5.もこもこふわふわな妖精

 屋台の内側に入って、お手製の饅頭をお茶うけ――なお『お茶』は雑草スープである――にいただきながら、サトルはメリーとの出会いを話した。


 一通り頷きながら聞いたアマンダは、改めて雑草スープに口を付けて唸った。


「へえ、モンスター娘の素材がねえ」


 もくもくと饅頭に舌鼓を打っているメリーをしげしげと眺めて、ふとアマンダは、あっと声を上げる。


「それじゃあ、メリーちゃんにうちの饅頭を食べさせるのはまずいんじゃないかい? 貴重な唾液に雑味が混ざったりしたら大変だ」

「その辺りは大丈夫だ思うよ。俺もそう思って『素材解析』をしてみたけれど、あの味こそがメリーの性質で、これから何か変わったりすることはないみたいだ」


 そう伝えると、アマンダはほっとしたように胸を撫で下ろした。

 ……かと思うと、がばっと飛び起きて、おばちゃん特有の興奮気味なお喋り顔に変わる。


「なあサトル、あたしからは何か素材が取れないのかい!?」

「……はい?」


 サトルはきょとんとした。この人はいったい何を言っているのだろうか。


「いやね、はす向かいの肉屋のジジイなんかがね、あたしのことをバケモノって呼ぶからさ。だからもしかしたら、あたしもモンスター娘だったりしないかなって!」

「…………」

「ピチピチだよ!?」

「ええ、美人なのは認めますけれども」


 おばちゃんパワーに気圧されて、サトルはたじたじになった。

 ピチピチだよ、の時にアマンダがとったセクシーポーズを、メリーが興味津々な顔で真似しようとしているのが気にかかる。変なものは憶えちゃダメだと後で教えておこう。


「まあそれは冗談として」


 手をパンと打ち合わせて、アマンダが立ち上がった。


「あんたがこれで店を開きたいってのは分かった。あたしとしても応援したい。――というわけで、これから服を買いに行くよ!」

「なんで!?」


 反射的に叫んでから、サトルははたと思い直した。


「……ああいや、そうか。エプロンとか必要になるよな」


 そういえば、この世界では飲食店の認可とかどうなっているのだろうか。露店を覗く感じでは、現代日本レベルの衛生管理は求められていないように思えるけれど。

 ぶつぶつと可能性を考えていたサトルだったが、しかし、アマンダはあっさりと「あんたのじゃないよ」と手を払った。


「メリーちゃんの服に決まっているだろう」

「メリーの服については考えていたけれど、店とは関係なくない?」

「バカだねあんた、看板娘が必要でしょうが。あたしの行きつけに良い店があるから、そこに行くよ」

「えっ、アマンダさんの……?」

「何か文句あるかい!?」


 ギロリとひと睨みされ、サトルは「ナンデモナイデス……」と縮こまる他なかった。






 おばちゃんセンスの派手な服にならないことを祈ることにしよう。

 そんなサトルの思惑は、数十分後に打ち破られることになった。


「ど、どうでしょうか、マスター……?」


 試着室から出てきたメリーはまさにモコモコフワフワな羊の妖精に変身していて、サトルは思わず見惚れてしまう。


 フードを被れば大きな毛玉になってしまいそうな可愛さだ。それでいてインナーには元々着ていたものに近いデザインのスカートを取り入れており、柔らかさの中にしゅっとした清楚さが混ざっている。

 身長の高い女性が着れば、下手すればキツイキャバ嬢のようになってしまいそうなそれも、小柄なメリーが着ることで丈がぶかっとなり、もこもこに埋もれる天使のようだ。


 メリーはもじもじと顔を赤らめて、上目遣いに答えを待っている。


「めっちゃ可愛い……!」


 言葉を失いそうになるのに必死で抗い、感想を伝える。


「あ、ありがとうございます!」


 ぱあっと表情を明るくした羊の妖精は、その仕立て人であるアマンダと店員さんとハイタッチを交わして喜んでいる。


「ありがとうアマンダさん。ここのお代も、すぐに返せるよう頑張るよ」

「いいっていいって、これは餞別さ。さっきうちで食べた饅頭代だけ払いにきてくれればいいよ」


 半ば叩くように背中を押してくれたアマンダに、サトルとメリーは、改めてお礼を言うのだった。






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異世界モン娘喫茶~【料理】スキルでモンスターが美少女化!?しかもモンスター娘の体液(そざい)は極上のスパイス!?第二の人生は幸せハーレムスローライフ!!~ 雨愁軒経@ライト文芸大賞「"命の輝き"賞 @h_hihumi

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