正義の味方は極悪人?
綿屋伊織
第1話 正義の味方、見参!
俺は霧島洋介
一介の、単なる元・高校生。
元というのとは、俺が今年の春、高校を卒業したからだ。
卒業しても、心は熱血高校生のまま。
だから、高校生だ。
同級生に言わせると、俺のような存在を、プーとかニートとかいうらしい。
社会的特権がある存在
そういう意味だ。
そんな俺の夢は英雄。
かっこいい戦闘服に身を包み、ロボットに乗って悪と闘う。
だから、俺がバイトしたのも、こういう仕事。
遊戯施設のステージで悪と戦う仕事。
子供達の前で悪と戦う。
それは子供達にすばらしい夢を与える最高の仕事だ。
だから俺はこのバイトに身を投じた。
それは、漢の義務だから。
最初の説明会の時、俺は念願の、というか、居並ぶバイト仲間を力でねじ伏せ、英雄の中の英雄、ザンバルファイブのレッドの地位を手に入れた。
漢は頭じゃねぇ。
漢は腕力だ!
逆らう奴は女子供でも許しゃしねぇ!
文句のあるヤツぁでてこいや!
……よし。いないな。
「りはーさる」とかいう数度の組み手の後、俺とすばらしき仲間はステージという戦場に立った。
初めての戦場は、ベニアに書かれた荒野をバックに、子供達が十重二十重に見守る世界。
場をいやでも盛り上げるテーマソングに乗り、俺は次々と出てくる雑魚どもと戦った。
オラオラ!!
これは組み手じゃねぇぞ!
実戦なんだよ!
メキッ!
グシャッ!
ボキィィィィッ!
俺は、たとえ雑魚といえども渾身の力を込め、敵を粉砕していった。
「ぐわぁぁぁっ!」
「骨が、骨がぁぁぁっ!」
飛び散る血。
雑魚の無様な悲鳴と、骨肉の砕ける音がステージを支配し、
そして―――
出てきたな!?怪人め!
「あーんっ!パパァ!怖いよぉ!」
「ママぁ!おうち帰るぅ!」
見ろ!お前があまりに醜い形相してるから、子供がおびえてるじゃねぇか!
ん?
てめぇまで一緒におびえてるんじゃねぇ!
黙って俺様の正義の鉄拳を、喰らいやがれっ!
俺は、レッドの必殺技「レッドバーニングスマッシュ」を熊の怪人の顔面へお見舞いしてやった。
怪人は俺の、そしてレッドの正義の一撃を喰らい、観客席まで無様に吹き飛ぶ。
ふっ。
正義は勝つんだ!!
「警察だ警察!」
「あーんっ!お母さん!痛いよぉ!」
「○美ぃぃっ!お願い目を開けてぇっ!」
子供や親も、俺の活躍に希望を抱いたに違いない。
泣きじゃくりながら歓声を上げていた。
これぞ正義の仕事!
ステージでの熱い戦いの後、楽屋にもどった俺を、警官が10人ほど出迎えてくれた。
そうか。
国家権力ですら、俺の正義の活躍に感動したというのか?
ふっ……。
国家権力は嫌いだが、こういうのは悪くない。
俺はそのまま凱旋パーティの待つであろう会場まで、パトカーに乗せられた。
ふふっ。
首相と握手する正義の味方
首相(名前知らね)、お前の再選は確定したぞ!
俺は近くの警察署に案内された。
そうか。
いろいろ準備もあるしな。
狭い部屋に入った俺に、むさ苦しい刑事が次々と質問してきた。
名前は?
住所は?
ふん。
これだから国家権力の犬は困る。
俺は正義の味方だ!
名前なんて関係ないのだよ!
刑事はこめかみの横で指をくるくるさせる不思議な動作の後、部屋を出ていった。
全く。俺は腹が減っているんだ。
首相とのパーティに遅れてしまうではないか。
しばらくすると、制服警官達が何人か入ってくるなり、俺に手錠をかけようとした。
しまった!
これは悪の組織の陰謀に違いない!
国家権力の犬に扮した悪の組織の手先が、俺を拉致しようとしているに違いない!
もし捕まれば洗脳され、俺は、レッドは――!!
仲間のためにも!
正義のためにも!
俺は負けられないんだよぉっ!!
ウォォォォッ!
離せぇ!
俺は悪の手先になんぞならないぞ!
ステージという戦場よりも過酷な戦いの火ぶたがきって落とされた。
俺は警察官に扮した雑魚の腰から拳銃を抜き取り、辺り構わず撃ちまくった。
雑魚の弾なんて怖くねぇ!
おらぁっ!殺ったらぁ!!
「うわぁぁぁっ!助けてください!警部!警部ぅ!」
「牧野ぉぉっ!うぉぉぉぉっ!」
「警部を助けろ!撃てぇっ!」
……無駄だ。
悪の手先の頭を撃ち砕き、どてっ腹に風穴をあけてやる。
……
どれくらいたったのだろう。
気がつくと、俺は山道を走っていた。
ボロボロになったレッドの戦闘服の上着を、俺は捨てた。
ナイロンというスーパーハイテク素材がこれほどになるとは―――
雑魚と侮っていた俺の未熟さだ。
こんな未熟な漢が、戦隊のリーダーをやるわけにはいかない。
俺は、やり直さなくてはならない。
丁度、山の中だ。
手にした拳銃に弾丸は―――20発か。
よし。
どんな悪に襲われても、これだけあれば戦える。
俺は、山に籠もって、己を鍛え直すことにした。
『昨日、重軽傷者23名を出したショッカーパークで乱闘騒ぎの犯人は』
『警察署で発生した銃撃戦の犠牲者はこれで45人に上り』
『県警察本部は周辺の警察、自衛隊にも協力を要請し、犯人の山狩りを決定』
山道で出会ったハイカーに、俺の正義を見せつけるため一発お見舞いした時、ハイカーが「どうぞお使い下さい」と置いていった登山道具の中から見つけたラジオでは、日本に悪がはびこっていることを知らせてきた。
だが―――
俺は頬を伝う涙をぬぐうこともなく、星を見つめていた。
俺は弱い。
だから、強くなる。
強くなって、本物の戦隊リーダーにふさわしい漢になる。
みんな、それまで耐えてくれ―――
修行の日々が始まった。
岩を砕き、木をなぎ倒し、獣と戦う毎日。
そして―――
最後の弾丸で熊を倒した俺は、目の前をちらつく白い物体に気づいた。
雪?
そう。
道理で寒い訳だ。
世界は、白く染まろうとしていた。
そして、修行はさらに過酷になっていった。
何しろ、食べ物がない。
食べ物を探すこと自体が修行になった。
そう。
サバイバル訓練の開始だ。
ううっ。
訓練から10日後
俺はふらつく足で雪山を歩いていた。
何か、いい匂いがする。
何か金属が焦げるような匂いに混じって、肉が焼ける匂いだ。
?
不意に、俺の視界に銀色の建物が入ってきた。
建物?
違う。
船だ。
宇宙船だ!
そうか!
英雄を求め、ここまで来て力つきた難民船だな!?
なんてことだ……
未だにくすぶり続ける宇宙船の残骸からはい出てきたのは、ブタのように腫れ上がった顔。
大丈夫か!?
俺は思わず駆け寄った。
血は人間と同じ赤。
抱き寄せた俺の服も赤く染まる。
しっかしろと肩を揺するが、うめくような声が何を言っているのかわからない。
だが、きっと無念と助けを求める言葉に違いない。
そうか。
敵はうってやる。
安心して眠ってくれ―――
敵は討つ。
俺は空にほえた。
ほえるだけほえた後、俺はこのブタオトコの始末をつけることにした。
そう。
丁度、ナイフやフライパンの替わりになる金属には事欠かないことだ。
ブタオトコよ。
俺の一部となって、俺の活躍を、見守ってくれ―――
感想 ブタオトコは、美味かった。
そして俺は、この宇宙船の中で、地上では考えられない武器の数々を手に入れ、それを元に正義の味方として活躍することになる。
俺の、伝説の始まりだった。
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