始まり
登校する。勉強する。昼休みに弁当を持ち寄って友だちと駄弁る。部活で汗を流す。家に帰る。
僕にとっての学校だ。細かい内容はどうでもいい。重要なのは繰り返していること。
退屈だけど、安定していて、平穏を保っている。
最初こそ、中学校という新たな舞台に胸を躍らせていた僕たちにとって拍子抜けな毎日だったが、直に慣れた。
【慣れ】というのは恐ろしく、あんなに嫌っていた繰り返しの飽きさえも今となっては、まるで無くてはいけない大事な“青春”の1要素と思える。
僕は【小学生】から【中学生】になっていた。
だから、都合が悪いのだ。
彼が話しかけてくるのは。
僕にとって彼は、もう繰り返す平穏の中にいない。
平穏を脅かす異常だ。
ほんの僅かな時間だった。
授業と授業の間に設けられた。教室の移動や次の授業の準備のためだけの10分間の休み時間。
理科室へ向かおうと廊下に出たら、彼が居た。
彼は僕を見ていた。小学生来の友と久方ぶりの語らいをする事に緊張でもしているのか?はたまた自分を裏切り中学生を満喫している僕に腹を立てているのか?
わからない。その顔には何も浮かんでいない。
よお。と声をかけてくる。
あ…おぉ。なんてぎこちない返事を返すものだから相手もバツが悪そうだ。
周りのオタク達に救いを求めチラリと見るが中学1年にしては身長が高い彼に気圧されたか、さっさと僕を置いて行ってしまった。
ほら、やっぱり彼は僕の平穏を乱してしまう。
今更何を話すのか。僕がなにかしただろうか。そもそも何故今なのか。様々な事が疑問として浮かび上がるが、どれもしっくりこない。
今この場面の話し始めとしては落第だ。
あれでもないしこれでもない。と頭をひねっているのは彼とて同じだ。
周りから見ると廊下のど真ん中で見つめ合う謎の男子二人だ。
しかも、これまで接点もないように思われているだろう。奇異の目で見られるのは当然だ。誰か助けてくれ。
膠着状態を破ったのは彼だった。
「昨日のゾルディア、見たか?」
ゾルディア、アニメだ。今熱いロボアニメ。
は?おいおいどうした。なんでお前が僕にそんな話を振る。確かにそこそこ有名なアニメであるがそれはオタクの間でだけだ。
まさか彼まで中学に上がるのを機にオタクデビューしたのか?もしかすると僕が最近アニメの話題をオタクどもとよく話しているのを聞いていたか?
「いや、見てないけど」
残念ながら見ていない。アニメは好きになったし、話についていくために調べはするけど僕はファッションオタクだ。全部を確認して逐一最新話に目を通すなんてことはしない。今しがた逃げていったガチヲタ達はもれなく全員チェック済みだと思うぞ。その手の話がしたいならあっちだ。
「そっか…」
彼は残念そうな顔、というにはいささか大げさな、まるで希望が絶たれたとでも言わんばかりに落胆する。
「ごめん、そういうの好きかと思って話しかけちゃった」
「は、はぁ…別に謝らなくていいけど…」
再度、僕と彼の間に沈黙が流れる。
なんだコイツは。僕らは友達だったのに何を遠慮してるんだ…?
…それは僕も同じか。
もしかすると彼も僕と久しぶりに話したかったとか?
「あのさ、それ面白いの?」
緊張を残しながらも、できるだけ当時のように気軽に…かは分からないが質問してみた。
「…すげぇ、面白かったよ」
ぎこちないながらも返答する彼の顔は喜びを噛み殺しきれずに変なニヤケ面だった。思わず吹き出してしまい、汚いな!と彼が大げさな反応を見せる。
そこからは、内容は覚えてないけど昔が蘇ったみたいに色んな話をした。急に距離が空いて寂しかっただとか、やっぱり一番話してて楽しいとか、あの時は裏切られたと思ってしまったんだとか、気恥ずかしい事まで赤裸々に。
二人して授業に遅れたのはご愛嬌だ。
くだらない僕の自分語り 筒井 晶 @4425245
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