第一部 第一章 わたしたちと魔法

第一節 生活と魔法

わたしたちは日常的に魔法を使っています。古代に原始魔術が各地で発明されてから古典派魔法学の誕生を経て、現代においては多くの人々が魔法を扱うようになりました。あなたの身の回りを見渡すと、じつに様々な魔法が使われていることがわかります。

この本には濡れても破れないように耐水魔法を施していますし、あなたの学校にある花瓶には壊れてももとに戻せるよう形状記憶魔法がかけられていると思います。その他にもぜひ探してみてください。農村部ならともかく、並の都市であれば、そこで使われる魔法は列挙に暇がありません。

また、魔法学を初めて学ぶ方のほとんどは、日常的な魔法であってもどのような原理で魔法を発動しているのか理解している方は少ないと思います。このことは、いかにわたしたちの生活と魔法が古い付き合いかを表しています。偉大な神が大地を作り、人間を作ったその時から人間と魔法は原理などを超えた結びつきにあるのです。

本書で学ぶ「魔法学」はこの「魔法」の原理や歴史を解明し、魔法を更に進歩させよう、という学問です。既存の魔法を分析すると、様々な事実が見えてきます。


第二節 「魔力」はどこから来るのか

魔法には「魔力」が必要である、という言葉は誰もが聞いたことがあると思います。実際に、魔力は空気中に散らばっています。わたしたちはその空気中にある「魔力」を利用して魔法を使っているのです。

しかし、わたしたちの使う魔法の多くは魔力を消費してしまうものです。わたしたちがある空間で魔法を使いすぎると、その空間の魔力は枯れてしまい、魔法を使うことができなくなってしまいます。ですが心配ご無用です。どの森にもあるような、いくつかの種類の樹木は「魔樹」と呼ばれ、魔力を作る働きがあるので何日かしたら魔力は少しずつ回復します。それに、今はそれよりも速く、大量に魔力を作り出す魔法が開発されているので、いざというときにも魔力を復活させることができます。

いずれにしろ、魔力はわたしたちが魔法を使う上で欠かせない存在なのです。


第三節 最も基礎的な「魔法」が発動される原理

それでは実際に、皆さんが初めて覚えると言っても過言ではない入門的な魔法「軽量化魔法」を例に、魔法学の世界に慣れていきましょう。

ご存知の通り、「軽量化魔法」は対象物を軽くする魔法です。この魔法を発動するのに、特別な道具はいりません。おそらくあなたは対象物に向かって手を伸ばし、「イメージ」として教えられてきた、あの感覚で魔法を発動して対象物を軽量化すると思います。

それでは、この「イメージ」の正体とは一体なんなのでしょうか。細かいことは第二章で触れますが、「イメージ」は信号に近いものです。式と言い換えてもいいでしょう。あなたが「イメージ」したとき、魔力にだけ作用する力が発生します。この力は、力の大きさや力を加える長さなどでいくつかの種類に分けられます。これらの力をうまく並べ替えることができると、しだいに一つのパターンをかたちづくります。

「集中しなさい」とよく言われたのは、実は「パターンを作るために」集中してイメージする、ということなのです。

さて、この「力」がパターン化されると力は信号となり、手を向けた先の対象物に伝わります。手を向けて、「イメージ」で力を作り、「パターン」に並び替えて「信号」を伝える。ここまでの過程をわたしたちは「魔法」と呼んでいます。

それでは、手から放たれた「力の信号」はどのように対象物に伝わるのでしょうか。

これも細かい理論は第二章で触れますが、簡単に言うと、「軽量化魔法」の場合、力が伝わる正体は「波」です。

池に石を投げ込むと波が起きます。その波は次第に広がり、石が大きかったり、池が狭かったりすれば向こう岸に波がぶつかりますね。

あなたの「イメージ」は石に例えられます。あなたが「イメージ」すると石が池に投げ込まれるように、空気中の魔力に力が加えられて魔力の波が起こります。ほとんどの場合、魔力はあなたの手から対象物までの空間に充満しているので、そのまま波は対象物にぶつかります。ぶつかった魔力の波は「信号」によって対象物を持ち上げようとする働きを持ちます。

これによってあなたが「軽量化魔法」を放った対象物を持ち上げたとき、その重量のいくらかを魔力が肩代わりしてくれるので物が軽くなるのです。


第四節 「物体浮遊魔法」は「軽量化魔法」の応用

ここで勘の鋭い方はお気づきかもしれませんが、「物体浮遊魔法」(これも基礎的な魔法の一つですね)は「軽量化魔法」と全く同じ「力の信号」を使って発動します。

「軽量化魔法」での魔法の働きは、物の重量を奪うのではなく「物を持ち上げようとする」というものでした。これをさらに強化して、物を完全に持ち上げられるだけの魔力を使った軽量化魔法が「物体浮遊魔法」の正体なのです。

では、より大きい力はどのようにして生み出すのでしょう。

これに限っては、練習あるのみ、と言えます。魔力に伝える力、言い換えると、池に投げ込む石の大きさは特別な方法で身につけるものではありません。「魔法に伝える力」を強くしたければ、戦士が重い槍を持つために筋肉をつけるのと同じで、鍛錬を積まなくてはありません。

ちなみに、物体浮遊魔法の力をさらに強化すると、物体を真上に弾き飛ばす魔法「物体垂直投射魔法」になります。この国ので一番の魔法の達人の記録では、1トンのおもりを王城で一番高い尖塔よりも高くまで飛ばすことができたそうです。


第五節 「軽量化魔法」の発動方式は他にもある

軽量化魔法の発動方式は何も「魔力に持ち上げさせる」方式だけではありません。詳しい仕組みはまた機会があれば紹介しますが、この他にも

「対象物の下だけ重力を小さくする」

「魔力で見えないクレーンを作って吊り上げる」

「対象物の密度を一時的に下げる」

「物体に含まれる空気を空気より軽い気体に置き換える」

などの方式があり、それぞれ状況に合わせて使い分けられます。ですが最も使い勝手がいいのはやはり「魔力に持ち上げさせる」方法だと思います。




コラム 単位の名付け親は誰?

長さで言うと、ミリ、センチ、メートル、重さで言うと、グラム、キロ、トン。これらの単位は百数十年前に我が国で作られ、国内外多くの場所で共通の単位として用いられています。単位の名付け親は誰なんでしょうか?

長さの単位、センチとメートルは初めて我が国の地図を作り上げた地理学者、セント・メーター博士が由来になっています。彼はこの単位を用いて正確な地図を記しました。

ミリはセンチ、メートルよりも後に、王城時計台の設計を担当したことで有名な「偉大な時計屋」ことミリ氏にちなんでいます。ミリ氏は精巧な時計を作ることで有名で、時計を作るにはセンチの単位は大きすぎるとして独自の単位「ミリ」を作りました。彼が晩年に制作した時計は今の技術でも再現不可能と言われているほど精巧です。

重さの単位グラム、キロ、トンは魔法学者のグラマ・キロトン博士が考案しました。当時王城で正式採用されていた手持ち用の杖は今よりも重く、その杖の重さを1キロとして1000キロを1トン、1000の1キロを1グラムとしました。このように重さを統一したことでキロトン博士は魔法の研究を効率的に進められたと言われています。

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ヴェリタス魔法論序説 本気で異世界小説をつくる人 @WMA

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