第12話

 もう少し、ちゃんと遠藤君に謝った方がよかったかも?

そんな考えがふと心をよぎった。

でも、あまりくどくどと謝るのは私の性分ではないし、謝りすぎるのもよくない……そう、思うことにした。

スマホを開いて再度アプリを立ち上げる。

 

 今度は有紀と佳織との三人のグループのアイコンをタップして開いた。

受話器マークを押す。

「もしもーし」

「はーい。参加開始」

「待ってました」

……ほんとに話が聞きたかったのね。

通話開始したとたんに、二人とも参入してきた。

 

 「早っ!」

「そりゃ、そうでしょ。里穂の恋バナなんてレアな話題、聞き逃すなんてありえな~い。ね、佳織」

「そうそう。ほら、サクサクと吐いちゃいなさい」

「いや、吐くって。私は犯罪者じゃないっての」

 

 いつもの……今週の頭までは毎晩のように、こうやってしゃべってたのに。

まるでずっと昔のことのように感じちゃう。

「というかさ、なんかこうやってしゃべるの、久しぶりな気がしない?」

佳織が言う。

「だね。え?何日、やってなかったっけ?」

「……三日、やってなかったよ。今日が四日目」

 

 「え?そうだっけ?そんなもの?」

「有紀も佳織も、この三日間それぞれ彼氏と電話してたんでしょ?」

「あ、バレた?」

「有紀も、だったんだ。ごめんねぇ里穂」

「別にいいけど」

ほんとはよくない。

毎晩の電話も楽しみの一つだったから。

 

 「それで?どんなタイミングで告白されたの?」

「あ~。ほら、バレンタインの日にさ、ふたりともそれぞれチョコ持って告白しに行ったでしょ?」

「うん」

「それで先に佳織が戻ってきて、斎木君と帰る約束したからって教室を出て行ったよね」

「そうそう」

 

 「そのあと、しばらくして有紀が帰ってきて。加藤君と帰るからって教室を出たよね」

「うん。里穂がひとりになっちゃうって思ったんだけど……」

「私が、気にしなくっていいよって言ったんだよね」

「うん、そう。そう言ってもらえて、すっごくうれしかった……って、すっごく昔のことのように言ってるけど、火曜日のことなんだよねぇ」

 

 「それで有紀を見送って、私も帰ろうとしたら遠藤君が教室に入ってきたんだよね。忘れものか何かかな?って思ってたら……」

「告られたと?」

「ねぇねぇ、なんて言って告られたの?」

「え?あ……っと。『ぼく安藤さんの事が好きで、ずっと目で追ってて……』だったかな」

 

 危ない。

ここまでしか言われなかったことにしておかなくちゃ。

このあとに続く『だから気づいたんだ』は言えない。

「え?それだけ?」

「そうよ」

「めちゃくちゃシンプルというかストレートというか」

 

 「だから言ったでしょ?たいした話じゃないよって」

「それにしても……シンプルすぎる。で、里穂はなんて答えたの?あ、フッたというのはわかってるけど」

「え?そっちもシンプルよ。『ありがとう。でも、ゴメン』って言ったの」

……そのあとに『今は』があることも、ふせておこう。

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