第57話

 この学園に来てから早くも数日が過ぎた。

 遅刻した俺に同級生たちはどんな反応を示すだろうかと緊張していたが、そんなものは不要だった。

 誰も、俺の事なんて気にしちゃいないのだから――。


 ◆

 

「アラディア領から参りました、ルーカス・アラディアと申します。訳あって入学が遅れてしまいましたので、これから皆さんより遅れた分を取り戻すために励む所存です! 何卒よろしくお願いします!」


 同級生とはいえ、挨拶は丁寧に。

 礼儀の無い恥ずかしい奴だとは思われたくはない。

 アラディア領に対して少しでも良いイメージを持って欲しい。

 なにせ、数年後にはここへ愛しのマイシスター、レイラも来るのだ。

 俺は少しでも妹の居心地がいい環境を作ろうと意気込んでいた、のだが――。


「アラディアってどこだっけ?」

「僕も知らない。たぶん辺境だろ。王都に済んでれば入学式に間に合わないなんてありえないよ」

の貴族か。気楽そうで羨ましいね」

「アイツらはここを卒業したらのんびり自領に引きこもれるからなぁ。俺も辺境に生まれたかった……」


 教室内には俺に対して随分とよそよそしい――というよりも部外者を相手にするような態度の人間が多かった。

 攻撃的とかそういうことでもない。

 ただひたすら、赤の他人というか、興味の対象外というか、とにかくそういう大きな壁を感じる空気感。

 辺境と王都の貴族にはへだたりがある。

 王都内の社交界で会う機会の多い彼らと、引きこもり状態で人と会う機会の無い俺たち辺境出身者。

 王都の学校に入学すればアウェイになるのは当然のこと。

 

 では、辺境出身者同士はどうなのかというと、それもまた俺に友好的ということはなかった。

 辺境出身者も、互いの領土に隣接している者同士は仲が良いのだ。

 ただ、その輪を広げようとしない。

 仲の良い2,3人で小さなグループを作って終わり。

 それ以外とは関わらない。

 この学園を卒業してからも付き合いが続く者と、そうでない者を分けている。


 いずれも、俺に対して敵対心を持っているとかそういうことはない。

 とにかく無関心。

 俺という存在は、彼らの眼中にはない。

 アラディア領にも隣接する領地はある。

 けれど、残念ながらそれらの領地には俺と同じ世代の子供はないらしい。

 

 詰まる所、俺は入学時点からボッチ状態が約束されていたのだ。


 ◆


 俺の同級生たちとのファーストコンタクトはそんな感じの薄味で終わった。

 想定していた通りの状況ともいえるけれど、実際にボッチ生活を続けてみると中々に寂しい。

 

「ってか、なんでクオンはいないんだよぉ……」


 そして、俺には1つの誤算があった。

 俺より先に到着しているだろうと思っていたクオンが学園に居ない……。

 俺の他にも入学に間に合わなかった可哀そうな奴が2人も居るんだと思っていたら、片方はクオンだった。

 どうなってんだよ……。


「早く来てくれ、クオン……」


 俺は唯一の話し相手になるであろう彼女の到着を心待ちにしている。

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この魔法師見習い、杖を振ればポンコツ、剣を振れば世界最強です。~魔法使いに憧れる俺、剣の才能だけが異次元チートレベルだった件~ 真嶋青 @majima_sei

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