第10話 招待



ミーシャとの婚約を済ませた翌日。


父親から「客人を迎えてくれ」の一言で俺は村の入口に向かうことになった。


この言葉にはあまりいいイメージがないんだが……。


「こんにちはゼクトくん」


待ち合わせ場所に向かってみると杞憂だったことが分かった。

村の入口にいたのはソフィアだけだった。


「ミーシャを迎えに来たんだ」


分かっていたことだが、やはりそうか。


ミーシャのところに案内しようかと思っていたら……ソフィアは俺に目を向けた。


「実はゼクトくんにも話があってね」

「俺にも?」


ソフィアは俺に封筒を渡してきた。


「中を確認してほしい」


封筒を受け取る。

中身を確認。


「俺も学園に招待ってことか」


「うん。理事長がゼクトくんの強さを知って。ぜひ迎えたいって話でさ」


ここまで予想していた通りに話は進んでくれている。


正直言ってミーシャがもう寝盗られるようなことはらないと思うし、ひとりで王都に送り出しても問題ないとは思うんだけど。


俺の人生はここで終わったわけではない。ひとつの山場を超えただけである。まだまだ俺の人生は続くし将来のことは考えないといけない。


(俺の家もいつまで安泰か分からないし、やはり学園には通っておくべきだよな)


アーノルド学園は卒業するだけで実績になるらしいし、そんなところから勧誘が来ているのであればやはり行ってみるべきだと思う。


「どうかな?君がすぐにでも来てくれるというならミーシャと一緒に王都まで送りたいと思うんだけど」

「うん。行くよ」

「そう来なくっちゃね」



俺はソフィアをミーシャの家まで案内してから家へと帰った。

学園に向かうことを父上に伝えるためだ。

書斎を訪れると父さんと向かい合う。


「そうか、あのぐーたらしていたお前が学園にか」


もしかしたら反対されるのではないだろうか?

そんな不安もあったけど……。


「いいぞ。学園へ向かいなさい」


学園行きが認められて俺は思わず嬉しくなった。


「ただしゼクト。学園に向かうとしてもオースティン家の人間として恥じのないように生きなさい」

「えぇ、分かっていますよ」

「それ以上のことは特に言うことは無い。ではな」


こうして俺の学園行きは認められることになったけど。アリスは連れて行ってもいいのだろうか?それともこの家にお残し?


「アリスは連れて行ってもいいんですか?」

「お前の専属だ。好きにしろ」


どうやら連れて行っていいらしい。

困ったことがあればアリスに頼ろう。


話をまとめた俺はアリスを連れてミーシャの家へ向かった。

ミーシャの家の前ではミーシャとソフィアが話をしていた。


王都に向かうにあたっていろいろと話をしていた。

俺が近くによるとソフィアは会話を切りあげて俺に目をやる。


「我々はすぐにでも王都へ行けるけどゼクトくんは?」


その質問に俺は大きく頷いた。


王都に向かう馬車の中で俺はいろいろと話を聞いた。

クラスという階級システムが存在することとか、他にも大まかなことだ。


そして、クズリスのやつがクラスAを降ろされたことも聞いた。

その後釜として俺が期待されていることも聞いた。


(学園での生活ではクラスAを狙いたいところだな)


父さんからは恥じないように生きろと言われている以上はやっぱり目指すのは、トップでしょっ!!


馬車に乗ってるとミーシャは喜んでいた。


「ゼクトも学園に行けるようになるなんて、私すごくうれしいっ!」


そう言ってくれると俺としても嬉しいものだな。


(試練の山で修行したのが報われたな)


思い返してみれば試練の山での修行は厳しかった。

実はと言うと途中で何度も投げ出しそうになったけど、それでも続けて良かった。


アリスも涙をポロポロと流していた。


「うぅ……ゼクト様の努力が実られて私は嬉しく思います。とても立派になられましたね」


そんな会話をしていたら……馬車の車窓に映る景色が変わってきていた。

今まで草原ばかり映っていたのに、人工物が見えるようになってきていた。

王都に近付いているなによりよ証拠であった。

そして、だんだんと自然のものは見えなくなり……


「みんな、ついたよ」


車窓からは完全に王都の街並みが見えるようになっていた。


「ここが王都か」


中世ヨーロッパ風の街並みが広がっていた。


馬車を降りるとソフィアは俺に聞いてくる。


「ひとりで行動できる?私は今からミーシャの案内をしなければならないんだが」


ソフィアはもともとミーシャの出迎えをするためにあの村にきたもんな。


優先度はもちろん俺よりもミーシャの方が高い。


「大丈夫だよ」


俺の方はソフィアから書類を受け取っているし、王都周辺のマップも受け取っている。

これからやるべきことも問題なくひとりでできると思う。


「安心したよ。では、ゼクトくん。入学式の日に会おう」


こうして俺はソフィアと別れることになった。

俺は先に宿に向かうことにした。

これから王都で暮らすのだから住処の確保は必須だ。


中堅くらいの宿を借りた。


「あとは俺一人で済ませてくるからアリスはこの宿で待っててよ」

「おまかせを。行ってらっしゃいませ」

「なにかあったら連絡してよ」


この世界には魔法道具と呼ばれるものがあって、それを使えばスマホのように通話することができる。

べこりと頭を下げるアリス。


俺はひとりで学園の方に向かっていくことにした。


学園は丘の上に立っており、かなり目立っていた。

そのため学園に行く道で迷うことはまずない。


まっすぐに学園への道を進んでいく。


そろそろ街の部分を抜けるかな?ってところまで進んだ頃……声が聞こえてくる。


「ちょっと、やめてくれる?」


そんな女の子の声。

それから……


「いいじゃねぇかよ、ちょっとくらい。ふへへへ」


そんな男の声が聞こえた。


(ナンパだろうか?)


ナンパ現場なんてなにげに初めて見た気がする。

俺は物珍しさにつられて声の聞こえる方向へ向かっていった。

ちょっとした裏路地でナンパは行われていた。


男はふたりいて。女の子はひとり。

女の子の方は制服を身につけていた。


アーノルド学園の生徒だろうか?


(ついでだし、助けるか)

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