第45話(最終話) 最後までドスケベかよ!

 それからもおれたちは各地を転々としていたが、クローディアが連絡を取っているらしく、ちょくちょく客が来るようになった。


「アラン様、貴方の力を見込んでお願いがあるのですけれど……」


「いいのかシンシア、聖女が悪魔の力なんて頼って」


「他に手がないのです! 私を……私の若さを延長してください!」


「はい?」


「だってリュークくんの成長に比べ、私は3倍も早く老けてしまうのですよ! 憧れの聖女のお姉さんで居続けなければ、いつか捨てられてしまいます! そんなのイヤぁあ~!」


「……まあ、お前がいいならなんとかするけど」



   ◇



「元気そうだな、アラン」


「ランドルフ? わざわざこんなところまで、どうしたんだ?」


「ベシルデモがお前の様子を見たいと駄々をこねるのでな」


 ランドルフの鞄から、ひょこ、と顔を出して、ベシルデモが歩いてくる。どうやら元の姿そっくりの人形を作ってもらったようだ。なぜか衣装は、フリルたっぷりの可愛らしいものだったが。


「……ちっ、まだ人の心を保っているのか」


「秘策があるんでな。お前の思うようにはならないさ」


「ふん、いつまで保つか楽しみだ」


「というかお前、その衣装は着せられたのか? それとも自分から――」


「聞くな」



   ◇



「……ちっ、まだ人の心を保っておりましたか」


「カナデ……出会い頭に大悪魔と同じこと言うなよ……」


「世界の脅威と立ち合えるかもしれないのです。期待して当然でしょう」


「しないでよ、そんな期待。殺し合いじゃない試合なら、普通に受けるからさ」


「はて、殺し合いじゃない試合?」


「なんで意味わかんないみたいな顔すんの。練習試合だよ、わかってるでしょ」


「物足りないですが……まあいいでしょう。さっそくご指南いただきましょうか!」


 表に出て立ち合ったのだが、練習試合だって言ってるのに真剣で全力でかかってきたので、悪魔の力全開でボッコボコにした。


「くっ、ご指南ありがとうございました……ッ! また来ます!」


「来るなって言っても来るだろうから、次は竹刀とか木刀とか持ってきてよね!」



   ◇



「なあ腹減った、なんか食いもん出してくれよ。悪魔の力なら無限に出せるだろ?」


「ウォル……。会いに来てくれたのはいいが、いきなりそれはないだろ」


「いーやアラン、おめーには責任を取ってもらわなきゃなんねーんだよ。モステルが襲われなくなったのはいいけどよ、平和すぎてぶっ殺す相手がいねーんだよ。ツケばっかり溜めちまって居心地が悪いんだ」


「そうか……。なら、いっそ体質を変えるか? 今のおれなら、お前の食欲を常識的なレベルにしてやれると思うんだが」


「よせよ。あたい、この体これでも気に入ってるんだぜ。こんなだからメシは美味えし、敵をぶっ殺すのも気分がいーんだ。不便だからってよ、無理に矯正するのはそいつを殺すこととおんなじだぜ?」


「それは大袈裟じゃないか?」


「いや考えてみろよ、食欲のないあたい、ドスケベじゃないクローディア、戦闘狂じゃないカナデ。どいつもこいつも普通になったら物足りねーだろ?」


「……そうなると、ウォルはただの喋るスライムだし、クローディアはただの美人で巨乳の欠点のない完璧な聖女だし、カナデはただの女侍か……。いやカナデはそのほうがいい気もするけど……まあ、どれも別人になってしまうな」


「だろ? ありのままを受け入れるのが一番なのさ。ってなわけで、さっそくいっただきま~す!」


「って待て待て待て! 家を食うな、まだ新築なんだよ! 食事は出すからちょっと待て!」



   ◇



「今日はリュークとアイリスか、久しぶりだな」


「アイリスじゃねえ。ブルースだっつーの」


「まあまあ姉さ――じゃなくて兄さん。今日はお願いしに来たんだから」


 リュークが宥めると、アイリスはむぅ、と口をつぐむ。


「頼み事? シンシアとの関係か?」


「いやボクじゃなくて……。ほら、兄さん」


「お、おう。その……オレとセシルの性別、交換とかできねーかな?」


「ん? なんのために?」


「いやオレ……セシルとは、そ、そろそろいいかなって思ってるんだけどよ……。初体験では、オレのほうが攻めたいっていうか挿れたいっていうか……」


「……それ、セシルに相談は?」


「できるわけねーだろ。いや、ダメならいいんだ。べつの手を考えるからよ」


 べつの手……。


 それはあれか。お尻の穴を使う的なアレか。流石に初体験でそれはセシルが不憫だ。


 いや、どっちもどっちだけど、比較的マシなのは……。


「わかった。魔法薬をやるよ。性別変更の効果は一ヶ月だ」


「マジか! ありがとう!」


 頑張れよ、セシル……。


 おれは無言で親友の健闘を祈った。



   ◇



「おっ、来たかセシル。久しぶりだな」


「久しぶりって、君! ぼくにだけ別れの挨拶もしないで消えるなんてひどいじゃないか! 一番付き合いの長い親友なのにさ!」


「いやあ、また止められそうだったからな」


「そりゃ止めるよ。君を犠牲にしたくないんだから! ……って、思ってたけど、なんだか普通にやってるみたいで安心したよ」


「まあな、クローディアのお陰だよ。つっても、お前もそうだけど、みんな遊びに来すぎじゃないか? おれ一応世界の脅威なんだぞ? 追う側の代表みたいなお前らが仲良くしてるんじゃ、演技でやってるってバレちまう。せっかくの平和も台無しだぞ?」


「それは――」


 セシルは、軽く笑った。


「――こっそりなら平気でしょ。バレそうになったら口裏を合わせて、戦いを演出しよう」


 似たセリフをどこかで聞いた気がする。追放されるとき、おれが言ったんだっけか。


「お前も言うようになったな」


「ま、世界を騙す片棒を担いでるからね」


「とはいえ、みんな悪魔の力を頼りに来過ぎな気がするけど」


「一応、ぼくもダメだよーって言って回ってるんだけどねー……」


「そういや、アイリスとの仲はどうだ?」


「あはは、順調かな。この前、ハプニングがあったけど」


「へえ、どんな感じだった?」


「まあ……ちょっと痛かったけど、ふわふわして割と気持ち良か――って! その反応、さては君の差し金だな!?」


「違う、あれはアイリスに頼まれたんだ!」


「このっ、君は相変わらずだな! 普通は頼まれてもやらないんだよ! 初めてだったのにさぁ! この悪魔ぁ!」


「あれはお前のためでもあったんだよ!」


「なんだよそれ、もう!」


「……すまん。ただ、次の覚悟もしておいてくれ。アイリスがハマってしまったらしいんだ」


「え……し、しょうがないな……。まあ、たまにならいいけど……」


 おい、なんで顔を赤らめる。


 もしや、こいつもハマった? いや性癖にツッコむのはよそう。


 そんな風にしばらく談笑してから、セシルは明るく笑った。


「でも……本当に君が元気そうで良かったよ」


「ああ、おれもみんなが楽しそうで嬉しいよ」


「じゃあそろそろぼくは行くよ。クローディアさんも、お元気で」


 おれとクローディアは並び立ってセシルを見送る。


 姿が見えなくなってから、クローディアはおれの腰を抱いた。


「この平和がいつまでも続くといいですね」


「うん。みんなが来てくれるから賑やかだけど、おれは君とふたりきりでも、充分すぎるくらい幸せだよ」


 するとクローディアは意味深に笑い、自分のお腹に手を当てた。


「ふたりきりの時期も、もうすぐ終わってしまいますけれど」


「それって……クローディア!?」


「はい。できちゃったみたいです」


「お、おおおっ?」


 おれが喜び、うろたえ、でもやっぱり喜んでいると、しかしクローディアは少しばかり顔を曇らせた。


「ですがしばらくエッチがお預けになってしまうのはつらいです」


「いや最後までドスケベかよ!」


 平和の空に、おれのツッコミが響くのだった。




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勇者に追放された卑怯者のおれ、魔王は倒したいのにおかしい奴ばかり仲間になって困ってるんですけど 内田ヨシキ @enjoy_creation

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