第32話
「ひかえー! ひかえー! 国王陛下のお通りであらせられるぞ!」
王宮近衛騎士団隊長マーモルが、叫ぶ。
白銀の甲冑に身をつつんだ近衛騎士団が、あとにつづく。
「早く下がれ! 道をあけんか!」
近衛兵士たちが、民衆を容赦なく押しのけていく。
近衛兵士に押された勢いで、
「きゃっ!」
小さな幼女がころんだ。母親が必死で抱きおこす。
「おい、そこの母子! 国王陛下の馬車の前で転ぶとは何事か!
「あっ!」
近衛兵士の一人が、母親の頬を強くぶった。
「うう……」
母親が、痛そうに赤くなった頬をおさえた。悲痛な表情になる。
近衛騎士団の隊列に続いて、馬車が、ゆっくりと進んでくる。成金のような趣味のわるい金ピカの馬車だった。
「陛下バンザーイ……」
整列させられた民衆たちの声は、驚くほど小さい。まるで棒読みだ。
「なんだ、その小さい声は!」
マーモルが剣先を民衆に向けて突きだす。「もっと大きな声をあげよ! 不敬罪で牢獄にいれるぞ!」
民衆を怒鳴りつけるように、大声をあげる。
「陛下バンザーイ!」
声は少しだけ大きくなったが、心がこもっていないのは明らかだった。
「そこの商人! なぜ頭を下げぬ!」
近衛兵士の一人が、露店の老人をにらみつける。
「はっ、申し訳ございません」
老人が必死でお辞儀をする。が、膝が悪いらしく、うまく屈められない。
「このクソジジイが!」
近衛兵士が老人を蹴りとばす。
「うぐっ」
老人が地面に倒れこんだ。
「やめろ! 父さんを!」
息子らしい青年が駆け寄ろうとするが、別の近衛兵に倒され、地面に押さえつけられた。
「陛下の御前で騒ぐとは何事か!」
「父さん……」
青年は歯ぎしりした。近衛兵に頭をおさえつけられ、地面に額をすりつける。
金ぴかの馬車が、ゆっくりと老人の前を通りすぎていく。
「フン、愚民どもの礼儀作法の乱れは目にあまる」
マーモルが鼻を鳴らす。「近衛兵たちよ、もっと厳しく
「「「はっ!」」」
近衛兵たちは、さらに荒々しく民衆たちを押しのけはじめた。
「なぜ頭をさげぬ!」
「もっと低く頭を下げろ!」
「陛下に背中を向けるとは何事か!」
近衛兵たちの怒号が、大通りに響きわたる。
「このままでは商売にならんな……」
「早く通りすぎてくれんかのう……」
民衆たちの不満のひそひそ声が、あちこちからわきあがる。
国王の馬車は、そんな声など耳に入らないかのように、ゆっくりと進んでいく。
「陛下! 陛下!」
先頭を走る馬上の男がさけぶ。
「工兵隊長バーク・ダン、ただいま戻りました! 陛下にお目通りを!」
「むう?」
マーモルが手をあげ、行列を停止させた。
金ぴかの馬車から、ショージ王が姿を見せる。
「バーク・ダンか。準備は終わったか?」
国王の目が
「はい!」
バーク・ダンは馬から飛び降りると、国王に近づく。両手で小箱を捧げるように差しだした。「陛下、これをどうぞ」
「ふむ」
国王は箱を受け取ると、ゆっくりと蓋を開けた。
箱の中央には、たった一つの赤い押しボタンがついてある。
「なかなかいい出来だな」
国王が、にやりと笑う。
「はい。爆薬を爆発させる遠隔操作の爆破スイッチでございます。最新の魔法技術を用いております」
言って、バーク・ダンが頭をさげた。
「これはいい……、ククク……」
ショージ王の笑い顔が、残虐さをおびた。
「陛下! 緊急事態でございます!」
突如、一人の兵士が駆けよってきた。
「なにごとだ? 騒々しいぞ。わたしが気分をよくしておるというのに」
ショージ王が不機嫌そうに言った。
「はっ、それが」
兵士が地面に
「なに!?」
ショージ王の目が見開かれる。
「オートン等をとりおさえるために、現在、召喚術士隊がケルベロスを、けしかけております」
「場所はどこだ?」
「ほんの数百メートル先の広場でございます」
「そうか……。これは見物に値するな。案内せよ」
ショージ王は馬車から降り、歩きだした。
「陛下、お供いたします」
馬をおりたマーモルたち、近衛騎士があとに続く。
「オートンめ、今度ばかりは逃がさんぞ!」
ショージ王は上機嫌で足を進めた。
しかし、その笑みは長くは続かなかった。
「陛下! 大変です!」
新たな伝令が駆けつけてきた。「召喚術士隊が劣勢でございます。オートン伯があまりにも強すぎて……!」
「ふん」
ショージ王は手にしていた爆破スイッチを見つめた。
「とりあえず、早々にこっちを始末しておくか」
その目が、あくどい輝きを見せる。
「さらばだ、愚かな兄上よ」
赤いボタンに、ゆっくりとショージ王の指が近づいていく。
カチッ。
──その瞬間だった。
ドドーーーンッッッ!
耳をつんざくような爆発音が、王都の空に轟きわたった。地面がゆれ、窓ガラスがふるえる。
東の空に、黒い煙が立ちのぼるのが見えた。
「うはははははっ!」
国王が高笑いをあげる。「これで、兄上との面倒な約束からも解放された。ああー、愉快だーっ!」
ショージ王が、更に進む。オートンとプリディが見えるところまでやってきた。
「わははははっ!」
多数の近衛騎士団に守られながら、楽しそうにショージ王が笑い声をあげる。
「プリディ、オートン、あきらめるがいい!」
ショージ王が高らかに言った。「兄がとらえられている
そのときだった。
カタンッ。
とつぜん、ショージ王の背後にあった、道端の排水溝の蓋がひらいた。
ゴソゴソ。
排水溝の穴から一人の中年男があらわれた。
男は地面を踏みしめると、周囲をみわたした。
「なっ……」
「あなたは……」
周囲の近衛騎士たちが、愕然となって動きをとめた。
男は、だれあろうアノニマスである。
いや、本当のその正体は、国王の兄であるチャークシ公その人だった。
ショージ王は大声をだしていたので、すぐ後ろでそのようなことが起こっていることに気づいていない。
ショージ王は、遠巻きにしている民衆たちを見て叫んだ。
「みなのもの! わが兄は死んだ! 民衆から税金を
ショージ王が勝利を確信した高笑いをする。
しかし、民衆の反応がおかしい。
「どうした、皆のもの?」
民衆のおかしな反応を見て、ショージ王が
「「「うしろー、うしろー!」」」
民衆たちがショージ王の背後を指さした。
ショージ王が振りかえる。
すぐ後ろにチャークシ公がいた。
「ぎょえええええっ!」
ショージ王が悲鳴を上げた。
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伯爵次男に転生し、最強SSS魔王《ラスボス》となり破滅フラグを折りまくる 眞田幸有 @yukisanada
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