第13話

 「けどさ、どうしてそのタイミングだったんだろう?」

有紀が不思議そうに言う。

「さぁ?私にもわかんないけど」

──もしかして?と思い当たる理由はひとつだけ、ある。

有紀が嬉しそうに走っていくのとすれ違ったって言ってたから、私がひとりでいるんじゃないか?と考えた可能性もゼロではない。

 

 「たまたま、なんじゃない?たまたま里穂がひとりでいたから」

たまたま……そうだよね。

たまたま、ひとりだった。

いつも、三人でくっついてるもの。

 

 「たまたまで告る?」

「でも、呼び出す勇気までは出なかったとか?」

(ふたりともバレンタインの時、勇気出して呼び出したんだよね)

「でも、告る方が勇気いるんじゃない?」

(そう。勇気出して告白して……OKもらった)

「告って断られるより、呼び出して来てくれなかった方がダメージ大きいとか?」

 

 ふたりで盛り上がってる。

「はい、そこまで。かは、遠藤君しか知らなくていいんじゃない?」

「まあ、そりゃ……ね」

「たしかに」

私はふたりの会話を途中で遮った。

……これ以上深く掘り下げられたら困るのは私だから、だけど。

と思ったのか、ふたりともそれ以上の追及はやめてくれた。

 

 「ねえ、話は変わるけど。ふたりとも、明日とかデートするんじゃないの?バレンタイン後、最初の週末だよ?」

「あ……実は、そうなの」

「私も……えへへ」

「あ~もう。聞いた私がバカだったわ。……そろそろ切ろっか。待ってるんじゃないの?彼氏たち」

 

 デート、楽しんでくるんだよ。

その言葉を最後にグループ通話を終了させた。

ふぅ……思わず、ため息をついてしまった。

(あ、あの本、読んでみようかな)

カバンから本を取り出す。

女の子と男の子のイラストが表紙に描かれている。

パラリ……ページをめくる。

 

 パラ……パラ……。

五十ページにも満たない薄い本。

あっという間に読み終えてしまった。

そして──もう一度、読み返してしまった。

 

 短いのに、考えさせられる本だった。

共感できるところも多かったし、知らなかったことも書いてあった。

「イルカって……そうだったんだ」

パラパラと流し読みをした永田君が『興味深い』といってた理由が、よくわかった。

そして、永田さんにも感謝した。

「遠藤君がハズレがないって誉めてたの、わかるわ」

それくらいには、ありがたい本だった。

 

 有紀のことが好き。

有紀のことが好きな自分自身も、好き。

相手のことが欲しいとか、自分のものにしたいとか。

意味ではない『好き』って、いっぱいあっていいんだよね。

うん。

 

 家族のことが好き。

いい本を紹介してくれた永田さんも、好き。

そのレベルの『好きな人』は、いっぱいいる。

『好き』って、奥が深いなぁ……そう考えながら、私は本を閉じた。

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好き、ということ 奈那美 @mike7691

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