第44話 骨折り損のくたびれ儲け

「……やっぱり納得出来ないのです」


 マニュアルちゃんの不満の声が響き渡る。


 シャロンと別れてすぐ、隠れて全ての話を聞いていたマニュアルちゃんが、合流した途端に放った第一声が先程の言葉であった。


 ――ちなみに顕現してきた頃と違い、今は普通に服を着ており全裸ではない。


「御主人様の願いは元の世界に居る伴侶を救い出す事なのでしょう? どうして関係ないあの女を助けたのです?」


 マニュアルちゃんが不満を覚えるのも仕方ない事なのかもしれない。


 シャロンの怪我は、どう頑張ってもこの世界の治療技術では治せないものだったし。


 そもそも研一は治療魔法なんて使えなかった。


「あの女を治療したせいで折角魔族達を倒して手に入れた功績値も、ほとんど全部使ってしまったのです。これじゃあ今回、何の為に戦ったのか解からないのです……」


 そこで研一は、女神の奇跡に頼ったのだ。


 マニュアルちゃんが言うように、今回の戦いで魔族を倒す事で手に入れた功績値を全て使い切る覚悟で。


「確かに今回の功績だけでは願いが叶わないのなら、今後の為に新しい力を貰うのは理に適っているのですが――」


 そうして手に入れたのがシャロンの足を治した能力。


 貯蓄している功績値を使う事で、使用した功績値の値に応じて、怪我や病気を治す力であった。


「今後の事を考えるならもっと魔族を大勢倒せるように力を強くしてもらうか、ずっと戦い続けられるように自己治癒系の力を新しく貰って、魔族を倒せる効率を上げた方が絶対に願いを叶えるのに近付けた筈なのです。それなのにどうして他人を癒す為の能力を……」


 理解出来ないと呟き続けるマニュアルちゃんに、研一は何も言えない。


 確かに合理的に願いを叶える事だけを考えるならば、無駄な寄り道としか言いようがなかったから。


「その方が得するからとか、そういう理由で動く人じゃないってだけだよ。ね、研一さん」


 そんな研一に代わって、センが嬉しそうに答えながら研一に抱き着く。


 センもマニュアルちゃんと同じく、すぐ傍に隠れてシャロンとの会話を聞いていたのだ。


 ――ずっと手の届く場所において守り続ける、と研一が誓ったあの日から、センは部屋に籠る事を止め、研一が外に出る時は付いてくるようになったのである。


「魔人、訳知り顔で喚いて抱き着くなです。お前なんかに御主人様の崇高な考えが理解出来てる訳がないのです」


 そして、何故だかは解からないのだが。


 どうやらマニュアルちゃんは、センの事が相当に気に入らないらしい。


 事ある毎にセンの言葉に難癖を付けるのが日常になっていた。


「変に考え過ぎて解ってないのは、そっち。単に研一さんは優しいだけだよ」


「喚くなです。御主人様は愛する伴侶の為だけに生きる、合理的な思考とそれを遂行する鋼のような精神の持ち主なのです」


 最近では、すっかりお馴染みになった二人の言い合いをBGM代わりに。


 研一はこれからの事に思いを馳せていく。


(センちゃんには悪いけど、母親の事は時が来るまで騙し続けよう……)


 魔族に関しては、近々別の国が狙われるだろうという話を聞いているから、そっちに向かってから考えるとして。


 目下の悩みはセンの事をどうするかであった。


(多分それが意図せず騙してしまった人間の責任の取り方なんだろうな……)


 本音を言えば今すぐにでも母親の事は話してしまいたい。


 だが、センは想像以上に容易く己の命を絶てるタイプだと、マニュアルちゃんの顕現時に解ってしまった。


 それを知っていてセンが絶望に囚われる言葉を告げるのは、単に自分が騙している罪悪感に耐えられないから逃げようとしているだけで――


 センの安全なんてまるで考えてない行為でしかないのだと、思い知って。


 また支え方や気遣い方法を間違えて、これ以上大事な相手が傷付かないようにしなければと、気持ちを新たにする。


(もしセンちゃんがもっと成長して話せる日が来たのなら――)


 その時は自分を恨むだろうが、それはもう仕方ない話。


 怒りも恨みも全て受け止め。


 そんな日が来るまで、ずっとセンを守り続けていくのが自分の責任だなんて、研一が考えたところで――


「研一さん! この分からず屋に本当の事を言って下さい!」


「それは、こっちの台詞なのです。この知ったかぶりする魔人に真実を教えてやってほしいのです!」


 二人から意見を求める声が響いて、慌てて対応していく。


「あー、それはどっちかと言えばセンちゃんの言ってる事の方が事実には近いよ。ただ俺が優しいからとかそういう話じゃなくて、巻き込んでしまった責任の問題というか――」


 困ったように。


 それでいて、どこか楽しげな笑みを口元に浮かべながら。


 研一は真摯に二人の言葉に耳を傾け、誤魔化す事もせずに自分の本心を語り掛けていくのであった。


 


   ○   ○


 


 憎まれ恨まれ傷付けて。


 苦労の果てに残ったのは、ほんの僅かな功績値と賑やかな少女が二人。


 これが闇野研一の始まりの物語。


 悪人になり切れない青年は、これから先もスキルとの折り合いに悩み苦しんでいくだろう。


 その度に研一が何を選び、何を掴み取っていくかは解からない。


 その戦いの果てに研一は願いを叶えられるのか。


 あるいは――

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後書き

 これにて第一部終了です。

 あー、確かに言われてみれば骨折り損のくたびれ儲けでしかなくて、ハッピーエンドとは言い難いなと思って頂ければ幸いです。

 もっとこう壮絶で救いようのないバッドエンドを想像して方は、肩透かしで申し訳ありません。

 これにてこの作品の毎日連続投稿は終了です。

 ここ最近、この作品の更新が楽しみだったと思って頂ける人が一人でも居ればいいななんて事を思います。


2024年10月20日追記

 第二部は11月25日から投稿開始予定です。


 続きが読みたい、書籍化してほしい、挿絵やキャラ絵が見たいと感じて下さった方は是非とも★レビューやフォローなどで応援して頂ければ、小躍りして喜びます。

 感想は小難し考えず、面白かった、続きが読みたいとかだけでも本当に凄く励みになるので。

 あまり量が多くないなら感想は多分大体返しはすると思いますし。

 過去に111件までは全部返した事があります。


 そして、 私の作品以外でももっと続いてほしい、書籍化してほしいって感じた作品には気楽に★やフォローして頂けると大変有難いです。

 読んでくれている人が居るのか解からずに続けるのって中々根性要るモノなので。

 覚えていたらで構いませんので、よろしくお願いします。


 さて第二部についてはちょっとまだ構想が練れてないので、暫くお待ち頂ければ嬉しく思います。

 更新する時は今回と同じように、纏まった分を毎日連続投稿する予定なので、ちょっとまだ全体図が出来ていなくて。

 期待して下さっている方は申し訳ありません。

 公募狙いなら完結設定にして人を増やした方がいいという方も居るのでしょうが、そこに関しては続きを書く予定があるので、完結設定はしないです。

 読者選考もあるんだし、そこはもっと形振り構わず狙って行けよ、と感じてしまう方には大変申し訳ない。


 一応変更する可能性もある仮の続きでもいいから見たいという方は、メンバー限定の読者ノートという形にして置いておこうとは思います。

 仮でもいいからすぐに続きが見たい、むしろここだけでしかない読めない物になる可能性があるなら見ておきたいという方は、登録して下さると嬉しく思います。

 続きじゃなくて現状、どういう風に書いていこうかとか大まかな方針が知りたいという方も言って頂ければ用意しますので、気楽に伝えて下さい。

 あくまで現状では、こういう流れで書こうとしているという方針ならば、次回予告みたいな形でお伝え出来るので。


 それでは、この作品の続きを書いた時にまた読んで頂ける事を祈りつつ、今回は失礼させて頂きます。

 こんな爽快感なんか蹴飛ばしまくっている作品に、ここまでお付き合い頂きありがとうございました。


 ちなみに明日からは過去に別の名前で書いていた作品を置いておくので、私の他の作品に興味がある方は、そっちも見て頂ければ嬉しく思います。

 ちなみに内容は、ひたすら戦いまくりのゴリッゴリの異世界バトルファンタジーで、そっちはそっちでバトルのやり過ぎており、今作とは別方向にニッチです。

 下記にアドレスを張っておくので、良ければ明日の投稿をお待ちして頂ければと思います。

 ではでは、またお会いできるのを楽しみにしております。


https://kakuyomu.jp/works/16818093081514290324

 ちなみにこっちは九月末くらいまで毎日投稿します。

 8月10日から投稿開始予定なので、まだ移動出来ませんがよければこちらも読んで頂けると嬉しいです。

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憎まれ救世主 ~憎まれる程に強くなるスキルのせいで、マトモに話す事も出来なくて地獄なんだが~ お米うまい @okazukure

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