第2話 巨大ロボット、唐突に出撃!

正義の味方の必需品



 巨大ロボット




 幸いなことに、宇宙船にはこれが一体だけ存在していた。


 俺はこれに「仰天ロボ」と名付けた。


 ちなみに宇宙船は「仰天号」だ(残念なことに、つぶれた船首にドリルはない)



 そして、巨大ロボットを手に入れた悪への報復が始まった。



 ラジオで聞いた「勝ち組」という悪の組織を退治すべく、俺は仰天ロボに乗り、悪の枢軸「六本木ヒルズ」へ向かった。


 途中、悪の組織の手先になった自衛隊の戦闘機に襲われたが、悪の手先が正義の巨大ロボに傷つけられる訳ねぇだろ!


 襲い来る戦闘機を次々となぎ倒し、俺は拾った日本地図片手に六本木へ向かった。


 ……いかん。夕日は東だから、今、俺は西に向かっていたんだな。


 えっと、東京だから南南っと。



 『ホテル1撃墜されました!』


 『ストレンジャー1、進路変更!このままでは東京に向かいます!』


 『入間の高射砲連隊に迎撃許可を出せ!』


 『墜落した戦闘機により、各地に甚大な被害が出ています!』


 


 高速道路にそって飛んだのが幸いした。


 東京まであと60キロ。


 


 それは突然のことだった。



 ガンッ!



 仰天ロボを貫いた激震は、そのまま仰天ロボを高速道路へとたたきつけた。


 


 事故で渋滞していた車がクッション代わりになってくれたおかげで仰天ロボに被害はない。


 


 さすがは正義のロボだ!!



 「誰か!誰か助けて!」


 「救急車!誰か救急車を!」


 「うわぁぁぁぁっ!俺の、俺の腕がぁぁぁっ!」


 「車に子供がぁぁぁぁっ!」



 


 炎上する高速道路を挟んだ先。そこには黒い巨大ロボがいた。


 醜悪な機体。


 悪の組織の巨大ロボに違いない!


 おのれ!



 『―――のパイロット!聞こえているな!?』


 どこからか、声が聞こえてくる。


 『ロボットのパイロット、聞こえているな!?』


 おう!聞こえているぞ!


 『貴様、どういうつもりだ!?そのロボットで東京に攻め込むとは!』


 俺は正義を実行するだけだ!


 悪は去れ!


 『ここまで被害を出しておいて、何が正義だ!』


 正義に犠牲はつきものだろう!?


 『どこぞの大統領みたいなことぬかすな!正義の味方「トリプテック」が貴様を討つ!』


 何!?


 悪の組織が正義の味方を騙る?


 許せん!


 


 激情のままに、俺は仰天ロボで敵に殴りかかった。


 オラァッ!


 フックだボディだチンだアッパーだ!―ちいっ!やりやがったなぁ!?


 


 『そのセリフって……貴様、今いくつだ!?』



 うるせぇ!俺は花も恥じらう18歳だ!



 『いくつごまかしている!?』



 作者じゃねぇんだ!


 ピーチボーイの俺様をジジイと見間違えるたぁ、どういうメンタマしてやがる!


 コクピットから引きずり出して、その目ん玉をえぐり出してやる!


 


 敵は仰天ロボの相手ではない。


 何しろ、この仰天ロボは俺のケンカ殺法をそのまま再現できる驚異のシステムが搭載されている。


 素人や武道家にケの生えた程度の素人や、まして悪の手先に負けるはずが―――!!



 『―――ちぃっ!』


 ブンッ


 ほう?悪のクセにやりやがる。


 俺は仰天ロボの上半身をひねらせ、敵の鋭い一撃を避けた。


 やりやがる。


 楽しいじゃねぇか。



 『本部!敵はかなりの実力を―――え?』


 敵の動きが止まった。


 何油断してやがる!


 ガキッ


 敵の腕を掴むと、力任せに放り投げた。


 いくつものビルを巻き込んで地面に倒れる敵ロボ


 


 見たか!?



 「うわぁぁぁぁぁっ!!」


 「助けてぇぇぇっ!」


 「逃げろ!俺にかまわず逃げてくれぇぇぇっ!」


 「あなたぁ!」


 「娘を、娘を頼んだぞぉぉぉっ―――ギャァァァァッ!!」



 


 『な、何が使われていると!?』


 敵は俺と仰天ロボの強さに驚いているらしい。


 『な、なんでそんなものが!?』


 俺は動かない敵にとどめをさすため、敵に馬乗りになった。


 コクピットのハッチは―――ここか。



 『おいっ!』



 敵の声はせっぱ詰まっている。



 今更、命乞いか?


 遅いねぇ。


 英語で言うと、トゥーレイト。


 遅すぎ。



 『き、貴様!そのロボット、動力は何だ!?』


 


 ああん?


 聞いて驚け。





 俺も知らね。






 『ふ、ふざけるな!マジメに答えろ!』


 


 だから、知らねっつってんだろぉ?


 仰天号のコンピュータが「地上で仰天ロボのエンジンをパワーアップさせることが出来る唯一のエンジンなんとか」っていうからよ?発電所行ってもらってきたんだよ。



 『貴様か!?貴様が三原原発の――』



 ああ。そんな所。


 ったく。悪の組織もレベルアップしてやがって、自動小銃までもってたぜ?


 全員血祭りだけどな。



 『改良型超高出力小型原子炉を盗んで、それからどうしたというんだ!?』


 


 だから知らねっつってんだろ?


 俺は物理は万年0点だったんだよ。


 仰天号が全部やっていたからよ。



 『そのロボットの動力の一部に使ってるんじゃないのか!?』


 


 あー


 そうかもな。


 強ええだろ?



 『ふざけるな!そのエンジンが爆発したらどうなるか考えたことはないのか!?』



 正義のロボットがやられる訳ないだろが。



 『広島型原爆の数千倍では効かないんだぞ!?そんな薄い装甲だけで囲うとは、爆発させるつもりか!?貴様、まさか巨大ロボで自爆テロを!?やめろっ!貴様も人間だろう!?少しは人道というものを―――』



 うるせぇよ。


 雑魚は雑魚らしく、いい加減殺られやがれ!



 まず、宣言通り、コクピットからてめえを引きずり出してっと―――



 ハッチをぶっこわし



 『きゃっ!』


 


 きゃっ?


 女みてえな悲鳴をあげてんじゃねぇよ!


 メンタマえぐり出してやるんだから喜びやがれ!


 


 そして、俺は敵のコクピットの中を見た。



 そこにいたのは―――



 う、美しい―――



 長い黒髪


 おびえきった顔


 細い体



 すべてが合格点



 オールオッケー!!


 そうか!


 


 彼女がヒロインか!



 悪の組織にさらわれ、洗脳された挙げ句がロボットのパイロットとは―――



 許せん!



 待ってろ!


 今、洗脳を解いてやるからな!



 『洗脳?馬鹿なことを!貴様こそ、さっさと妄想から目を覚ませ!』



 かわいそうに……



 囚われの挙げ句、どんなひどいことをされたのだろう。



 俺はシートベルトを外し、コクピットから出ようとした。



 きっと、ヒーローの俺の姿を見れば、それだけで洗脳は解け、そして二人は―――




 18禁のせ・か・い



 


 『き、貴様!い、今、何を考えた!?』


 そんなに恥ずかしがるな。


 痛いのは最初だけだよ?


 めくるめく快楽の世界はすぐそこさ!



 『ヒッ―――』



 俺がハッチの操作ボタンに手を伸ばした瞬間



 『いやぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』



 敵のあちこちから火線が走り、俺はコクピットの中でシェイクされた。



 『来るな!来るな変態!!』



 ふっ。恥じらう声すらかわいい―――



 そう思った途端―――




 ガンッ!!



  


 俺は仰天ロボの操作コンソールに頭をぶつけて気絶した。



 


 気がつくと、敵の姿はなかった。



 逃げられた。



 ふっ。



 次に出会った時には必ず助け出し見せる!



 俺は誓いを胸に外に出ようとして、出来なかった。



 何だ?この放射能警告って?



 モニタに警告が出ていた。



 「エンジンの一部が破損しました。放射線が漏れています」


 「外気が致命的な放射能に汚染されています。速やかに退避してください。」



 くっ……敵め!


 俺に破れたからとはいえ、放射能をまき散らすとは!


 


 仰天ロボの周囲では、罪もない人々が血を吐きながら死んでいく。


 敵のせいだ。


 許せない!


 罪もない人々を死に至らしめるとは!





 俺は、新たな怒りと共に、その場を離れた―――







 『致命的な放射能汚染地帯と化した○○市周辺ではいまだに立ち入り禁止が継続され』


 『近隣の河川・地下水はすべて汚染されていることが判明し』


 『政府は非常警戒態勢をしき、核テロリストとの戦いを宣言しました』




 その後、俺は数回、敵と戦った。


 なぜか、あの子はそれから出会わなかった。


 きっと、監禁され調教されているに違いない。


 必ず、必ず助けてやる。



 幾度となく繰り返される戦いの中、俺は一つのことに気づいた。



 それは、敵は俺が原発から持ってきた複雑なマークのついた部分(仰天ロボの装甲の一部)だけは決して攻撃しないことだ。


 俺はそれを逆手に利用した。


 装甲のあちこちにそのマークを書き込んだのだ。




 (注:レントゲン室前に張られているのあのマークのことです)



 するとどうだ?


 敵は戦わずに逃げ出す始末。


 


 そうか。


 このマークは「正義のマーク」だったんだな。



 俺の知恵の勝利!



 


 俺と真っ向から戦えなくなった敵も考えたようだ。



 すでに悪の組織の支配下に入った政府


 そして国連とその関連機関



 これらが一丸となって、俺に戦いを挑んできたのだ。


 


 あわれ。


 悪の走狗と化した兵士達よ。


 


 正義の鉄拳の元、やすらかに眠れ。



 


 1ヶ月後。仰天号の中で目を覚ました俺は、久しぶりにテレビをつけた。


 


 そこには、正義の味方、俺様の愛機仰天ロボが映し出され、そして、その下には―――


 


 『人類の敵 悪のロボット』


 


 と書かれていた。



 どうやら、悪の組織は、俺を逆に「悪」と決めつけることで人心の掌握に打って出たらしい。


 「娘を!娘をかえせ!」


 「あの子はまだ4つだったんだ!」


 「僕は、あいつを倒すために自衛隊に入ります!」


 「恋人の敵だ!俺が必ず殺してやる!」


 テレビに出てくる役者が俺に憎悪の言葉を投げかけてくる。 


 下手な演技だ。


 


 ―――そして、正義の味方から一転して、悪の組織の一員とされた俺の孤独な戦いが、幕を開けることになる。





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