奇跡の修理テープ

よし ひろし

奇跡の修理テープ

 庭にある倉庫の整理をしていると、古い道具箱を見つけた。死んだ親父の持ち物だろうか。中を確認すると、カッターやペンチなどに交じって面白いものを見つけた。セロハンテープだ。テープそのものはごく普通の透明なもので、幅も二センチほどのどこにもでもありそうなものだった。面白いと思ったのはそのテープが収められていた袋に『奇跡の修理テープ』と手書きで書かれていたからだ。その下に『何でも修理できる』と小さな文字で殴り書きしてある。


 奇跡の修理テープ――その文言に惹かれ、私はそれを実際に使ってみた。


 少し前に不注意で割ってしまった先祖伝来の有田焼の大皿がその倉庫にしまってあったのを思い出し、それをテープでくっつけてみた。

 張り付けたテープが数秒後に溶けるように消え去ると元通りにくっついていた。割れた跡など微塵も感じられない。

 驚き、これは面白いテープを手に入れたと、嬉々となった。


 それからは常にそのテープをポケットに忍ばせ、何か壊れ物があると、くっつけ、修理していった。



 そんな日々の中、私は庭木の剪定をしている最中に、誤って首筋をざっくりとノコギリで切り付けてしまった。

 鮮血がどくどくと流れ、意識が朦朧としていく。ああ、私はこのまま死ぬのかと思った時、ポケットの中のテープの存在に気が付いた。


 もしかしたら――


 ダメもとで傷口をテープで塞いでみた。

 一拍後、驚いたことに傷口はピタリと塞がり、流血も止まった。どうやら生体の修理にも使えたようだ。

 さすがに多く血を流していたので少々を貧血を起こしていたが、しばらく休むと普通に歩けるようになり、簡単な食事を摂った後にはすっかり元気になった。


 その名の通り、奇跡的なテープだ、と見かけ上はごくありふれたセロハンテープを眺めながら、感心し、その後も色々と修理をしていった。



 そんなある日、ちょっとした探し物があり、庭の倉庫を再び覗き込んだ。そこで、何気なくあの最初に修理した有田焼の大皿を見てみようかなと思い立った。

 立派な桐箱を取り出し、蓋を開ける。


 そこで、息を呑んだ。


 直ったはずの大皿が、再び割れていたのだ。それも元と同じ様に……


 何故?


 疑問が頭を覆う。そこでふと思いつく。


 テープが剥がれたのではないだろうか?


 そう、テープなどというものは時間が経てば剥がれ落ちるものだ。どんな強力なテープでも永遠にくっついてなどいない。


 もしこの考えが正しいとしたら、私の首筋のテープもいずれは――

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奇跡の修理テープ よし ひろし @dai_dai_kichi

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