第4話 こういうこともあります



 テレビを見ていたら、子供が殺されたという。


 しかも親に。


 イヤだね。


 殺されるくらいなら親殺すね。俺なら。



 そういえば、戦隊モノで、子供っていったら、お約束があったなぁ。



 よし。



 俺は仰天号に、日本で一番金持ちの子供が通っている幼稚園を調べさせた。


 


 「聖エクセレント学園付属幼稚園」


 


 ここだ。



 政治家、官僚、実業家の子供や孫が多数通うお坊ちゃま幼稚園。


 ふふっ。


 ここが狙われれば……


 


 俺は用意した怪人達を従え、バスが来るのを待ちかまえていた。


 すると?


 


 赤信号で停車したバスに乗り込む二人組が……


 


 何だと!?



 俺様のヤマをジャマするとは!


 どこの命知らずだ!?



 「う、動くなぁ!」


 「て、抵抗したら、こ、殺すからな!」



 震える手で両手で包丁を握りしめるのは、中年の坂はるかに越えた男二人組。



 あーあ。子供達、泣き叫んでるよ。



 「わ、悪く思わないでくれ!」


 「お、俺たちは○○市で財産も家族も失って、政府の保護も受けられないんだ!い、生きるためには、金がいる!だ、だから――」


 「な、仲間に金を渡したら自首する!頼む、殺すつもりなんてないんだ!だ、だから――」



 けっ。


 犯人まで涙ながらに何やってんだか。


 つまんねぇ。


 


 おーお。


 警察が到着だ。


 俺はマンホールに怪人を隠すと、そのまま通行人のフリして様子を見ることにした。



 バスを十重二十重に取り囲むパトカー


 


 おや?


 園児達が妙に落ち着いているな……


 


 「先生、この人達、可哀想な人たちなんでしょ?」


 「そ、そうよ。この前、悪いロボットに大切な人たちを殺されたり、大変な苦労されてきたのよ」


 「じゃあ、正義の味方に助けてもらえる人たちなんだ」


 「そう。だから、正義の味方が来るまで、この人たちを、みんなで護ってあげましょう」


 「はーいっ!!」


 「ほ、保母さん……」


 「私も、恋人を、あのロボットに殺されました」


 「!!」


 「生活だって、あのロボットのせいでめちゃくちゃです。あなた達のやっていることが正しいとは思いません。でも、だから、私―――」


 「す、すまない……」


 


 警察の説得開始。



 犯人の反撃



 何?


 ○○市被災者の生活の保障?


 被災の後、市民が路頭で苦しみながら死んでいくのを政府が黙ってみていくとは何事かだと?


 子供を殺すつもりはないだぁ?


 被災者へせめて食べ物と住む所を与えてくれ?ざけんな。


 それさえ政府がすぐに実施してくれれば、子供達は解放する?


 


 甘ぇこといってんじゃねぇよ。


 一人か二人、ぶっ殺して金要求しろよ。


 要求がのまれなければ、10分ごとに子供一人殺すってさぁ。



 おい。警察。何止まってんだ?


 おいおい。


 警察官が泣いてどうするんだ?


 


 おい、マスコミ。


 『彼らの主張をみんなで支持しましょう!』だと?


 悪を助長させるようなこと言ってるんじゃねぇ!


 


 1時間後


 ……おいおい。


 市民が食べ物集め出したよ。


 何!? 


 ○○市避難民を助けよう募金の開始だぁ!?


 


 よぉ、マスコミ……


 はぁっ!?


 国民が○○市民支援を遅らせている政府に怒っている!?


 政府が臨時閣議で支援開始を決定!?


 なんだこの異例のスピードは!?



 ……おい、警察。


 何!?


 包囲網を解くから、すぐにバスから出ろ!?


 子供を連れていなければ、追跡しない!?


 ふざけんな!


 悪即斬が警察の基本理念だろうが!


 


 つーか、お前ら一体、どうしちゃったの!?



 やべっ!


 犯人が出てきたよ。


 子供達、手を振っているよ……ははっ。


 このまま生かして返すほど、俺は甘くねぇっ!!



 変身して俺は、犯人をバスに突き返した。



 子供達は大泣きだ。



 ふっ。さすがに怖かったんだな。



 だが、正義の味方が来たからには大丈夫だ。



 さぁ!幼稚園バスジャックはなぁ!


 お前らみたいなチンケなジジィの仕事じゃねぇ!


 怪人の仕事だ!


 お前ら、今すぐ怪人になってやりなおせ!



 俺は腰のホルスターから注射器を取り出し、無造作に犯人の腕に突き立てた。


 「や、やめろぉぉぉぉっ!」


 男達が断末魔の声を上げて動かなくなる。


 安心しろ。


 新しい生命として生まれ変わるんだから。



 「き、貴様のせいで、家族は、職場のみんなが―――!」


 「やめてぇぇぇっ!」


 「その人達、悪い人じゃないんだからぁ!」 



 泣きわめく子供達。



 こいつら、こんな短期間で子供達を洗脳するとは―――


 おしい奴らを怪人化させたかもしれないな。


 ま、いいか。


 ほら―――



 うわっ。


 使ったの初めてだけど、ここまでグロいとはな。



 人間の皮膚を突き破って赤黒い肌が見えたかと思ったら、表現できないような怪人のできあがり。


 


 よし。


 


 これで幼稚園バスジャックが始ま―――



 あれ?



 お、おい!



 子供達はどこだ?



 身代金、1人1億だぞ? 


 30人だから、30億のボロもうけなんだぞ?


 


 みると、俺が怪人の出現に見とれている間に、後ろの非常ドアから、警察が子供達を逃がしたらしい。


 


 くそっ!狗が!!



 しかも警察の野郎!


 


 子供達がいなくなったと知った途端、



 「撃て撃てぇ!」


 「殉職した仲間の仇!殺せ!」


 血走った目で撃ちまくり。


 


 ……ふん。


 38口径なんてマメ鉄砲で俺が殺されるわけないだろうが!


 無視!



 俺は怪人をバスの外へと放り投げ、バスを出た。


 警察は誤射をおそれて発砲を止める。



 さて。


 俺はこの幼稚園バスジャックして怪人を倒して、正義の名をあげるぜ!



 組み合い、殴った後でお約束マグナム!


 


 ……いけね。


 変なポーズで撃ったのがまずかった。


 弾はビルの屋上の広告に当たっちまった。


 


 ほんと、俺、まっすぐ撃ったのに、なんであそこに当たる?


 さすが、俺。



 しかも、広告が落下した先には、幼稚園児達が―――


 あーあ。


 短い人生だったな。


 生まれ直ったらもっとマシな世界に生まれてこいや。


 南無阿弥陀仏。



 ん?


 俺がボロボロにした怪人、なんだと!?


 幼稚園児達の上に覆い被さっただと!? 


 


 そう。


 動くのもやっとのはずなのに、子供達を広告から護ろうとして、その上に覆い被さったんだな。


 バカが。


 ほらみろ。広告破片の直撃で体中ボロボロだ。


 けっ。


 やだね。


 怪人の考えがわかんねぇ。



 幼稚園児が怪人の下から逃げ出してくるよ。


 


 ―――ま、怪人は死ななければ番組終わんねぇから、さっさと死ね。



 お約束マグナム!






 悪は滅び去った。


 だが、洗脳は解けなかったようだ。


 俺は、あの幼稚園児達に、居合わせた市民からまで投石を受けた。


 「おじちゃん達を返せ!」


 「○○市民の恨みだ!」


 「死んでしまえ!」


 


 悪の組織の洗脳はかなり強力だ。


 俺は力だけでなく、この方面での対策も考えなければならない時に来ているようだ。


 とりあえず、パトカーめがけてマグナムを乱射して、俺は戦場を後にした。






 数日後


 『政府は、○○市からの避難民への救済が遅れていたことを正式に謝罪し』


 『市民ボランティアが避難民救済にむけ続々と』


 『○○は期間工として避難民の希望者500人を雇用する計画を発表し』


 うん。


 やはり、正義を信じる市民は違う。


 俺に投石するなんていう悪の市民とは全くな。


 『本当に、あの二人の冥福を祈るばかりです』


 ん?


 『彼らは、自分たちの犠牲を覚悟の上で、仲間を助けたかっただけなんでしょう。子供達が危険にさらされたことは、親として許せません。しかし、市民として、彼らの行いをみる場合、話は別です』


 『親同士で少しでも役立ててもらおうと、寄付を集めています』


 『子供達も、あの悪の怪人を倒すために立派な大人になると誓って』


 『英雄ともいうべき行動の末、怪人としての死を強いられた彼らの、人としての冥福を、また、あの憎むべき悪の怪人がこの世から消し去られることを祈って止みません』


 


 『憎むべき悪の怪人』?


 あ、あいつらか!


 俺がマンホールに隠したあの2体!


 そうだな!


 あいつらか!


 俺はあいつらを始末すべく、仰天号から飛び出していった。




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