第5話 少女の異能力

 ところで、幸い、私には、若干の「絵心」が少しあった。



 先程、感じた少女の似顔絵ぐらいは、そこそこに描けたのである。



 そこで、秀一君の机の側に置いてあった、ノートに、先程、私が見たように感じた、美少女の簡単な似顔絵を描いて、秀一君に見せて見たのだ。



 しかし、その似顔絵を見た瞬間、秀一君は、急激な発作を起こした。



 救急用の医療セットは持参していたので、セルシン注射液10mgを注射して、落ち着かせ、それから、ユックリ話を聞くつもりで、こちらも覚悟を決めた。



 しかし、周囲を見渡すと、キチンと整理整頓された、秀一君の勉強部屋には、唯一似合わない物が一つだけあった。



 勉強部屋の片隅のゴミ箱の中に、押し込まれた、体液の異臭がムッとする下着類の多さである。



 その量から推計するに、毎日、夢を見る毎に、一日に数回は体液を出していたみたいだ。

 これじゃ、いくら若いとは言え、実際問題、体が、持たないだろう?



 で、秀一君が、徐々に、少しずつ落ち着いてきたので、おもむろに聞いてみる。



「秀一君は、その美少女のアソコを見た事や、実際に行為をした事があるのかね?」



「いえ、全く有りません。

 僕が、夢の中で見るアソコの映像は、悪友の一人が、ネットで拡散している卑猥な動画を見せてくれたためで、彼女の、猛烈な告白、つまり自分を好きにしていいよと言う申し出は、この僕は、ハッキリと断っています」



「では、その悪夢を見るのは、この前の手紙に書いてあったように、彼女の熱烈な申し出を断って以来からなのだね?」



「そうです。その日の夜の夢から、毎夜毎晩、現れてこの僕を誘惑しに来るのです」 



「秀一君の話を聞くと、中世のヨーロッパの伝説での女性の姿をした「夢魔」で、サキュバス(英語: Succubus)と言い、睡眠中の男性を襲い、誘惑して体液を奪う話を想記させるが、今は、もう現代で単なる伝説でしかないんだよなあ……」



「中世の「夢魔」の話は、初めて聞きましたが、もしかしたら、彼女は、そのサキュバスそのものなのでは無いでしょうか?」



「おお、秀一君、随分と、鎮静剤が効いてきたようだな。



 しかし、現代は、人類を火星に送るとか、生成AIがどうのこうのと言う、科学全盛な時代なのだよ。

 このサキュバスの話は、吸血鬼ドラキュラの話と同じで、私には、どうしても作り話としか、思えないのだが?」



「では、逆に聞きますが、何故、僕だけが、彼女の標的にされて、毎夜毎晩、何度も何度も、体液を吸い取られるのですか?



 結局、早い話、この僕が彼女の真剣な恋の告白を断った事による、その、振られた事に対する彼女の「怨念」や「情念」が、この悪夢の真の原因なのでは無いでしょうか?」



「秀一君、現代精神医学では、怨念や情念と言う概念は、入り込む予知があまりに少ないのだよ。



 現代の精神医学は、主に大脳新皮質の構造や、脳内神経物質の研究に力が、注がれているのだよ。最近では、脳内の神経受容体のD4受容体とかがね。



 これが、万一、殺人事件か何かの法定での、加害者側の心理状態なら、この用語は使われるかもしれないがねえ……。

 無論、この怨念、情念が、何らかの精神疾患の原因になる事は、決して否定はできないはしないのだが!」



「では、あの彼女のアソコは、どうして、そこまでして、この僕を襲って来るのですか?しかも必ず夢の中だけですよ。



 これが、日中なら、幻覚や幻聴だとして、僕自身も、統合失調症を疑うのですが、どうにも腑に落ちません。



 ここで、僕が近所のオバサン達の噂話しから類推するに、彼女は、中学二年生の時に母が再婚した。で、近所のオバサン達の噂では、その義理の父親に何度も犯された事になっていますよね。

 しかし、その義理の父親は、わずか一年後に、不慮の交通事故で亡くなっています。



 ここに、何かしら得体の知れない彼女の、「異能の力」「人外の力」を、僕は、漠然と感じるのですよ」



「確かに、面白い仮説だがなあ……」



 と、ここまで私が言った時である。



「アハハハハ……、思い知ったか!!!」と、明らかに、若い女性の笑い声が、秀一君の部屋中に、大きく響いたのだ。


 

 こ、これは一体、何の現象なのだ。



 私は、現職の医者である事を忘れて、恐怖におののいた。



 もしかして、その少女は、本物の「サキュバス」なのか!!!



 もう一度、先程の、スマホの画面を見ても、私が、漠然と感じた美少女の姿は、全く写っていないのだ。



 では、今の、哄笑は、果たして一体、誰の声なのか?


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