恋煩い

モズク

恋煩い

なんてことない日常を送ってきたし、なんてことない日常を送るはずだった。

いつもと違うのは、早起きした気まぐれに一本早い電車に乗ったことだ。

一本早いくらいじゃこの満員加減は変わらないかとうんざりしていた。そう、電車に乗るまでは。


一目惚れだった。特別可愛いわけでもスタイルがいいわけでもないのに彼女から目が離せなかった。

これが恋なんだ。今まで恋だと思ってきた物は全て紛い物だだたんだ。僕は人生で初めて「恋」をした。






○月×日

この気持ちを何かに吐き出したい、そんな思いで柄にもなく日記を書くことにした。

日常の何もかもが手につかない。

明日も会えるといいな。

 





○月×日

昨日と同じ朝

昨日と同じ通学路

昨日と同じ満員電車

昨日と違うのは人目がなければ鼻歌を歌いながらスキップをしてしまうくらい晴れやかなこの気分だ。


昨日ぶりに見た彼女はさらに可愛さが磨きがかかったきがする。どんよりした天気にもかかわらず、もうなんか彼女のいる場所が光って見えた。






○月×日

今まで遠巻きに見ていただけだけど、次回からはちょっとずつ電車内での距離を縮めていこうと思う。

友達と一緒に投稿してるみたいだから、声とか聞けたらいいな。あわよくば名前とかも知りたいなあ。







○月×日

今日はいい日だ!

彼女に会えるだけでいい日なのは確定なんだけどね笑

声を聞くことが第一目標だったのに、段階すっ飛ばして彼女の名前も知れたんだ!

友達っぽい子との会話を盗み聞きしたっていうので結構後ろめたさはあるんだけどね。


彼女は「かれんちゃん」って言うらしい。

ここまで名は体を表すと言う言葉が当てはまる人間僕は見たことがないね。

はあ幸せだなあ。






○月×日

かれんちゃん、君はなんで恐ろしい人なんだ。

冗談じゃなく日に日に綺麗になっていってる。

今日もまた彼女とその友達の会話に聞き耳を立てながら電車に揺られている。


最初の頃よりだいぶ近くに立つようにしてるから、不審がられないようにイヤホンをつけてさも音楽を聴いているように振る舞っている。

我ながら完璧な作戦だ。


今日の収穫は彼女が通ってる学校を知れたことだ。

ここら辺でも有名な新学校に通っているらしい。

どうやら天は君に二物を与えたようだ






○月×日

今日の収穫

かれんちゃんは牛乳が苦手らしい。

子供っぽいところも素敵だ!






○月×日

今日は思い切って背後まで近づいてみた。

緊張して彼女たちがどんな会話をしていたかは頭に入ってこなかった。

めちゃくちゃいい匂いがした。

ちょっと気持ち悪いかな?笑


電車で殺人事件のニュースが流れていた。

犯人はまだ捕まってないらしいけど、物騒な世の中だな。






○月×日

彼女のことをもっと知りたい。

どんなふうに怒って

どんなふうに泣いて

どんな景色に魅了されて

どんな物語に感動して

どんなことに挑戦して

彼女に触れて、彼女に触れられて、

彼女の全部を知りたい。彼女の全部になりたい。

僕は彼女を、かれんちゃんを愛している。






○月×日

学校も知れたわけだから放課後に最寄駅に張って彼女を待ち伏せてみた。

これまでは朝だけだったけど、下校時間とかわかれば帰りも彼女の近くに入れることになる!

恋を知ってから僕の脳は冴えまくっているな。

違う学校の制服だと浮いちゃうから家から持ってきた私服に着替えて待機。

なんだか探偵みたいでワクワクした。


途中で気がついたんだけど、僕以外にも彼女の後をつけてるやつがいることに気がついた。

多分あれだ、ストーカーってやつだ。

全身真っ黒で髪もボサボサ、みるからに怪しいやつだった。

そいつに注目している間に彼女を見失ってしまった。

本当は家までついていきたかったけど、まあ家の最寄駅を確認できたからよしとしよう。

次見つけたらあのストーカーやろうを注意してやる。






○月×日

両親に馴れ初めを聞いてみた。

最初は驚いてたけど、恥ずかしそうに、同時に嬉しそうに当時のことを写真を見せながら話してくれた。

写真に写っていたのは見知らぬ髪の生えている男性とと痩せている女性だったが、話を聞く限りではどうやらそれが両親らしい。

時の流れというものはなんとも恐ろしいものだ。


まてよ?と言うことはかれんちゃんもいずれはとったら母さんみたいにぶよぶよのおばさんになっちゃうってことか?いや、かれんちゃんは何歳でも美しいに決まってる!


でも、でも仮にもしかれんちゃんがぶよぶよのだるだるになってしまったら、、、、、


そうだ!今のきれいなかれんちゃんのままで死なせてあげればいいんだ!そうすればずっとこの先も綺麗なままだ!かれんちゃんもきっとそのことを望んでる!そうに違いない!


僕が!僕が彼女を殺してあげるんだ!殺してあげなきゃ!殺すべきだ!殺してやるんだ!殺していいよね!


殺してやる






○月×日

殺したい好きだ殺したい好きだ殺したい好きだ殺したい好きだ殺したい好きだ殺したい好きだ殺したい好きだ殺したい好きだ殺したい好きだ殺したい好きだ殺したい好きだ殺したい好きだ殺したい好きだ殺したい好きだ殺したい好きだ殺したい好きだ殺したい好きだ殺したい好きだ殺したい好きだ殺したい好きだ殺したい好きだ殺したい好きだ殺したい好きだ殺したい好きだ殺したい好きだ殺したい好きだ殺したい好きだ殺したい好きだ殺したい好きだ殺したい好きだ殺したい好きだ






○月×日

かれんちゃんぶっ殺し計画1日目!

人を殺したことがないので人の殺し方を学ぶところから始めないとね!素人の僕が下手な殺し方しちゃったらかれんちゃんに申し訳ないもんね。

とりあえず幸福○心委員会の歌を聞きながら包丁で素振りしたりしてみた。






○月×日

かれんちゃんぶっ殺し計画2日目!

とりあえずいつでもぶっ殺せるように彫刻刀をカバンに忍ばせた。

彫刻刀なら職務質問?受けても大丈夫だと思うんだ。

とりあえずいつもの定位置(彼女の背後)に行き、会話を(盗み聞き)楽しむ。

ここで何も考えずにブスッと刺してしまうのはあまりにも三流。電車内で殺人が起きた場合、たくさんの人に迷惑がかかるからね。平日の朝だからその影響は余計に大きくなる。

かれんちゃんもそんなこと望んでないからね。

誰にも迷惑がかからない、美しい死に方を探さなきゃ。







○月×日

かれんちゃんぶっ殺し計画X日目!

とりあえずいろいろ考えた結果、もうとりあえずぶっ殺してやることにしました!なんだか殺すことを決意したらすんごいやる気がみなぎってきた。なんでかれんちゃんを殺したいのか忘れちゃったけど、もうそんなことどうでもいいよね。

一刻も早く殺してあげなくちゃ彼女が可哀想だ!

朝は小テストがあるから通学中はその勉強のために一旦スルー。学生の本分は勉強だからね。


あれよあれやと放課後になり、いつも通り駅でかれんちゃんを待ち伏せて、いつも通り最寄駅で降りて、いつも通りあとをつけていたんだけど、なんかまた怪しいやつが彼女のことを追っかけてたんだよね。前に見たやつとは違うやつっぽいけど、見た目からして怪しいやつだったから普通に殺してやった。

いやーやっぱり持っててよかったね彫刻刀。

人通りも少なかったし、なんだかすんなり殺せたよ。

首にぶっすりと刃を刺したら悲鳴をあげるまもなくやれたな。

人って結構簡単に殺せるんだね。


あとコイツナイフ持ってやがった。

なんて物騒なやつだ。

ニュースの犯人こいつだろ。



――――――――――



何度か殺しを試してるけどことごとく失敗してる。


漫画でピアノ線で首を掻っ切るトリックを見たので、それを真似てかれんちゃんの下校ルートにピアノさんを仕込んでおいたとき。

やってから気付いたけど、これってスピードがいるんだね。かれんちゃんの首、傷ひとつついてなかったよ。


ドリンクに毒を入れ試供品として渡そうとしたとき。

普通に受け取ってもらえなかった。


毒が余って捨てるわけにもいかないので、彫刻刀に塗ってかれんちゃんを刺そうとしたとき。

刃が錆まくって使い物にならなくなった。


もう普通に重い何かしらで頭をかち割ってやろうとしたとき。思ったより持ち上げようとした岩が重すぎてぎっくり腰になった。


もう僕には人殺しの才能がないかも知れない。

長い間かれんちゃん成分を摂取していないからか、疲労が溜まったまま抜けてないみたいで気分も体も重い。


ぎっくり腰明けの久しぶりの満員電車がいつも以上にしんどかった。

定位置にいた僕は、カーブの時にふらついてカレンちゃんにぶつかっちゃった。初めて彼女に触れられた嬉しさと、彼女に迷惑をかけてしまった不甲斐なさで複雑な感情になったよ。これもまた恋なのかな?


僕を心配そうに見つめる彼女を見て疲れも体の痛みも吹き飛んだ。


彼女は僕に助けを求めてるんじゃないのか。僕が彼女を殺ってすくってあげなきゃだめなんだろ!

その思いでなんとか放課後まで学生をやり遂げ、いつも通り放課後に彼女の跡をつけた。


やる気になったのはいいけど、特に案もないし準備もしてないんだよな。まあなんか思いつくだろうと殺し方を考えながら見慣れた下校路を歩いていると、


ドンッ!


急に後ろからの衝撃と熱を感じ、そのまま僕は倒れた。何度も背中に衝撃が走り、その度に背中が熱くなる。体から何か大事なものが抜け落ちていく感覚がする。


キャー!!


叫び声が聞こえ、同時に僕の体は軽くなり、慌てた様子でどこかに走って行く足音が聞こえる。


彼女は、かれんちゃんは無事なんだろうか。

必死で顔を上げ彼女を探すと、こちらに悲痛な表情を浮かべながら近寄ってくるカレンちゃんの姿が映った。


ごめん、かれんちゃん。

僕は君を殺してあげられないみたいだ。

ぼやける視界のなか、最後に彼女の顔を焼き付けようと顔をさらに持ち上げる。


「つ、、、、の、、、、、、、?」


最後にそう呟き、僕は目を閉じた。



―――――――――――――――――



『昨日午後5時ごろ、〇〇市〇〇町の住宅街で下校中の学生2人が何者かにナイフで襲われる事件が発生。

被害者の1人、鈴木太郎くん17歳は背中を滅多刺しにされる傷を負い、その場で死亡が確認されました。

鈴木太郎くんの背中には何度もナイフで刺された跡があり、、、、、、、、』


記憶に新しい事件が朝のニュースで流れている。


「この子は結構もったな〜。若くて生気も濃くて美味しかったし。やっぱり思春期男子が1番美味しい最後らへんは搾り取りすぎてヘロヘロになっちゃってたから次は気をつけないとね。」

そう幾度となくしてきた形だけの反省を口にする。


"サキュバス"

男の生気を糧に生きる悪魔。

男にだけ作用するフェロモンをだして魅了する。

フェロモンを浴びれば浴びるほど、サキュバスへの思いは強くなっていき、生気の味わいも良くなる。

生気を吸われ続けると疲労が溜まり、冷静な判断ができなくなってしまう。

生気の吸引が原因で死ぬケースはほとんどない。


彼女もまた現代社会に潜む人ならざる生きもの

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恋煩い モズク @Bigfxhk

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