第6話 必殺技は?

 『ラスベガス防衛ラインの陥落により、すでに北米大陸の3分の1が怪物の支配下に』

 『中国臨時政府は、南京、重慶といった主要都市を放棄』

 『怪物がフィリピン、東南アジア各国でも確認され、各地で甚大な被害が』

 

 怪人は生まれた。

 

 それはいい。


 だが……


 お約束マグナムっ!!


 いろいろポーズつけたり、マグナムをぶっ放す時、いろいろ叫んでみても、今ひとつ盛り上がらない……

 

 そう!

 

 ヒーローに必須のアレが、俺にはない!


 これではカッコがつかん!!


 なければ作る!!


 そのためにも、まずは研究だ!!


 マグナム片手に、俺は近くのビデオレンタルショップに殴り込みをかけ、戦隊物のDVDを根こそぎいただいてきた。

 無論、レジをまるごと頂戴することを忘れてはいない。


 レジをバールでこじ開けながら、数々の戦隊物のそのシーンを見る。


 ……そうか。


 1.原理理屈はどうでもいい。というか、俺がわからん。 

 2.とにかく、その一撃で勝負がつく。何度もやるの、面倒クセ。

 3.絶対に一撃必殺。


 おーい。仰天号、こういうの、やりたいんだけど……なに?出来る?

 よし!じゃ早速……


 仰天号が俺のスーツを改造しまくるのを、俺はレジから取り出した現金を数えながら待つ。

 ……ちっ。あのレンタル屋、思ったほど金がなかったな。

 お?出来たか?

 

 俺のスーツはなんだか一変していた。

 それまではシンプルなレッドのスーツだったのに、どっちかっていえば、宇●刑事のスーツをフルアーマー化したような、そんな感じだ。

 いいねぇ。

 うん。いい。


 俺はそのスーツの出来栄えに満足しつつ、何度も頷く。

 で?仰天号、何を取り付けてくれたんだ?

 ……は?

 対ABC兵器防御?

 対中性子防御?

 対熱線防御……まて、仰天号。俺のアタマがついていかない。

 とにかく、アレがすさまじいから、その対策ってことか?

 なるほど。


 手に入れれば使いたくなるもの。

 それが人殺しの道具。

 ふふっ。怪人ども!正義の力、今こそ味わわせてやる!!


 俺はローカル線に揺られること数時間かけて東京へとやってきた。

 東京の賑やかさは、山の中、しかも地下数百メートルに隠れた生活では考えられないほどだ。


 だが、そこに住む人間は腐りきっている。


 腐っているからこそ、修正が必要なのだ!!


 そう信じる俺は、風俗をハシゴしたり、家出少女を人身売買にかけたり、暴走族を狩ったり、ヤクザの組事務所を襲撃するなど、正義を執行することを忘れていない。 


 正義の見返りは、カネだろ?チャカにクスリにドス……うん。30億はくだらねぇな。


 元・どこぞの組長のモチモノとはいえ、正義の味方はベンツを転がさねばサマにならない。

 

 「昨夜、歌舞伎町で起きた乱闘事件の死傷者は25人。犯人はいまだ逃走中」

 「暴走族160人が死傷した深夜のテロの犯人からの犯行声明はいまだなく」

 「指定広域暴力団丸丸組は、事務所襲撃を受け、角角会事務所を襲撃。民間人を巻き添えにしたこの抗争による死傷者は、すでに100名近くにたっしており」

 「事態は全面戦争の様相を呈しています。警視庁は警察庁と連携し、警備を強化していますが、本日正午、繁華街への民間人の立ち入り自粛勧告を」


 いやだねぇ。

 やはり、正義の味方が立つ時だな。

 

 俺は、ベンツをあの場所へ向かわせた。


 あの場所。


 そう。俺が悪の巨大ロボットと戦い、今では怪人の巣窟と化した○○市だ。

 

 市民10万人がすでに怪人の餌食となっていると聞く。

 

 市へ通じる道は全てフェンスで閉鎖され、自衛隊の戦車がフェンスの向こう側へ向け、砲を向けている。

  

 罪もない市民を巻き添えにした悪の組織がフェンスの向こうにいる!


 俺がその野望を阻止してみせる!!


 ベンツは24時間営業の複合商業施設に止め、フェンス側まで来た俺は、腕のブレスレットを作動させた。

 

 見ろ!

 正義の味方の勇姿!!

 

 

 「ひっ!」

 近くにいた自衛隊員が腰を抜かしている。

 すまんな。おどろかせて。

 だが、安心しろ。

 貴様の仲間の敵は、俺がとる!!


 「ほ、本部!本部どうぞ!例の、例の悪党が出現しました!こ、攻撃の許可を!」

 

 グシャッ!!


 あ……すまん。力が数百倍になってるの忘れてた。

 

 軽くなでたつもりで、アタマ、潰しちまった。


 ま、いいか。

 

 フェンスを破壊して……何!?この一帯、地雷原か!?


 えーい!自衛隊め!なんてことしやがる!!


 マグナムを乱射して、自衛隊を吹き飛ばす。

 

 地雷程度でどうこうなるほど、このスーツは安くねぇ!!

 おらぁっ!!

 一気に市街へ行くぞっ!!。



 うほっ。

 いるいる。

 表現に困るような怪人達がうじゃうじゃ。

 目移りしちまうねぇ。

 

 俺は、怪人を殴り、蹴り、マグナムで殺しまくった。

 

 ……いけね。違う違う。


 俺がここに来たのは、そういう目的じゃねぇんだ。

 

 とにかく、俺は怪人が一番たむろしている所を探しだすことにした。

 

 どうやら、駅前のロータリー周辺が一番らしい。

 

 よくわかんねぇけど、俺の存在を知ったあちこちから怪人が集まっているらしい。


 1時間後

 ロータリーは怪人達で埋め尽くされている。

 頃合いだ。

 

 すぐつぶれても面白くねぇから、怪人製造プラントは外してっと……


 俺は必殺技の準備を始めた。

 

 「必殺!」


 右手を挙げ、このキーワードを叫ぶと、俺の左手には巨大なシールド、右手には3メートルはあろうこれまた大きなバズーカが出現した。


 これが俺の必殺技その1!!


 バズーカの照準を、怪人達のど真ん中に設定。

 

 俺は必殺技の決めセリフを叫びつつ、バズーカの引き金を引いた。

 

 「ソロ○ンよ!私は帰ってきたぁ!!」




 

 


 『○○市で突如発生した核爆発は』

 『政府は核テロリストが準備していた核爆弾が、何らかの原因で爆発したものと』

 『この爆発により、周辺都市の放射能汚染は深刻なレベルに達しており』

 『政府は爆発前、市街地へ進入した謎の人物との関連について』




 目の前に広がる焼けこげた更地―――


 俺は今、かつて都市だった所に立っている。

 俺の必殺技「アトミックバズーカ」により、都市は悪もろとも消滅した。

 都市こそが、諸悪の根元。

 そう。悪の母と共に、悪は消滅した。

 ……怪人製造プラントは無事だから、怪人には事欠かないはずだ。

 そう。

 俺が倒したのは、悪のほんの一握り。

 全ての悪を倒さない限り、俺に本当の安らぎは訪れない。


 本当の安らぎ、真の平和が訪れるまで、俺は戦い続けるだろう。



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正義の味方は極悪人? 綿屋伊織 @iori-wataya

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