第11話 シエナ


「そこらへんにしときなよ。嫌がってるじゃないか」


俺は男を止めることにした。


「あぁん?なんだてめ……」


男の言葉は最後まで聞かない。


「殴られたいの?なら殴るけど。ここは穏便に済ませない?」


「「ひ、ひぃぃぃぃぃ!!!」」


男たち2人は逃げていった。


「す、すごい……睨んだだけで男たちふたりがあっさりと」


「じゃあね」


俺はそのままスタスタと歩いて学園の方に向かっていくことにした。


「ちょ、ちょっとまっ……」


そんな声が聞こえてきていたけど、無視して俺は学園の方に急いだ。

名乗るほどの者ではないというやつだ。


学園に向かうと、書類にあった通り理事長室へと向かう。


とりあえず部屋を3回ノックか。


コンコンコン。


「どうぞ」

「失礼します」


理事長室の中へ。


「君がゼクトくんだね。待っていたよ。それと突然の招待に応じてくれてありがとう」


ぺこり。

頭を下げてきた。


「いえいえ、こちらこそありがたいですよ」


とりあえずこれで表面上的な会話を終えることにしよう。本題に入ることにしよう。

向こうもその気だったようですぐに本題に移ってくれる。


「単刀直入に。君は当学園に入学する意思はある?」

「はい」

「よし。じゃあ入学決定だ」


え?

えっ?!


めっちゃあっさりしてるな。


もっと本格的な入学試験とかあるんだと思っていたんだけど……。


「驚いているようだね?君はクズリスを倒したのだ。入学する資格は十分にある」


なるほど。

そういうことだったのか。


「ちなみに学園が始まるのはあとどれくらいなんですか?」

「残り2週間くらいだな。学園が始まるまでは思う存分王都を観光したりして、慣れたりして欲しい」



思ったより早く入学の手続きが終わってしまった。

あの後制服の採寸なども行い受け取った。


まぁ寄り道もせずに帰ろうかなと思いながらグラウンドを歩いていた。


「また会ったね」


後ろから声。

振り返るとそこにはさっき助けた女の子がいた。


「名前まだ聞いてなかったね。」


さすがこの状況で名乗らないほど俺も意地悪ではない。


「ゼクト」

「ゼクトくんだね。私はシエナ。今年から入学するんだー」


目をキラキラさせてた。


「今日は学園のこと見ておきたくてここにきたの。よかったら一緒に見て回らない?」


まぁ、正直言って早めに入学手続きは終わってしまったので時間を持て余しているのも事実だ。


「いいよ」

「やった!ちょっと見て回ろうよ!」


俺とシエナは少し学園の中を歩いて回ることにした。


いろいろな場所を見て回りながら学園の話についても少しだけしていく。


「はぅぅ、私もクラスAになりたいなぁ」


自然と会話はクラスの話になっていく。


「そんなにいいんだ。クラスAって」

「いいよ。学園の憧れの的だよー」


「ちなみにクラスってどうやったら上がるの?」

「えーっとね。学園内での行動によって上下するんだって」


「へー」

「例えば外でモンスターを倒したり、学園で上級生を倒したりするとクラスアップするんだって」


けっこうわかりやすいシステムなようだな。


そんな会話をしながら学園内を歩いていた時だった。


「ぴーぴー」


甲高い鳥の鳴き声が聞こえてきた。


「どこから泣いてるんだろう?分かる?ゼクトくん」

「あっちじゃないか?」


俺が指さしたのは木が生えている方だ。

木の下では小鳥が地面に蹲って泣いているのが見える。


「あー、あの子だね」


俺たちは小鳥にちかよっていく。


小鳥のいる場所と木の上の方を見る。

木には鳥の巣があった。


「落ちちゃったっぽいな」

「うん。この鳥さん怪我してるね。いたそー」


シエナは鳥を優しく包み込むように両手で持ち上げる。


「どうするの?」

「怪我してるし治さないとだね」


シエナが優しく呟いた。


「ヒール」


その瞬間鳥の体は緑色の光に包まれて怪我は治っていくことになった。


全快した。


「ぴーぴー」


シエナの手の中で羽を小さく動かしている鳥。


「がんばれー」


シエナは手の中にいた鳥を応援していた。

やがて小鳥は翼を羽ばたかせて手を離れていった。

そして、鳥の巣に戻る。


シエナの方向を見て「ぴーぴー」と泣いている。


「感謝してるみたいだな。優しいねシエナは」

「【回復魔法使い】として当たり前のことだよ。えへへ」


照れたように笑っていた。


シエナはそれから空を見た。

俺め空を見る。


(けっこう時間経ったな)


空はすでに夕焼け空って感じの色になっている。

つまり夕方だ。


クルット俺の方を見てきたシエナ。


「私そろそろ帰ろうかな。あんまり遅いとお父さんたち心配しちゃうしね」

「送ろうか?」

「えーそんなの悪いよー。それに家まで近いから平気だよ?」


(うん?ほんとに平気か?)


なんか、フラグ立てられたような気がしてならないな、このセリフ。

それに、ついさっき初対面のときのナンパの件もあるし。注意するに越したことはないよな。


「いや、送るよ。てか送らせて欲しい。めっちゃ心配だから」


俺が家まで送ってみてなにも問題なかったらそれはそれでいいしね。

ここでひとりで帰して後で後悔するのだけはいやだ。


シエナは少し嬉しそうな顔をしていた。


「え?心配してくれるの?えへへ、うれしーかもー。じゃあよろしくお願いします。ゼクトくん」


シエナの家に向かって歩き始めた。

けっこう大通りを歩いていくようなルートだった。


(けっこう人目があるルートだな。心配する必要性もなさそうだけど……って思うじゃん)


「シエナ。見られてるよ俺たち」

「え?それって私がゼクトくんと釣り合わないから見られてるのかな?」


何を言っているのだろう?この子は。


「好意的な視線じゃないのは確かだから気をつけて」


……そのまま俺たちはシエナの家までついた。


「けっこう大きな家だね」

「こう見えて公爵家の令嬢ですので。うふふ」


口を抑えて上品に笑っていた。


公爵家かぁ、俺の家よりかなり偉い立場の女の子だ。


「まだ見られてる。家にいても気を抜かないでね」


シエナは目をぱちぱちさせて驚いてた。


「すっごいねゼクトくん。なんでそんなに分かるの?」

「ちょっとね」


試練の山で修行していたときは四六時中いろんな方向からモンスターに狙われていた。

そのため……俺は見られているなら視線を察知できる第六感を手に入れている。

見られているのが分かるのはそういうわけだ。


シエナは腕を組んで胸を張っていた。


「でも安心してね。ゼクトくん」


いったいなにを安心しろと言うのだろう?


「私の家はちょー強い騎士団が護衛してくれてるの。有名な盗賊団が来てもけちょんけちょんにして返り討ちだもん。悪党なんて取るに足りないよ!ガハハハ」


待て待て待て待て待て。

それはその騎士団がけちょんけちょんにされて、シエナも死亡するフラグじゃないか?


それと、この子は息をするようにフラグを立てているね?!

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異世界転生したらNTRフラグビンビンだった件~ぜったいに脳を破壊されたくない俺は徹底的にフラグを破壊することにした にこん @nicon

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