第6話 恐怖の正体

 とても信じられ無い話だが、この、私自身もその美少女の声を聞いた以上、秀一君を疑っても、絶対に駄目なのだ。



 では、これは、本当に、現代に復活した、中世の「夢魔」で、「サキュバス」なのか?



 しかし、これでも、現代医学を極真面目に勉強した、この私には、どうしても簡単には信じられ無いのだ。



 明日、一応、緊急に大学病院に休みを取って、その謎の美少女に会ってみようと決意したのだ。



 今日は、この家で、ここで一泊しよう。



 それにしても、かっての日本には、陰陽師などの呪術師等が活躍していた時代もあったのだ。



 だが、これは、疫病や地震、台風等の知識が無かった古い時代の話なのだ。



 「超能力」や「オカルト」の存在の証明は、現代科学でも、未だ完全に証明されていない。



 しかし、この私も、あの不思議な現象を体験した以上、そうも、簡単に「超能力」や「オカルト」の否定は、簡単には出来なくなっていたのだ。

 そう、あの宮城音弥博士の『神秘の世界』のように……。



 果たして、鬼が出るか、蛇が出るのか?



 しかし、これが、結局トンデモ無い事件だった事を、今になって思うのだが、その時は、まだ気付いていなかった。



 翌日の朝、秀一君に簡単な地図を書いて貰い、その美少女の家に向かった。



 丁度、学校に出発する時間であったらしく、セーラー服をキチンと着こなして、彼女が家の玄関から出て来た。それにしても、恐ろしい程の美少女だった。



 そこで、急いで、彼女に近づいて行った。



 しかし、彼女は、私の顔を見ると、ニヤリと笑ったではないか?



「貴方が、秀一君の主治医ですか?



 でも、一言だけ、言います。



 秀一君は、この私の、人生最大で最後の必死の告白、つまり申し出を断ったのです。



 つまり、当然、その報いを受けるべきです。つまり、このまま、痩せ衰え、死ぬ運命にあるのです」



「何だって、何故、告白を断っただけで、それほどの仕打ちを受けなければならないのだ。

 秀一君は、来年は、大学入試で忙しいのは、貴方も知っている筈だが?」



「それとこれとは、話が違います。



 秀一君は、私の、隠れた力を知らなかった。報いを受けて当然なんですよ」



「いや、それは、逆恨みの極みではないのかね!」



「うるさいわね。だったら、先生も、この私の力を見てみなさいよ!」



 と、彼女が指をパチンと鳴らすと、今、丁度吸おうとポケットから出した紙タバコに、何と、急に火が付いたのだ。ライターも無しにだ。



 慌てて、当該タバコを路上に放り出し、革靴で、もみ消したのだが、ああ、ホントに彼女には、超能力があったのか?



 信じられ無い、信じられ無い、信じられ無い!!!



 そして、もし、これが現実なら、遅かれ早かれ、秀一君はやがて痩せ細って死んで行く事になるだけなのだ。



『アソコ地獄』か、フト、私は、か弱くポツリと呟くしか無かったのである。



 そして、この私の嫌な予感は、見事に、的中したのだ。



 あの雄一君が、それから、丁度1週間後、心臓麻痺で、急死したのである。



 これこそが、現代の「怪談」なのか?



 私は、この一連の話を、緊急で、医学論文にまとめて発表するつもりだが……。

 だが、現代の精神医学界は、この私の正統的な医学論文を、真面に、取り扱ってくれるのか、若干の危惧を抱いているのだ。



 この私自身が、狂人扱いされない、かとの、不安である。


 

 果たして、この現代に復活した「サキュバス」の、話を、では一体、何処の大学の、何処の学者達が、信じてくれるのか?



 それとも、サッポロのすすきのの「首切り事件」に加担した、父親と同じように、この私も、同じように見られてしまうのでは無いのか?



 実に、暗澹たる気持ちを抱えて、私は、自分の勤務する国立病院に、戻って行ったのである。





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短編:アソコ地獄!!! 立花 優 @ivchan1202

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