第4話 緊急の対面
この「次なる手紙」を貰って、即、兄の家に電話を架けた。
うまい具合に、兄の妻、つまり秀一君の母親が、電話に出てくれたのだが、母親の話は、もっともっと、具体的で驚愕的・衝撃なものだった。
わずか3週間で、息子の体重が、4~5キロも減ったと言う。
そして、何より心配なのは、
「彼女のアソコが襲ってくる。……もう、怖くて、怖くて、怖くて、満足に眠る事もでき無いのだ!」と、譫言(うわごと)のように言い続けては、自分の勉強部屋の中を、大きな熊のようにグルグル回っている言うのだ……。
母親の口から言うのも何なのだが、息子は、既に発狂したのではなかろうか?とまで言うのだ。
これは、実に非常に危険な兆候だ。
ただ、私の大学病院の現在の受け持ち患者には、入院患者も沢山いるのだ。
その中には、突発的に暴れる患者もいるので、私の後輩の医者に、鎮静剤セルシンの注射薬や、リスペリドン(リスパダール)経口薬の対処法等をキチンと教授して後、車で、兄の家まで飛ばした。時間は、カーナビの表示では、約Ⅰ時間強程度で着く筈だ。
肝心の兄は、現在、海外へ出張中なのである。
この私が、直接行って様子を見て診るしかないのだ。
しかし、医学的に鑑みると、実に不思議な話でもある。
これが、秀一君が日中起きている時に、そのような幻覚や幻聴を見たり聞いたりするのであれば、最悪の場合は、統合失調症が疑われるのだが、その怪奇現象が起きるのは、ただただ、「夢」の中だけなのある。
これは、一体、どう言う事だろうか?
確かにストレス過多により、悪夢を見る事も医学的には十分にあり得るのだが、これが特定の若い女性のみの夢であり、毎夜毎晩、襲いに来るとは、まるで言葉は悪いが、現代版の「怪談」では無いのか?
しかも、女性の大事なアソコ部分をさらけ出して襲って来るとは、果て、これは医学的に見ても、どう、診断したら良いのだろうか?
それに、残念ながら、悪夢を見る事を止める薬とは、精神医学的にも、ほとんど聞いた事が無い。
もし、この私で、対処できるとすれば、せいぜい、必須アミノ酸の「トリプトファン」を処方するぐらいであろうか。
必須アミノ酸のトリプトファンは、脳内神経伝達物質の生成に大きく作用するからだ。
しかし、必ずしも、悪夢に効くとは、そのような研究論文はほとんど聞いた事も読んだ事も無いのだ。
やがて、約一時間後、兄の家に着いた。
直ぐさま、もの凄い豪邸のインターホンを鳴らすと、秀一君の母が、真っ青な顔をして、この私を出迎えてくれた。
「で、秀一君の様子は?」
「今から、直ぐに、御案内致します」
しかし、そこで見た秀一君は、もはや常人の精神の域を通り越していた。
眼下は大きく窪み、額には血管の青筋が見えるほど衰弱していた。多分、栄養失調と睡眠不足が主な原因なのだろう……。
「秀一君か、何故、こう言う大事な事を、LINEやメールや、電話で、直ぐにしてくれなっかたのだ?」と、私が聞くと、
「そ、そ、それは、情報流出や、ハッキング、盗聴の危険性があるように思ったからです……」と、弱々しい返事をするだけだ。
正に、その時である。
フト、アイドル並みの美少女の顔が、秀一君の後ろ、つまり背後にダブって見えたような気がした。……あたかも、言葉は適切で無いかもしれないが、俗に言う背後霊のように、感じたのだ。
そこで、まさかとは思いながらも、最新式のスマホで、秀一君の写メを撮って、即、ズームアップしてみたものの、当然、背後には何も写っていないのだ。
だが、写る訳も無い。
これは、確かに当然であって、物が見えると言う現象は、可視光線が目の水晶体を通して、眼球の奥の網膜に像を映し出し、視神経により大脳がその映像を判断するから、物が見える事になるのである。
では、私が、フト感じた、あの美少女の背後の姿は、一体何だったのだろうか?
それも、単なる、幻覚なのか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます