第64話 悪役とヒロインたちの物語


「はい。間違いなくワイバーンの牙と爪ですね」


 無事にワイバーンを討伐した俺たちは、その素材を持ち帰って冒険者ギルドに帰還していた。


 冒険者ギルドにいたレミさんにワイバーンの素材を渡すと、レミさんは安心したように笑ってから、言葉を続ける。


「では、勝負はロイドさんたちの勝利ということで」


 俺たちの勝敗の結果を受けて、冒険者ギルド内が少しだけ明るいざわっとした声に包まれる。


 俺はその声を聞きながら微かに口元を緩める。


 まぁ、あくまで俺以上に嫌われているケインたちの敗北に湧いているだけだろうけどな。


 俺はそんな事を考えながらも、冒険者ギルドの空気に当てられて、嫌な気分はしなかった。


「ちょっと! いい加減この状況について説明しなさいよ!」


 しかし、そんな俺たちに対して、ケインたちは暗い顔をしていた。


 レナは手枷をされて憲兵に両腕を捉えられている状況だというのに、体を揺すりながらそんな言葉を口にしていた。


 他の『竜王の炎』のメンバーも同様に手かせをはめられながら、不満げな顔をしている。


 レミさんはそんなレナをちらっと見て、冷たい目を向けてから言葉を続ける。


「奴隷商がすべて吐きましたよ。他の犯罪についても、続々証言が上がっている所です」


「はぁ? 仮にそうだとしても、捕まるのはケインだけでしょ?!」


「え? いえ、普通に主犯が皆さんだったので、皆さん捕まりますけど」


 レミさんが当たり前のようにそう言うと、レナが眉間に皺を入れながらケインの方に振り向く。


「はぁ?! ケイン、あんた私たちを巻き込んでたわけ?!」


「い、いや、巻き込んでいたというよりも俺は『竜王の炎』として色んなことをやっていただけだって」


「な?! 何をどうしたらそうなるのよ?!」


 それから、ケインは言い訳のように色んな事を話した。


 その話をまとめると、ケインの名前では馬鹿にされてしまうから、『竜王の炎』の名前を使って色んな悪事を働いていたらしい。


 どうやら、ケインという名は『竜王の炎』のパシリという印象が強かったらしく、『竜王の炎』の総意として悪事を働いていたということにしたらしい。


 そして、その後のレミさんの話によると、証拠隠滅にも粗があって、一見発覚した後は芋づる式で他の悪事の証拠も見つかったとのこと。


多分、ロイドほど悪事をすることに慣れていなかったせいで、そこら辺が疎かだったのだろう。


 どうやら、レナたちが思うほどケインは担ぎやすい神輿ではなかったようだ。


「はぁ、なんであんたなんかに期待したかな? マジで使えなさすぎるんだけど、こいつ」


「そ、そんなこと言っても仕方がないだろ。な、なぁ、レナさえ良ければ、俺とどこかでやり直さないか?」


「はぁ? あんた『支援』のスキルも奪われたんでしょ? そんなあんたと一緒にいて何の得があるのよ。馬鹿じゃないの、力のないアンタなんかに興味ないっての」


「そ、そんな……」


レナにバッサリと言われたケインは、力なくうな垂れる。


 そして、ケインたちはそのまま憲兵たちに腕を引かれて冒険者ギルドを後にしたのだった。


 とりあえず、これで一段落かな。


 俺はいまいちすっきりしない気持ちを抱えながら、ケインたちが連れていかれた扉を見て、小さくため息を吐く。


 すると、ケインたちがいなくなってからアリシャがちらちらっと俺を見てきた。


「えっと、ロイドさま。穢れた者との勝負は、ロイドさまの勝利ということで終結ですよね?」


「ん? ああ、そうなるな」


 アリシャがなぜか照れた様子で俺を見上げていたので、俺は首を傾げる。


 どこかに照れる要素とかあったか?


 俺がそんなことを考えていると、アリシャが意を決したように頷いてから俺を見つめる。


 アリシャの頬は朱色に染まっており、キュッと閉じた唇が妙に色っぽい。


「ロイドさま。あの、これからよろしくお願いします!」


 そして、アリシャはそんな言葉と共に、突然俺にぎゅっと抱きついてきた。


 甘い香りに鼻腔をくすぐられて、俺は体が固まる。


「え?! あ、アリシャ?!」


 俺が突然の事態に驚いていると、アリシャは可愛らしく首を傾げる。


「ロイドさま? なんで驚いているんですか?」


「な、なんでも何も、行動が突然過ぎるだろ!」


 俺の前ではずっと大人しいキャラのはずだったよな?!


「ロイドさま、私を貰ってくださるんですよね?」


「も、貰う?」


 俺がアリシャの言葉の意味が分からずに首を傾げると、アリシャはニコッと笑みを浮かべる。


「勝負に勝ったら、私を貰ってくださるとおっしゃってくださったじゃありませんか。あの時から、私は心の準備をしておりました」


「しょ、勝負? 貰う?」


 俺はアリシャの言葉から過去の発言を思い返す。


『俺が勝ったら、アリシャは俺たちがもらう。逆に俺が負けたら、俺がおまえのパーティで荷物持ちでも何でもしてやるよ。アリシャの代わりにな』


 そういえば、ケインたちに勝負を吹っ掛けるときにそんなことを言った気がする。


 もしかして、アリシャはそのことを言っているのか?


「いやいや、あれって俺たちのパーティにって意味だから!」


「ロイドさま。今までの分も強くぎゅっとしてください」


 俺がそう言っても、アリシャはお構いなしといった様子で俺に強く抱きつくと、頬を俺の体にすりすりとさせる。


 今までの分?


 ……そういえば、アリシャは俺がリリナを撫でている間、ずっと何か遠慮している感じがあった。


 なんか色々終わってからで大丈夫的なことを言っていたが……それって、勝負が終わったらということだったのか?


なんだろう。なんか全てが繋がってきたな。


「だめ! ロイドさまにアリシャの臭い付けないで!!」


 リリナは俺の隣でしばらくプルプルと震えた後、俺とアリシャを引き離そうと強引に体を入れてくる。


 しかし、アリシャも負けじとプルプルと震えながら俺の体に顔を埋めている。


なんだ、この状況は。


「……ロリコンだ」


 どっかかから聞こえてきた言葉に俺が勢いよく振り向くと、周囲にいた冒険者たちは俺からバッと視線を逸らして知らん顔を決める。


 俺は周囲にもリリナにもアリシャも強く言うことができず、ただ発散でいない感情を堪えることしかできなかった。


 こうして、この日を境にロイドにはまた一つ悪評が加わった。


『竜王の炎』の元リーダー、ロイドはロリコンであると。


 そして、それと同時に悪くない噂も流されることになる。


 ロイドは悪くはないロリコンであると。


 傍から見れば、その両方が悪口と思われるかもしれない。


 しかし、悪い噂が絶えないロイドにとって、その噂は珍しく悪くはない内容のものだった。


 これまでロイドのしたことを考えれば、ロイドの悪評はすぐに撤回されるものではない。


 しかし、今回の一件を境に、街の人からのロイドの評価は少しだけマシなものになるのだった。


 それを本人が知るのは、ほんの少し先のことになる。


 ロイドはこれからもアニメの世界で生きていく。


 時に助けたヒロインから主人公と間違えられながら、この物語の悪役として。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

以上で本作は一部完結となります!ここまで読んでいただいて、本当にありがとうございました!

感謝しかないです(´▽`)

【作品のフォロー】、【評価☆☆☆】で応援してもらえると嬉しいです!

※評価は作品画面の下にある『おすすめレビュー』の『☆で称える』から行うことができます!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

追放系の悪役パーティのリーダーに転生したので、ざまぁされる前に自分を追放しました。~スキルを奪う『スティール』って悪役過ぎるけど強すぎる~ 荒井竜馬 @saamon_

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ