


 「あなた!」




 すぐに救急車を呼んでもらい、光明を病院へ搬送してもらった。

 幸い、大事には至らずに済んだが、旅行はそこで中止することにした。



 「ごめんな、加奈子」

 「ううん、神戸はまた来ればいいわよ、遼がひとりで待っているわ。早く帰りましょう」

 

 奇跡は起きなかった。 


第6話

 家に帰って来て村田医師の診察を受け、自宅療養になった。

 夫が毎日家にいる生活。

 私は出来るだけ夫と一緒に行動することを心掛けた。

 3日後はクリスマスイブだった。

 

 「ねえ、遼のクリスマスプレゼント、買いに行かない?」

 「今年は何にするんだい?」

 「大きな飛行機のプラモデルとかどう?

 光明に選んで欲しいの。

 私じゃどれがいいのかわからないから」






 私たちはデパートのおもちゃ売り場で大きな飛行機のプラモデルを買った。



 「あの子が小さい頃、サンタさんは大変だったわね?」

 「そうだな、遼の欲しい物を聞き出すのに苦労したもんな?」

 「サンタさんにお手紙を書きなさいとか言ってね? それをサンタさんに見えるようにと、窓に貼るあの子が可愛かったわ」

 「そしてそれを探すのがひと苦労だったが、それを枕元に置いて、朝、遼が目を覚まして「サンタさんが来た!」って喜ぶ顔を見るのが楽しみだった」

 「あの子、いつまでサンタを信じていたのかしら?」

 「さあな? 今も信じていて欲しい気はするけどな?」

 「高校生なのに?」

 「いいじゃないか、そんな高校生がいても」


 私たちは笑った。




 クリスマス・ケーキはいつものケーキ屋さんに注文したが、今年は一回り大きな物にした。


 家に帰ると、クリスマスの飾り付けを夫と一緒にした。

 この家を新築した時、クリスマス・ツリーも大きな物に買い替えた。

 それは私の背丈ほどもある大きさだった。


 いつもなら12月に入るとすぐに飾り付けをしたが、今年は夫の病気のこともあり、直前まで飾る気が起きなかった。

 玄関にリースも飾った。





 イブ当日がやって来た。

 食卓には沢山のごちそうと、大きなクリスマス・ケーキが並んだ。

 光明がみんなにシャンパンを注いでくれた。

 

 「僕も飲んでいいの?」

 「どうせ大学生になったら飲まされるんだ、その練習だよ」


 私たち家族は乾杯をした。

 私はケーキのロウソクに火を灯し、部屋の照明を消した。

 


 「遼、ロウソクの火を消して頂戴」

 「僕はいいよ、今年はお父さんが消してよ」

 「それでは、ご指名なので遠慮なく」


 光明がロウソクの炎をひと息で吹き消した。

 家族みんなで拍手をした。

 私は灯りを点けた。


 「ハイ、クリスマスプレゼント」

 「ありがとう、ママ、お父さん」


 うれしそうにクリスマスプレゼントの箱のリボンを解く遼。


 「ボーイング777じゃないか!」

 「喜んでくれてよかった、お父さんが選んだのよ」

 「日本航空でも導入したよな? まあ、トラブルも多いようだが「トリプルセブン」っていいよな。

 縁起が良さそうでさ。

 遼がパイロットになる頃には、もっと性能がいい旅客機になっているだろうけどな?」

 「お父さんとママを乗せてあげるよ、僕の操縦する飛行機に」

 「楽しみにしているわね」




 後片付けを終え、お風呂に入り、私はベッドに入った。

 気恥ずかしさもあり、新築した時に購入したのはセミダブルが2つだった。

 そしていつの間にか、別々に寝るのが習慣になっていた。

 だが最近は、ひとつのセミダブルに夫と一緒に寝ていた。



 すると光明が布団の中から、長い箱にリボンの掛けられたクリスマス・プレゼントを私に差し出した。


 「これ、俺からのクリスマスプレゼント」

 

 それはダイヤのネックレスだった。


 「ありがとう、とっても綺麗。ねえ、つけて頂戴」

 

 夫の光明は私のパジャマの後ろから、それを付けてくれた。

 私はドレッサーでそれを確認した。

 予想外のクリスマスプレゼントがとてもうれしかった。

 神戸に行く前に購入していたようだった。



 「ごめんなさい、私は何も用意していなくて」

 「いいよ、俺から加奈子への感謝の気持ちだから。

 いつも俺と遼のためにありがとう」


 夫が「今まで・・・」と言わなかったことが、せめてもの救いだった。


 「その代わり、今日はたっぷりサービスしてあげる」

 「聖なる夜にか?」

 「性なる夜だからでしょう?」


 そして私たちは静かにお互いを求め合った。



 行為を終え、ピロートークをしていると、突然、光明が私を抱き締めて嗚咽した。


 「どうしたの?」

 「怖いんだ、死ぬのが・・・。死にたくない」


 私は夫を優しく抱きしめ、髪を撫で、囁くように言った。


 「怖いよね? 辛いよね?

 いいのよ、ずっとこうしていてあげる。私に甘えて」

 「ごめん、つい弱音を吐いてしまった。俺は情けない男だな?

 もう大丈夫、もう、大丈夫だから」

 「いいのよ、強がらなくても。

 私はあなたの聖母になりたい。 だから私に甘えて欲しいの・・・」

 「男のくせに・・・、だらしがないよな?」

 「男だって人間でしょう? わかるわ、いえ、わかってあげたい、あなたの恐怖心を。

 奇跡を信じましょうよ、最期まで。

 だって、今日はクリスマスイブの夜だから」


 夫は私の胸で、子供のように頷いた。


 私は強くて優しい、聖母マリアになることを誓った。


第7話

 クリスマスも終わり、師走は新年に向かって加速していった。


 

       元旦は 冥途の旅の一里塚  

       めでたくもあり めでたくもなし



 一休禅師は、そう元旦を詠んだ。

 私の心情は、まさにその境地だった。

 自分の命の砂時計が静かに、サラサラと落ちてゆく。

 誰もそれを止めることは出来ない。


 妻の加奈子や遼から気を遣われるのが気に障わり、何気ない言葉や態度に私はイラついていた。



 「少しは栄養のある物を食べないと」

 「要らない」

 「でも、体力が落ちてしまうわよ」

 「だからどうだと言うんだ! 俺は食いたくない! 

 そんなことをして今さら何になる? どうせ俺は死ぬんだ!」

 「ごめんなさい・・・」


 そんな毎日が続いていた。


 加奈子たちの気持ちは痛いほどよく分かっている。分かってはいるがそれを素直に受け取れない自分がいた。

 

 「何で俺が・・・」


 どうしても、そう考えてしまう。一体自分が何をしたと言うんだ。

 この52年、俺は誠実に生きて来たつもりだ。

 特別、いい事もしなかったかもしれないが、悪い事もした覚えはない。

 私は真面目に生きて来た。

 そして加奈子たちの優しさを拒絶すると、私は強烈な自己嫌悪に襲われた。




 大晦日の晩、紅白歌合戦も終わり、「ゆく年くる年」の除夜の鐘が鳴り始め、午前零時とテレビ画面に表示された。


 「明けましておめでとう、お父さん、ママ」

 「おめでとう、遼。あなた」

 「おめでとう。年が明けた7日から、入院しようと思うんだ」

 「どうして? お父さん、そんなに悪いの?」

 「俺みたいな人間は、こうしてお前たち家族といると、つい甘えてしまうからな?

 入院して、きちんと病気を治すことにしたんだ。

 美人なナースさんもいるしな? あはははは」


 加奈子も、息子の遼も笑わなかった。

 

 「甘えてもいいじゃない、家族なんだから」

 「そうだよ、家で療養しなよ。僕も協力するからさ」

 「ありがとう、でももう決めたんだ。村田先生にも相談したら、「その方がいいですね」ということになった。

 春には退院したいからな? じっくり治すよ。この病気を。

 1週間に1度、洗濯物を取りに来てくれればそれでいいからな」


 私は嘘がヘタだった。

 それは加奈子と遼を、さらに悲しませてしまった。


 だがそれは、加奈子たちへの精一杯の思い遣りだったのだ。

 私は少しでもふたりの負担を軽くしてやりたかった。


 



 寝室に入ると、加奈子が言った。


 「本当に入院するの?」

 「ああ、もう決めたんだ。俺はどんどん暴君ネロになりそうだからな? 君たちに嫌われて死ぬのはイヤなんだ」

 「いいじゃないの、別に暴君のままでいれば。

 私は平気よ、ドMだから。

 病院じゃなくてウチにいたら?」

 「ありがとう、加奈子。

 でも、俺が辛いんだよ、そんな自分を見るのが、そしてお前たちを見るのが。

 どうせ死ぬなら「良い旦那、良い父親」で死にたいじゃないか?

 だから君たちには俺の嫌な所は、なるべく見せたくはないんだよ」

 

 加奈子は私をやさしく抱きしめてくれた。


 「私は光明とずっとこうしていたい、いつまでもずっと」

 「俺も、俺もそうしたい、お前とずっと一緒にいたい・・・」


 微かに除夜の鐘の音が聞こえていた。


 「寝よう、そして朝になったら3人で、いつもの神社に初詣に出掛けよう」

 

 加奈子は泣きながら頷いた。





 元日の朝は、雲ひとつない晴天だった。

 一年の始まりに、ふさわしい朝だった。

 かなりの人が参拝に訪れていた。

 

 私たちの順番になり、お賽銭を投げ入れ、鈴を鳴らし、手を合わせた。

 私の願いはこうだった。



    どうか、このふたりが悲しみませんように

    そっと死なせて下さい



 おそらく、加奈子と遼は私の奇跡を祈ったはずだ。

 だが私は、自分の死によって、家族が悲しむのが辛かった。

 死を目の前にして、徐々に自分の死に対する意識の変化を感じていた。

 恐怖から苛立ち、諦め、そして私の死後の不安。

 それが今は、これまで私を支えてくれた人たちへの感謝へと変わり始めていた。



      ありがとう 加奈子 遼





 そして、私は入院した。


 「春木さん? どこか痛みとかはありませんか?」

 「大丈夫です。ここの病院のベッドはいいですね? ぐっすり眠れますよ」

 「評判いいんですよ、患者さんたちにこのベッド。

 35.8℃ですね? ではまた、夕方に検温に来ますね?」

 「よろしくお願いします」



 ガンになると体温が低下するというが、どうやらそれは本当のようだった。

 トイレで用を足してオシッコが手に掛かった時、その冷たさに私は愕然とした。

 冷たいカラダ。それは私に死が近づいていることを意識させた。




 入院してたくさん本を読み、音楽を聴いた。

 やることがないのと、死を忘れるために私はひとり、藻掻いていた。



 加奈子と遼は毎日、私を見舞ってくれた。


 「いいよ、大変だから毎日は来なくても」

 「何か食べたい物とか、欲しい物はない?」

 「肩を揉んであげようか? お父さん」

 「悪いな、じゃあお願いするかな」

 

 息子の大きな力強い手、幼かったこの子がこんなにも逞しく成長していることに、私は目頭が熱くなった。


 もう私は死ぬというのに。


第8話

 沙也加が会社の同僚、大野雅子を連れて見舞に来てくれた。

 

 「春木部長、お体の具合はいかがですか?」


 私は昼食を終え、老眼鏡をかけて森鴎外を読んでいた。

 老眼鏡を外し、私はふたりを見た。

 

 「先日、会社に奥様がご挨拶にお見えになった時に、ここに入院しているとお聞きしたものですから」

 「そうだったのか? わざわざすまないね。

 どうだい? 会社の方は?」

 「部長がいないとダメですよ、佐々木課長はあの調子ですし」


 大野も沙也加も佐々木が嫌いだった。



 「君たちがいれば安心だよ、佐々木課長の力になってやってくれ」

 「私も課長は嫌いです、偉い人には媚びて、弱い立場の人には高圧的で」

 「仕事は好き嫌いでするものではないよ」

 「部長、何か飲みませんか? 自販機で買って来ますから」

 「じゃあ、温かい珈琲をブラックで。

 君たちも好きな物を飲みなさい」


 私は1,000円札を大野に差し出した。


 「いいですよ、小銭ならありますから」

 「君たちから奢られると後が怖いよ」

 「大丈夫ですよ、部長が退院されたら豪華ディナーをご馳走になりますから」

 「だったら猶更だよ、ほら、よろしく頼むよ」


 私は遠慮する大野に金を渡した。


 「すみません、部長。沙也加は何がいいの?」

 「私は冷たい「午後ティ」がいいな?」

 「了解」



 病室は4人部屋だったが、入院しているのは私と今野さんだけで、今野さんは病院内を散歩しているようだった。


 沙也加は急に私の手を握った。


 「部長の手、冷たいです・・・」


 私はそのまま、沙也加に手を握られたままでいた。

 若い女の柔らかな温かい手の感触が、心地良かった。


 沙也加は泣いていた。


 「部長・・・。どうして部長がこんな目に・・・」

 「この前も言っただろう? 順番だよ順番。

 俺の番が来ただけだ」

 「部長がお辞めになって、部内はバラバラです。

 毎日、ギスギスした雰囲気になって仕事がうまく回りません」

 「そのために君がいるんだろう?」

 「私は部長がいないとダメです、部長がいないと寂しいんです・・・」


 沙也加は突然、私にキスをした。

 病室の午後の陽射しが揺れた。


 沙也加のさらさらの細い髪が、私の顔にかかり、フローラルな優しい香りがふわりとした。

 私はじっとして、何もしなかった。

 沙也加の手を握り返すこともなく、ただじっとしていた。

 沙也加の恋心を否定したくはなかったからだ。


 「私、部長が好きです。部長の部下になった時からずっと」

 「ありがとう、君のような美しい、そして若い女性にそう思ってもらえてうれしいよ。

 しあわせになって欲しい、君には」

 「部長は必ず治ります。絶対に奇跡は起きます。 

 そうなったら私とデートして下さい」

 「奇跡かあ、奇跡が起きるといいな?」

 「約束して下さい、治ったら私とデートですよ」

 「ああ、約束するよ」


 大野の足音が近づいて来ると、沙也加はすぐに手を離した。


 「お待ちどうさまでしたー」

 「ありがとう、雅子」

 「ご苦労様、大野君」


 私たちは芸能人の話や、話題の映画などの無難な話をして過ごした。



 「部長、お大事にして下さいね? また来ますから」

 「退院したら豪華なフレンチにでも招待するよ」

 「約束ですよ」

 「ああ、約束だ」




 病院を出て、大野は沙也加に訊ねた。


 「部長、かなり痩せたね? 想いはちゃんと伝えられた?」

 「うん」

 「自販機から戻って来るの? ちょっと早かったかな?」

 「だいぶ早いわよ」

 「ゴメン、ゴメン。不倫の恋のお手伝いも楽じゃないわ」

 「ありがとう、雅子。不倫の恋も、恋は恋よ。

 部長にはたまたま奥様がいらしただけだもん。

 それに、部長の家庭を壊すつもりはないわ」

 「沙也加はファザコンだもんね?」

 「私は自分の気持ちに正直なだけ」

 「私は年下好みだからわかんないけど。

 部長の病気、良くなるといいね?」

 「うん、そうだね・・・」


 沙也加は胸が張り裂けそうな想いだった。


 穏やかな1月の夕暮れ時、ポツリポツリと街に明かりが灯り始めていた。


第9話

 気付けば1月も終わり、2月になった。

 私は後悔していた。


 (私はあの人に何もしてあげられなかった)


 私はただあの人に甘えていただけ。私は本当に夫を愛していたのかしら?

 私の自問は続いていたが、それについての答えは出せないままだった。


 男と女が偶然に出会い、恋をし、愛し合い結婚する。

 結婚すると、生活の中で現れる様々な問題に直面する。

 そしていつの間にか、それにより夫婦は恋愛を忘れていく。

 あんなに好きだったのに、あんなに愛し合っていたのに・・・。

 

 携帯のない時代、彼と長電話をして、よく母から叱られたものだ。

 メールもLINEもなく、山ほど手紙を書いた。


 やがて遼が生まれ、私は子育てに必死だった。

 そしていつしか夫婦の共通の目的が、子供を立派に育てることになっていった。


 遼は素直なやさしい息子に成長し、パイロットになりたいという夢に向かって頑張っている。

 

 「定年になったら、ふたりで旅行したいね?」

 「そうだな」

 

 決して不幸な暮らしではなかった。

 真面目で誠実で、口数の少ない夫。

 会社でもそれなりに出世もし、収入も増え、おかげで私は専業主婦でいることが出来た。


 郊外に庭付きの一戸建ても建て、経済的にも安定した生活を送っていた。

 そして、その夫がもう永くは生きられないという。



         夫が死ぬ



 そんなことは考えもしなかった。

 これから私はどうすればいいのだろう? どう生きて行けばいいんだろう?


 遼も大学生になればこの家を出て行き、夫がいなくなってしまえば私は独りぼっちになってしまう。

 夫の病院へ持って行く、夫の着替えを紙袋に詰めながら、私は誰もいないリビングで声を上げて泣いた。






 病院に着いた。

 日増しに衰弱していく夫を見るのが辛かった。

 私は出来るだけ明るく振舞った。


 「はーい! 加奈子クリーニングでーす!

 具合はどう?」

 「毎日来なくても大丈夫だぞ、悪いな、いつも」

 「ねえ、旅行の続きをしない?」

 「それは難しいだろうな? また倒れると嫌だし。

 それに、歩くのも辛くなってきたしな?」

 「遠くじゃなくて、近所の公園の旅行よ」

 「そうか、それならいいかもな? でも、それは旅行とは言わない、散歩だ」

 「いいの、いいの。私には旅行なんだから」




 村田医師の許可を貰い、夫を車椅子に乗せ、私たちは日曜日の公園に出掛けた。

 SUNDAY PARK。


 肌寒い日曜日の午後だった。

 思い思いに休日を楽しむ人たち。

 小さな子供をつれた若夫婦、中年の夫婦らしき男女、ベンチで本を読んでいる女性、ただじっと空を眺めている老人・・・。様々な人生がそこにあった。



 「寒くない?」

 「ああ、大丈夫だ。気持ちのいい風だな? 天気もいい」

 「そうね?」


 いつもそうだった。いつもこの人の口癖は「大丈夫」だった。

 大丈夫じゃないのに、いつも「大丈夫だ」と言っていた。


 そしていつの間にか、私はその「大丈夫」をすっかり信じてしまっていた。

 今、彼は大丈夫ではないのに、また、「大丈夫だ」と言っている。

 寒くないというのは痩せ我慢ではないだろう。でもそれは、死にゆく自分に対する「大丈夫」なのかも知れない。



 「加奈子、見てご覧よ、あの人もこの人も幸せそうだ。でもみんな、いずれは死ぬんだよ。

 あの人もこの人も、誰一人の例外もなく、死は平等にやって来る。

 あの小さい子供も、あのおばあちゃんも、そしてあそこで子供とキャッチボールをしているお父さんも。

 死ぬのは俺だけじゃないんだよ、死ぬのは」

 「ごめんなさい、私、今まであなたに何もしてあげられなかった。

 あなたにはたくさん・・・、してもらったのに」


 涙が止まらない。


 「そんなことはないよ、加奈子はたくさん俺に尽くしてくれた。

 本当に感謝しているんだ、ありがとう。

 掃除に洗濯、料理にアイロンがけ、それに靴も磨いてくれた」

 「そんなことはどこの奥さんでもしていることじゃない」

 「そうじゃない、大切なのはそれをどういう気持ちでしてくれているかなんだ。

 ただ機械的にそれをするのと、相手のことを想ってしてくれるのとでは大違いだ。

 それだけじゃない、俺は君にたくさんの愛情を貰った。

 感謝しているよ、加奈子」

 

 私は車椅子を押すのを止め、後ろから光明に抱き付き、泣いて詫びた。

 

 「ごめんなさい、ごめんなさいあなた。

 私はあなたに何もしてあげなかった。もっと色々沢山してあげられたはずなのに」


 すると夫は私の手を握って言った。


 「そんなことはない。それは俺の言うべきセリフだ。

 加奈子、何もしてあげられなくて、ごめんな?」

 「そんなことはないの、そんなことはないわ。

 あなたは私にたくさんしてくれた」

 「だったらお互い様だ。

 どんなに尽くしたところで、これでいいなんてことは無いんだから。

 俺はようやくわかったんだ、夫婦というやつがどういうものかを」

 「夫婦って何? 私にはわからないわ」

 「夫婦って、結局「戦友」なんだよ。

 人生には辛い事ばかりだ。それをひとりで乗り越えるには辛いが、夫婦という関係がそれを助けてくれる。

 苦しみは半分になり、喜びは何倍にも増幅される。

 それが夫婦だよ、人生という嵐を乗り越えるための」

 「乗り越えられない大きな嵐が来たらどうするの?」

 「耐えるしかない、ふたりで。

 船乗りたちは酷い嵐の時、やるだけの事をしたら、あとは嵐が過ぎるのをじっと待つんだそうだ。 

 いい話だと思わないか? 嵐の海を身を寄せ合い、それにじっと耐えるって?

 俺は加奈子と結婚して、本当に良かったと思っている」

 「夫婦って、一緒にいるだけでいいのね?」

 「そうだよ、そこに夫婦の絆があるんだ。

 だから加奈子はそれでいいんだよ、今のままで」



 私の足元に、5才くらいの女の子が遊んでいたボールが転がって来た。

 私はそれを拾い上げ、少女へ渡した。


 「ありがとう、お姉ちゃん」


 女の子は両親のところへ走って行き、楽しそうにボール遊びを続けた。


 

 「お姉ちゃんって言われちゃった」

 「よかったな?」


 その日の日曜日の空は、どこまでも青かった。


第10話

 病室のフロアにある談話室。

 そこからはドクターヘリの離発着を見ることが出来た。


 息子の遼は学校が終わると、いつも病院に寄ってくれた。

 

 「コーラでいいのか?」

 「うん」


 私は自動販売機からコーラと珈琲を買うと、遼とふたりでドクターヘリの着陸する様子を眺めていた。

 それはまるで、白鳥が水辺に降りるように優雅だった。


 「いいよなあ、空を飛べるって」

 「ヘリはいいよね? 滑走路がいらないからどこでも離着陸が出来るから」

 「俺が中学の頃、イギリスの垂直離着陸戦闘機「ハリヤー」っていうのがあったけど、今もあるのか?」

 「垂直離着陸機と言えばハリヤーだけど、今は改良機のAV-8ハリアーになっているんだ。

 岩国のアメリカ海軍第12海兵飛行大隊・第121海兵戦闘攻撃中隊に配備されたのがF-35Bなんだけど、これはVTOLじゃないんだ。

 AV-8はSTOL/VTOL機なんだけど、F-35Bは燃費、積載量、ステルス性においても格段の性能があるんだよ」

 「つまり、最新鋭機のF-35Bは垂直離着陸は出来ないが、短い距離での離発着が可能であれば、それでいいということだな?」

 「おそらくその必要性がなくなったんだろうね? 垂直離着陸のジェット戦闘機は、ステルス性が高ければそれだけ攻撃力が高まり、機体とパイロットを対空砲火や追尾ミサイルで失うこともないからね?」

 「遼は本当に好きなんだな? 飛行機が」

 「うん、大好きだよ。でも、パイロットになるのはもう諦めたんだ」

 「どうして?」

 「医者になろうと思う、外科医に。

 だから来年は国立の医学部を受験することにしたんだ。

 私立はお金が大変だからね?

 担任の先生にも相談したら、「それもいいかもしれないな?」って言われた」

 「そうか」

 「どうしてだって訊いてくれないの?」

 「大体の想像はつくからな」

 「そうだよ、僕、お父さんの病気を治したいんだ。

 この大学病院に来て知ったんだ、こんなに沢山の病気やケガで苦しんでいる人がいることを。

 僕はお父さんのおかげで新しい夢が出来たんだ。

 この人たちを、ひとりでも多く救える医者になりたい」


 息子なら必ずいい医者になるだろう。

 私は息子の遼がこんなにも立派に成長したことが嬉しかった。


 加奈子も私も、遼に対して自分たちの理想を押し付けるような事はして来なかったつもりだ。

 ただ、息子が成長していく姿を見るだけで、それだけで満足だった。

 

 「勉強しろ」などと言ったことはなかったが、遼はいつも全国模試の上位に名を連ねていた。

 高校の担任からも「遼君の成績なら東大、京大レベルですよ」と言われていた。

 そんな遼が「飛行機のパイロットになりたい」と言った時にはうれしかった。

 自分の将来の生き甲斐を見つけてくれたからだ。

 人生に必要なのは「生き甲斐」だ。人生には意味のない名誉や賞賛よりも、「何のために生きるのか?」という人生に於ける目的が大切だからだ。


 「お父さん、退院したらまた釣りに行こうよ」

 「海釣りにか?」

 「うん、海がいいな、船に乗ってさ」

 「ママと三人で行くか?」

 「ママも喜ぶと思うよ、子供の頃、よくみんなで出掛けたもんね? お弁当を持って釣りに?」

 「そうだったなあ。釣りに動物園、水族館。山登りにスキー」

 「僕が小学生の時、ハワイにも連れて行ってくれたよね? あの時なんだ、僕がパイロットになりたいと思ったのは」

 「そうだったのか」

 「お父さんもカッコ良かったよ、現地の人と英語で話していて。

 僕もお父さんみたいに外人と話したいと思ったから、英語も一生懸命勉強したんだ。

 お父さんは僕のヒーローなんだよ」

 

 私は横顔で笑った。

 正面を向くと、涙が零れそうだったからだ。



 ついさっき病人を下ろしたばかりのドクターヘリが、再び大空へと飛び立って行った。

 優雅な遊覧飛行ではなく、そこには一刻を争う救命のための緊張感が漲っていた。


 私と遼は、ヘリが無事に帰ってくることを祈った。


最終話

 3月になってもまだ寒さは衰えず、三寒四温を繰り返していた。

 ほころびかけた桜の蕾も、その日降った湿った雪に凍えていた。

 いつもと変わらぬ一日。


 静かな日曜日だった。

 私は息子の遼と一緒に、夫を見舞った。



 「段々、お花見ね?」

 「みんなでまた、花見がしたいな?」


 夫はかなり衰弱し、黄疸も酷くなっていた。

 掛けられた毛布が、とても薄く感じられた。

 私は亡くなった母の言葉を思い出していた。


 「死期が近づくとね、寝姿が薄くなって来るのよ」


 私は病院に夫を見舞う度、その母の言葉に怯えた。



 「リンゴでも剥きましょうか?」


 静かに頷く夫。

 私は家から持って来たリンゴの皮を剥き始めた。

 すると突然、遼が叫んだ。


 「ママ! お父さんがヘンだよ!」


 私の手から、リンゴとナイフが滑り落ちて行った。


 「あなた! あなたしっかりして!」


 私は慌ててナースコールのボタンを押し続けた。


 「どうしました?」

 「主人が、主人が!」

 「すぐに行きます!」




 あっけない最期だった。

 夫の光明は口元に笑みを浮かべ、天国へと旅立って行った。






 葬儀の時、沙也加は号泣した。


 「部長おおーーーーーっつ!」




 私には、もう流す涙も残ってはいなかった。

 看病に疲れ、身も心もボロボロだった。

 せめてもの救いは、遼が私を気丈に支えてくれたことだった。


 「ママ、僕、お父さんと約束したんだ。「ママのことは僕が守るから」って」


 随分と頼もしい息子に成長したと思う。

 この一言が無ければ、私は夫の後を追っていたかもしれない。

 




 四十九日の法要も終わったが、私はずっと喪服のままでいた。

 納骨もしばらくはしないつもりだ。

 というよりも、墓には入れず、ずっと傍に置いておきたかった。





 その日はもう四月だというのに、季節外れの雪が舞っていた。


 「お母さん、「なごり雪」だね?」


 いつの間にか遼は、私のことを「ママ」ではなく「お母さん」と呼ぶようになっていた。

 

 その雪はエデンの園を追われたエヴァのために天使が花に変えた、「スノードロップ」の花びらのようだった。

 天国に召された夫が、残された私と遼のために、「俺は天国でしあわせにしているから安心しろ」とでも告げるかのように、雪待草、スノードロップを降らせてくれているのだと、私はそんな気がしていた。


 「お母さん、今度の日曜日、お父さんのお位牌を持って、一緒にお花見に行こうよ」

 「そうね、お父さんと3人でね?」

     


                 『Snow Drop(雪待草)』完


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【完結】Snow Drop(作品230521) 菊池昭仁 @landfall0810

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