第3話 解錠式とエピローグ

「これか」

「うん」


 翌日、俺は夏子なつこさんが作ってくれた朝飯を食べ終えた後、恵里えりに金庫が置いてある物置部屋まで案内された。


「そういや、こんな部屋あったな」

「昔よく、かくれんぼとかで使ってたよね」

「ついでによく恵里が悪さした時に、夏子さんに叩き込まれてたな」

「うっ……嫌な思い出……」


 ここって、地味に薄暗いから明かりがないと、結構不気味で怖いんだよな。


「んで? 肝心の金庫は?」

「あー、あそこの押し入れの前に置いてあるやつだよ」

「あれか」


 大きさは縦横、五十センチくらいかな? 扉は観音開き式か。


「いやぁ、これを押し入れの中から出すのは大変だったよ」

「だろうな」

「それに結構重かったし」

「そいつはご苦労さん」

「ねぇ、本当にそう思ってる?」

「思ってる思ってる」


 嘘だけど。


「まぁ、とりあえず、早速取り掛かってみるよ」

「うん。頑張ってね。武尊たける

「へいへい」


 どれどれ。

 俺は金庫の前に座り、金庫をじっくりと調べてみる。

 まずこの金庫には、ダイヤルが九個付いてある。左の扉に四個、右の扉に四個、んで真ん中辺りに一個だ。

 とりあえず、その中の一つを軽く回してみる。

 うん。全然スムーズに回るな。錆び付いて回らないっていう事態にならなくてよかった。

 ダイヤルの数字は一〜十二まで。他のダイヤルも全く同じだな。

 んで、問題はこれだな。左右の扉にそれぞれ何かの文字が彫ってある。

 左の扉には、♈︎3・♉︎4・♊︎5・♋︎6・♌︎7・♍︎8・♎︎9・♏︎10・♐︎11・♑︎12・♒︎1・♓︎2のマークと数字に、『小 星・獣・星・獣 大』という文字だ。

 右の扉には、子1・丑2・寅3・卯4・辰5・巳6・午7・未8・申9・酉10・戌11・亥12の十二支の漢字と数字に、『東・西・南・北+』という文字。

 そして、真ん中辺りに付いてあるダイヤルの下には、♊︎+卯の文字。


「なんだこりゃ……」


 やべぇな。全く分からねぇぞ。


「あ、武尊」

「うん?」

「横も見てみてよ。そこにも文字が彫ってあるから」

「おう。分かった」


 ほう。確かに何か彫ってあるな。もしかしたら、何か重大なヒントが彫ってあるかもしれないな。

 左側の側面には、『空に輝く大きな獣と神に仕える同じ獣が答えを導くなり』。右側の側面には、『四匹の神の獣を集めよ』か。


「どう? 分かりそう?」

「うーん。今のところさっぱりだな」


 この側面の文字は確実にヒントなんだろうけど、意味が分からなすぎる。

 まずは、扉に彫ってある文字やマークの意味が分からないと先に進めないな。


「なぁ恵里」

「ん?」

「このマークってさ、何だっけ? どっかで見たことあるんだけど、思い出せなくてさ」

「え? 武尊まじで言ってるの?」

「何だよ。何か文句あるのかよ」

「いや、文句はないけど、普通分かるでしょ」


 うるせぇよ。分からなくて悪かったな。


「はぁ……十二星座だよ。テレビで見たことあるでしょ?」

「あぁ、それか」


 朝のニュース番組の最後にやるやつだな。どうりで見覚えがあったはずだわ。てか、何だったらさっき見たような気がするわ。


「因みに上から、おひつじ座、おうし座、ふたご座、かに座、しし座、おとめ座、てんびん座、さそり座、いて座、やぎ座、みずがめ座、うお座だね」

「へぇ、詳しいんだな」

「まぁ女の子ですからね。女の子は占いが大好きなのですよ」

「あーはいはい、そうか。占いやってる私、可愛いっていうあれな」

「すごい偏見!?」


 まぁとにかくだ。恵里のおかげで、このよく分からんマークの正体が分かった。これで一歩前進だな。

 後、分からないのは法則性か。十二支に十二星座に数字。どれも十二か。そんでもって、側面に掘られた文字……。


「ん? 待てよ……」


 もしかしたら、難しく考えすぎなんじゃないか? もっと単純にシンプルに。目の前の暗号をそのままにすれば。


「ふっ、ははは」

「た、武尊……? どうしたの?」

「いやな。分かったかもしれん」

「本当に!?」

「あぁ、それを確かめる為に今から開けてやるよ」

「うん!」


 さてさて、解錠式の始まりだな。


「武尊! 早く開けてよ!」

「分かったから、焦るなよ」


 ったく……落ち着きのないやつめ。


「んじゃ、一つ一つ暗号を解いていくぞ」

「分かった」

「まず、十二支の漢字や十二星座のマークの下に彫ってある数字はダイヤルの番号のことだ。理由はどっちもダイヤルと同じで一〜十二まであるからだな」

「まぁそうだよね。それは私も同じこと思ってた」

「ま、これはバカでも分かるよな。ただ問題はこの先、この数字をどう使うかだな」


 まずはそうだなぁ。難しいちょい方の左の扉から解いていくか。


「注目すべきはこれ」


 俺は左側面の暗号を指さす。


「この『空に輝く大きな獣と神に仕える同じ獣が答えを導くなり』っていう文字が指しているのは、十二支と十二星座のことだ」

「なるほど?」

「お前、分かってねぇだろ……」

「う、うるさいなぁ。いいから説明を続けてよ」

「はいはい。んじゃ続けるぞ。まず、十二支と十二星座の法則性だな。それはどっちにも獣、つまり動物が使われているってことだ」

「ん? それだと、十二支の方は全部じゃない?」

「そうだな。だから絞り込むんだよ」

「絞り込むって、どうやるのさ?」

「これだ」


 俺は『同じ獣』のところを指さす。この文字が左の暗号の答えを導く最大のヒントだ。


「十二支と十二星座で同じ獣……あ、そっか」

「気がついたか?」

「うん。ヒツジとウシ」

「正解だ。つまりだ、おひつじ座の3、おうし座の4、未の8、丑2が左のダイヤルの答えだ」

「でも、どのダイヤルにどの数字なのか分からないよね?」

「その答えはこれだ」


 今度は扉に掘られた『小 星・獣・星・獣 大』の文字を指さす。


「これは単純に考えていい。星は星座、獣は十二支だ。んで、上に小、下に大ってことは、数字の大きさだな。つまり、並びはこうなる。3・8・4・2だな」

「おぉ〜なるほどね」


 これで左はオッケーだな。次は右だな。


「よし、んじゃどんどんいくぞ」

「うん。よろしく」

「さてと、右の扉だな。恵里、四匹の神の獣って何だと思う?」

「いや、分かんないよ……」


 えぇ……分かんないの? 割と速攻思い浮かぶと思うんだけどな。


「四神だよ」

「四神ってあの、龍とか虎の?」

「そう、それ。いいか、右側面に彫ってある、『四匹の神の獣を集めよ』ってのは、四神のことだ。それを十二支と十二星座の中から集めるんだ」

「なるほど?」

「やっぱ分かってねぇな、お前……」

「うるさい」

「まぁいいや。んで、四神は何の動物か分かるか?」

「そのくらい分かるし。青龍、白虎、朱雀、玄武でしょ?」

「そうだ。んじゃこの中から当てはまるのは?」

「えっと……青龍は辰、白虎は寅、朱雀は酉、玄武はみずがめ座かな?」

「惜しい。玄武は蛇と亀が合わさったようなやつなんだ。だからみずがめ座だけじゃ足りないんだよ。だから、この場合は、みずがめ座と巳になる」

「なるほどね」


 これで右の暗号の半分が解けたな。


「因みに恵里、四神がそれぞれどの方角にいるか知ってるか?」

「確か、青龍が東、白虎が西、朱雀が南、玄武が北だったよね?」

「正解だ。後は、この東西南北に四神の数字を

 当てはめればいい」

「ということは、東は辰だから5、西は寅だから3、南は酉だから10、北は玄武だから2と6?」

「う〜ん。ちょい惜しいな。よく見てみ、北の横に+があるだろ? これは二つの数字を足せってことだ。だから答えは、5・3・10・7になるんだ」

「そっか。なるほどね」


 これで右の暗号は解けた。最後に真ん中のダイヤルの暗号だな。でもまぁ、ここまでこれば、答えはほぼ出ているようなもんだ。


「一応聞くけど、最後の暗号の答えは分かるか?」

「9だよね?」

「理由は?」

「ふたご座の5と卯の4。足して9だから」

「正解」


 俺はそう言って、左から順にダイヤルを回していく。ダイヤルを合わせるとガチャっと金庫の鍵が開く音がした。


「へへっ、これにて一件落着ってやつか?」

「そうだね。お疲れ様、武尊」

「おう」


 ――――

 ――


 数日後、俺はいつも通りサークルで推理小説を読んでいた。

 あの後、金庫の中身を見たんだが、まぁ色んな意味で驚いた。金銀財宝みたいなもんが入っていたら、そりゃ良かったんだが全然そんなことはなくて、入っていたのは一通の手紙だけ。

 送り主は、恵里の祖父、正鷹まさたかさん。手紙の内容はこうだ。

『わしが作った金庫を開けるとは中々やるな! だけど中身が入ってなくて残念だったねぇ〜。金銀財宝とか金目の物が入ってると思っただろ? 人生そんなに甘くないってことだ。はっはっはー!』

 とのことだった。

 まぁようするに正鷹さんのイタズラってこだな。思い出してみたら、あの人って結構イタズラ好きだったな。もしかしたら、夏子さんはこれが分かってたから、無理に開けなくてもいいって言ってたのかもしれないな。

 まぁ、恵里は結構キレてたけど。そりゃ仏壇に中指立てるくらいに。バチが当たらなければいいけど……。


「武尊っ!」


 そんなことを思いふけってると、恵里が何時かみたいにやってきた。

 うわぁ……何かすげぇ嫌な予感がする。


「頼む。帰ってくれ」

「まだ何も言ってないんだけど!?」

「聞きたくないの。だから帰れ!」

「いや、実はね」

「人の話聞いてる? 聞きたくないって言ってるんだが?」

「嫌でーす。勝手に話まーす」


 あーもう……好きにしてくれ……。


「それでね。また暗号付きの金庫が見つかったんだ!」

「つまり?」

「にへへっ、また開けてよ」

「はぁ……やれやれだな……」

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アンロック 宮坂大和 @miyasakayamato

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