風鈴は見ていた

みこと。

全一話

風鈴は見ていた


のきスダレの影向こう


たたみう足 白い足


ひときわ大きく日焼けした

もう一組の長い脚


覆われもだえ あえぐ足たち


風鈴は 見ていた


かすかな音は警鐘を

鳴らすように風に乗る



***



「シーグラスって不思議ですよね」


 ワークショップの片隅で、シーグラスの小さな小石を光りに透かしながら、不安そうな声が言う。


「昔、石を拾って帰るなって、きつく戒められていたんです。どんなにキレイでも、海や河原の石は特にダメで。しかもお盆の翌日なんて、親は激怒してました」


 古い迷信だと、講師が応えた。


「シーグラスと言っても今は海で拾うわけじゃなく、人工的に作れますからね」


 ホッとしたように、女性が息をく。


「なら、このガラスは安心ね」




***




風鈴は見ていた



畳染まる赤 液体の

縁側つたい したたるさま


動かない足 誰の脚


棒と化した黒い足

下から這い出る白い足


一筋流れる血をぬぐ

はだけた浴衣 かきいだ


畳を後に 逃げ去りし

部屋に残るは凶器とむくろ



庭木の蝉は変わらずに き続けては

あお


のぼ熱気ねっきに混じって何か かそけそれ・・が天に


積乱雲に吸い込まれ

ガラスの涼音すずねがチリンと揺れて


蝉は庭を 後にした



夕立ち暴風 吹き荒れて

切れた紐に 砕ける風鈴ガラス


割れた欠片カケラは巡りしすえ

海漂って浜並ぶ



「シーグラスって不思議ですよね」



いつかの風鈴 のぞいた光景けしき

かつての屋敷で アートとなりて

いまは鳴るべく身を持たず

シー硝子グラスとして沈黙す


ただ静かに 昔日せきじつ懐かしと

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風鈴は見ていた みこと。 @miraca

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