お母さん怪物

 ぼくは十五歳の誕生日に、お母さんが怪物だと知った。

 お母さんは玉ねぎ宮殿に住んでいた。玉ねぎ宮殿は巨大な玉ねぎから無数の根が生えている。

 おかあさんも玉ねぎ宮殿の中で、玉ねぎ宮殿と同じように無数の足を地中へと伸ばして、養分を吸って生きていた。

 お母さんは封じられていたのだ。

「ああぁ、ぼくのお母さん! ぼくのお母さん!」

 ぼくは今でも、眠れない夜があると、その度にお母さんを想って自慰行為に耽る。怪物のお母さんではない、ぼくの本質的なお母さんを想う。怪物ではない、美しいお母さんを想う。

 ぼくの実存なるお母さんはいつも、玉ねぎ宮殿の腐った内壁に押しつぶされて苦しそうに息をしていた。腐敗した酸素を吸っていたのだ。

 十四歳十二か月三十一日までのぼくはお母さんのことが心配で、幾度となく尋ねた。

「お母さん、大丈夫?」

「はぁ、はぁ、えぇ、大丈夫よ、大丈夫だから、黙ってろ。口を開くな、貴重な、大切な、わたしの空気を、奪うな」お母さんは肉で埋もれた口をもごもごと動かして言った。

 ぼくは十五歳になるまで、お母さんが怪物だと知らなかった。お母さんが怪物だと気付けなかったのは、お母さんが怪物だったからだ。

 お母さんがぼくを洗脳していたからだ。

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はく日記(吐く日記) @oeee

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