エアリアル学園 入学試験 壱
「カタリナ学園長、お手紙ですか?」
副長に後ろから声をかけれれるまで、気が付かないほど想いに
「ああ、昔の教え子でね。今度、息子がエアリアル学園の入試を受けるっていうんだよ」
「息子さんですか……、それはまた……」
副長が何を言いたいかはよく分かる。息子、つまりは男子ということだ。男子では合格できたとしても〝
「どちらにせよ、もうそんなに月日が経つんだね、、、」
マーガレットとアルクは当時私が行っていたゼミナールを受講してくれていた生徒たちだった。まったく人気のないゼミだったけれど、あの二人は熱心に私の授業を受けてくれた。
「魔法と魂の関連性」という、いまだにオカルトとバカにさせれている分野の研究だった。マーガレットはいつもアルクにべったりで、私の講義よりアルクに熱心だった可能性もあるけれど。〝
そしてそれは卒業後も続いたようだ。二人から結婚の知らせが届いた。結婚式にも参列させてもらった。マーガレットの妊娠を知らせる手紙には、「先生に名前をつけてほしい」と書かれていた。とても嬉しくて、
しかし、アルクの
アーシャ女王から「私が傍についていますので大丈夫です、カタリナ先生」という手紙を貰った。そして、男の子が無事に産まれたという知らせがきた。アルクによく似てとても素敵な子だと書かれていた。シュベルトという私が贈った名前をつけてくれたと書いていた。大きくなったらアルクみたいに、女の子にモテモテになりそうと書かれていた。アルクのことがたくさん書かれていた。
私は願った。どうかシュベルトが元気に育ってくれますようにと。マーガレットが一人になってしまわないようにと。
さて、もの思いに
特に今年の入試には三人の勇者が参加する。不測の事態を想定しなければ、何かあった場合私の首ひとつでは済まない。
私の戦いが始まるのだ。
◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■
マーガレットからシュベルトが第二次試験に合格したという手紙が届いた。私は試験の対応に追われ過ぎて、シュベルトの結果を確認している時間さえなかった。なので私が手紙を受けってシュベルトの第二次試験に合格を知ったのは、第三次試験三日目の短い昼休みだった。すでにシュベルトは第三次試験を受けた後だろうか。
「まぁ、しかし、、、男子で第三次試験をクリアするのは現実的に考えて、、、」
きびしいのである。それはあまりにも厳しいことなのである。エアリアル学園五百年の歴史の中でも、数人の天才的な素質を持った男子のみが第三次試験を突破できた過去はある。しかしシュベルトの父親のアルクは天才とは程遠い。これは仕方のないことだ。〝
「学園長! 緊急事態フェーズⅣの知らせです! すぐに現場に向かってください!」
緊急事態フェーズⅣ!? 只事じゃないね。
「どこだい。案内しておくれ」
現場は第三次試験の会場だった。そこには三人の試験官が必死に説明をしている場面だった。
「だから何度も言ってるんです! 男子受験者が私たち三人の
今の話を聞いただけでも無茶苦茶だった。彼女たち三人はエアリアル学園の講師の中でも上位に入る魔導師だ。その三人が合わせた
「カタリナ学園長、この花なんですがね、、、」
なんだ!? これは、、、 光が、生命力が、花の外まで溢れている。
「この花もまさか!?」
「はい、彼女たち曰く、男子受験者が〝ル・ポーション〟を使用した結果だそうです、、、」
ル・ポーション!? ル・ポーションだと、、、
あり得るのか、そんなことが。受験者レベルのル・ポーションなど、普通は擦り傷や打撲を少し癒せるかというくらいだろう。そもそも試験に使用する枯れかけた花が蘇るような魔法ではない。
「
もはや悪い冗談なのではないか。ここに居る皆で私を騙して楽しむために、裏口を合わせているのではないかと疑ってしまうほどだ。
「学園長、、、これは男子生徒が何かの不正を行っているのでしょうか」
不正? こんなことができる不正がこの世にあるのだろうか。なにより、、、
「あの〝聖者〟たちの目を
そうだ。聖者が見張っている以上、不正など不可能だ。実力以外だと考えるほうが不毛なこと。つまりは────
「その男子生徒の評価は、基準に従ってつけなさい。我々は如何なる受験者にも正当な評価を付ける。それが王族であろうと、平民であろうと、女子であろうと、男子であろうとだ」
とんでもない受験者が現れたということだ。しかも勇者の入学に合わせて。裏でどんな巨大な勢力が動いているのか、私などには想像もできないね。
あの御三方の耳に入れるべきか、、、
いや、今はまだ
「そういえば名前を聞いてなかったね。その男子生徒はなんて名前だい?」
手渡された資料にはこう記されていた。
受験番号1221番
シュベルト・ウォルフスター と
◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■
「第四次試験の、シュベルト・ウォルフスターの担当試験官は私と
エアリアル学園の理事が集う緊急理事会義を開いた。シュベルト・ウォルフスターの件で承認を取らねばならなかった。
「学園長、発言させていただきます。
彼女の問いかけに「そうだ」と短く返答する。
会議室がざわつき始めた。やはりこの話し合いは難航しそうだ。
「さすがにそれは、、、ウォルフスター君だけが、不公平に試験の難易度が上がってしまうと思われます。エアリアル学園の理念に反する。私は反対です」
理事の一人が反対を唱える。当然の意見だ。なぜなら、第四次試験で受験者が相手にする試験官の数は五人なのだから。しかもこの学園の最高の魔導講師九人に与えられる、
「ちゃんとクリアした分の得点は全て加算するから、不公平ではない。シュベルト・ウォルフスターが十人抜きをすれば、その加点は全てカウントする。つまり彼は〝
会議室が喧騒のようなざわめきに包まれる。あきれている者たちまでいる。
「学園長、それは馬鹿げたことです。〝
彼女はひと息ついて、さらに言葉を続けた。
「もし何かの間違いで彼が〝
私も言いたいことはよく分かっているよ。
「だからこそ、今回の試験で見極めたいのさ。そこまでの想定が必要な少年かということを」
ざわつきが収まらない会議は深夜まで続いた。結局は理事の皆が折れてくれて、シュベルト・ウォルフスターの第四次試験は異例の特別試験となった。
マーガレット、アルク、すまないね。キミらの息子が何者なのか見極めさせてもらう。
◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■
「2750番、中に入りなさい」
緊張を押し殺して私はシュベルトの受験番号を呼ぶ。彼の試験時間を最後にして、この会場には他の受験者が居ないようにした。もし彼に協力者が居たとしても、これでは助力は不可能だ。
彼は私の前に散歩でもするように現れた。美しい黒髪、十三歳にしてすでに高身長なのはアルクの血を受け継いでいるからだ。その顔は世の女たちを惑わすような美形で、マーガレットの面影もある。
間違いない。この子はあの二人の子供だ。しかし、ひとつだけ異物を感じる。あの二人が持ちえないものを持っている。
虹色の瞳。なんだこの輝きは。この学園で長く講師をしてきた。数十万という生徒に接してきたが、こんな瞳を持つ者は初めてだ。
「君がシュベルト・ウォルフスターか……」
私のつぶやきに「ハイ」と彼は元気な返事を返す。あの頃のアルクと同じ表情で。
「それでは第四次試験を始める。第四次試験では
私はこの学園の学園長だ。だから使命を果たそう。彼の能力を見極めることが私の役割なのだから。
彼はふむふむと聞いて、所定の位置についた。あの歳の男子が大人の女性魔導師と模擬戦をするなど、足が震えてもいいはずなのに。彼はまるで、自分の敵にすらなりえないと確信するような表情だった。
そして試験とはまったく別のことでも考えていた自分の頬を叩く仕草をした。
「それでは、始め!」
私の掛け声に、彼の目つきが変わる。瞬間、全身に恐怖が走り抜けた。なんだ、このプレッシャーは!?
これで彼の実力が──── えっ?
彼女は彼に課題を告げて、即座に切りかかったのだ。
しかし、今この瞬間、すでにこの建物の天井に叩きつけられていた。見えなかった。なんの魔法を使ったのかもさえ分からなかった。
とういうより、今の瞬間に魔法を二つ行使したのか。二種の魔法を刹那の時差もなく同時に行使したのか!?
あまりのことに試験官全員が呆然としてしまっていた。上から彼女が落ちてくるのに、誰も動けずにいた。シュベルトはそんな彼女をふわりと受けとめて、苦悶の表情を浮かべた。
「すいません。魔力の調整を誤ってしまって、この方をケガさせてしまいました、、、」
心底申し訳なさそうな顔をした。
「い、いや、彼女も一流の魔導師だ。ケガをさせたからと気に病むことはない、、、」
シュベルトは「回復させてもらっていいですか?」と問うてきたので、後で我々がするから試験を再開しなさいと指示した。
二人目の
三人目は、
そして、四人目と続いたのだけれど、徐々に試験官がケガをせずに、シュベルトが課題を攻略していくようになった。六人目になる頃には、明らかに試験官を壊さないように慎重に魔法を放っていることが、この場に居る誰の眼にも明らかだった。
彼女たちは
最初の三人に大きなケガを負わせてしまったのは、まさかこんなに弱いと思わなかったからだろう。
悍ましい化け物を見るかのような表情だ。もう今試験を行っている九人目の彼女には戦意が無くなっている。どんな魔法を使っても優しく対処されてしまっている。とうとう彼女は両膝をついて、泣き出してしまった。シュベルトはおろおろとして
「シュベルト。最後の相手は私だ。
私は魔導師としては
私が具現化した剣を構えると、シュベルトも剣を具現化させた。私は構えて
あれは一対一を想定している構えではなかった。百…、千…、まさか万!?
なぜそんな狂った状況を想定した構えを、正気でできるのか。この子はどんな戦場を生きてきたのか。あの穏やかで優しいアルクとマーガレットの子が、
勝負は私から動いた。シュベルトから先に動かすつもりだったが、それさえも赦されなかった。動かされた。魔法ではなく、剣の技量差でそうなった。
シュベルトの剣に吸い込まれるように私は崩されて、脳天にコンとだけ打たれた。私の髪の毛一本落とさぬように。
「私の負けだ。シュベルト・ウォルフスター、第四次試験を終了とする、以上だ。」
私の言葉を聞いた彼は、すぐに会場の隅で横たわる
「君の攻撃で試験官が怪我をしたとしても、君の採点を下げるようにはしないから安心しなさい」
分かっていた。彼がそんなことのために、駆け寄ったのではないことは。ただ彼女たちにもプライドがあるのだ。十三歳のしかも男子にここまで弱者扱いされては、もう心が折れてしまう。
「ル・ポーションを、彼女たちに使ってもいいでしょうか?」
すでに治癒魔導師は手配していた。もう間もなく到着する頃だ。しかし私は見てみたかった。ル・ポーションなどで、この大ケガを本当に癒せるのかを。
「分かった。好きにするといい」と私が告げると「ありがとうございます」と元気に返事して、天井にまで届く光の大樹を瞬きしている間に生成していた。こんな
シュベルトは回復を終えて、か弱い試験官たちに頭を下げて帰っていった。
その後、
支払う代償も大きかったが、シュベルトが最低限どのくらいの危険度かよく分かった。
シュベルトがその気になれば、少なくともこの学園都市エアリアル程度なら〝
さて、あの御三方に全て報告せねばなるまい。今日から眠れぬ日々が続きそうだ。
◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■
「これらの資料が、現在判明しているシュベルト・ウォルフスターの全ての情報となります」
七階位層学舎域の中でも、生徒たちには立ち入りが禁止されている特別な建造物がある。それが〝
この城砦には、この大陸で最高の魔導防衛システムが施されており、許可なく
故に、月に一度はガルデリア王国、リノアール王国、ルシュノヴァース皇国の最も権力を持つ者が、城内の最上階に位置する〝
その御三方が今私がお渡しした資料に目を通しながら、とても難しい顔をされている。
「カタリナよ、さすがに誇張しておらぬか?」
ガルデリア王国の女王、アーカス・クニシュ・ガルデリア陛下は、私が作成した資料に疑念の眼差しを向けていた。
この御方は、〝
「アーカス陛下、誇張とはどのあたりを指してでしょうか?」
私が提出した資料には、シュベルト・ウォルフスターが第四次試験まで受けたすべての内容、普段の行動、協力者の有無、両親の詳細、彼が幼少期からどのように成長してきたか、などをエルアドロス王国のアーシャ女王への聞き込みの回答も添えてまとめてある。
「カタリナ、そちが剣の技量で、少年に完敗したと書いているではないか」
アーカス陛下は、面白い冗談だと鼻で笑う。
「誇張というなら、こっちでしょ。ル・ポーションで完全回復? そんなの今の魔導学識の根底を覆すことよ。今すぐこの子を捕まえて、魔導研究所に放り込まないといけなくなるじゃない」
リノアール王国の
リノアール王国は女王ではなく宰相が政治の決定権を持つ国だ。なぜなら魔法に対する選民思想が非常に高い国民性で、魔導師として自分以下の者の
なので、血筋で決まる女王ではなく、その時の最強の魔導師が就任する宰相こそが、事実上、国のトップといえるのだ。
リノアール王国には、女神エアリアより授かったと言い伝えられている女神の杖があり、〝
そして三十歳になる今日現在に至るまで、一度もその座を譲らずにリノアール王国の
「四人同時にということも含めて誇張はありません。剣の技量で完敗したことも揺るがぬ事実です」
アーカス陛下とセリカ様は押し黙る。この
もしシュベルトが三大魔導国家への敵対勢力であるとすれば、どれくらいの脅威になりうるかなどは、国をあずかる者として熟考が必要なのだ。
「まったく、馬鹿馬鹿しいわ。二種の魔法を刹那の時間差もなく発動するなど不可能であろう。その時点で、こやつが何らかの不正で欺いているのは明白の事実じゃろが」
私が作成した資料を雑にテーブルに投げたのは、ベアトリクス・クラーラ・リア・ルシュノヴァース44世。この御方はルシュノヴァース皇国の皇帝であり、真祖の吸血鬼の直系だけが受け継ぐことができる、
ルシュノヴァース皇国は
「聖者の監視網を
単純にそんな
「我なら可能じゃ。真祖秘術〝
ベアトリクス皇帝陛下はえっへんと可愛い仕草をして、小さな身体で椅子にふんぞり返った。彼女はこんな幼女のようなナリはしているが、私と同じ年齢で、五十を過ぎている。
これには理由があり、強大な力を持つ上位の
「ベアトリクスよ。それではシュベルトが
アーカス陛下が私が言いたいことを代弁してくれた。
「ふん、頭が固いヤツらじゃ。そもそもシュベルトとかいう小僧は、本当に魔法を使っておるのか、ということを疑うべきであろう」
「は? まさか、、、」
私がベアトリクス皇帝陛下の言葉の意味すら分からずに固まってしまっていると、セリカ様が資料を置いて顔を上げる。
「そうじゃ、こやつの実技を評価するなら全て満点じゃろうな。いや、満点を十個くらいつけてやらんとならん。だが第一次試験と第二次試験の結果は、満点ではないのじゃ。八割から九割というところか? 実技は
そんな、、、 いや、そう考えると辻褄が全て、、、
「実技魔法は学ばなくても初めから使えた。いや、魔法みたいな能力と云うべきか、、、、」
そうだ。セリカ様が仰るように、シュベルトが魔法を超えるような能力を初めから使えて、それを魔導書から得た知識で魔法のように偽装して使っているとしたら、あの
シュベルトが産まれたエルアドロス王国には、三大魔導国家のように多彩な魔法を扱える魔導師が居ないのだ。なにせ私の基準で魔導師と呼ぶに値する者など、アーシャ女王とマーガレットしか居ない。その二人は小国の運営で手一杯で、シュベルトに魔法を教える時間などなかった。目撃談や本人たちの証言とも
シュベルトはほとんどの三大魔法の実演を見たことがないのだ。それこそ弟のようにシュベルトを可愛がっていた、
しかしいくら優秀とはいえ、所詮はまだ学生であるフィーナが使える魔法の種類など、たかが知れている。
シュベルトは知らないのだ。三大魔法に何ができて、何ができないかを。
「聖者のルールは書き換え可能じゃ。こやつは我らには分からぬ方法で聖者のルールを書き換えていると考えれば、これらのことにすべての説明がつく。じゃから、考えるべきは、、、」
「何が目的かということか」
なるほどな、とアーカス陛下は胸の前で腕を組んで、椅子に身体をもたれさせる。
「そうじゃ。この者が一流の魔導師の魔法以上の力とカタリナを凌ぐような闘技を持ちながら、エアリアル学園に入学しようとする目的こそが、我々が議論すべきことじゃろうな。幼少の頃から寝る間を惜しんででも魔法知識の学習に明け暮れたのは、何か強い目的があるからと、我は確信しておる」
「目的は三勇者、、、」
セリカ様はテーブルに肘をついて、下唇に指を当てたまま呟いた。その言葉に沈黙が圧し掛かる。もしシュベルトのエアリアル学園入学の目的が三勇者への接触だとしたら、これは静観してよい話ではなくなる。この世界の未来に大きなリスクを生じさせる。
「でもどう考えてもこの子って、単身で動いているのよね。私たちに対する敵対勢力の関与の可能性は、ほぼゼロだと思うわ。だってこんな力がある少年に命令を出せるなら、まどろっこしいことなんてしなくても、革命でもなんでも今すぐ起こせばいいんじゃない。そう考えると、わざわざ三大魔導国家の象徴たる三勇者に個人の少年が接触したい理由とは、いったいどんなものが想定できるのかしら、、、」
セリカ様は浮かび上がる疑問を口にする。
「たしかに、このシュベルトは現時点で、余の不出来な馬鹿弟子より強いだろうな、、、 そんな駒を、我々に怯えて地下で下賤な活動をしているような輩どもが、持ちえるとは思えん」
「それを言うなら、うちの男の裸の絵ばっかり描いている、
「妙ちくりんな服や、品の無い装飾品にしか興味を示さん我が不良娘など、今戦えば勝負にもならんわ」
御三方は自嘲するように呟き、長いため息を吐いて肩を落とす。この
何をやらせても全て完璧以上に事を成し、御三方のが統治する三大魔導国家に生を受けられたことに、多くの国民たちが幸運を噛み締めて暮らしている。
しかし、完璧と思われていたこの御三方にも、できないことがあられたのだ。
それが、弟子を、妹を、娘を育成することだ。勇者としての正しい道筋に導くことに、日々苦心し失敗し人知れず己の無能を嘆いているのだ。
あるいは、三勇者に才能が無いというのならば諦めもつくのだけれど、あの三人の少女たちは、御三方さえも凌ぐ魔法の才を内に秘めている。原石の煌めきが、その鱗片が見える。まだ未熟で、勇者としての特殊な力に覚醒してないにも関わらずだ。
しかし、あの三勇者には気持ちがない。強さへの渇望が、執念が、熱意がないのだ。むしろ、他のどうでもいいような趣味に魔力のリソースを費やして、成長の妨げになることばかりしている。
「いっそのこと、シュベルトにあの馬鹿弟子を鍛えてくれと頼んでみようかの、、、」
「いいわねそれ。うちの
「我の不良娘など立派な勇者になるまで鍛えてくれるというなら、小僧を
御三方は投げやりな笑みを受けべて、その気もない冗談を並べる。本当にこの御三方ともあろう方々が、勇者のこととなると悩みが尽きないようだ。
「ゴホンっ、、、次の第五次試験のことなのですが、いかがなさいますか?」
私は場を仕切り直すように御三方に意見を求める。
「それなら今日私たちが立てた仮説が正しいかの、検証ができるような試験内容がいいと思うわ。もちろんシュベルトだけ特別にね」
「仮説というと、魔法を偽装しているかということだな。どうやって調べるのだ?」
アーカス陛下の問いかけに、セリカ様はニヤリと
「うちの魔導研究所で開発した、〝アンチマジックスライム〟を用意するわ」
セリカ様が宰相の役職とともに所長を兼任されている、リノアール王国が誇る魔法研究機関。それが魔導研究所だ。そこで最新の魔法技術で開発された様々な魔導武具や魔導兵器は、部外者がその存在を知ることはまずあり得ない。
「このスライムはね、特殊な水魔法を生成することで、魔法の伝導効果を半減させることができるのよ。もちろん魔族が使う魔法にも有効だし。スライムの中に魔導鉱石を内蔵して、この少年がどんな力を行使しているのか数値情報を取りましょう。力の特性や、減衰値も計測可能だから、彼が魔法とは違う力を使っているかどうか丸裸にできるわ」
セリカ様はさらに詳しく説明を補足した。万が一、少年が魔族の手の者だとしても、魔族が使う魔法の波形も登録されているから、偽証は不可能ということだ。魔族も我々が扱う三大魔法と似た、
シュベルトが魔族の手下であるはずがないと私は信じているが、だからこそ早期に潔白を証明する必要もあるだろう。
「どうせならシュベルトには何も情報を与えず、魔法の数値を測定してその結果で合否を判断すると伝えるのはどうだ? やつめは同年代の魔導師の卵たちがどれくらいの魔力を放てるかなど知らないであろうから、確実に合格するには必ず己の上限値に近い力を解放してくるであろう。そのスライムはどれくらいまで耐久できるのだ?」
アーカス陛下の問いかけにセリカ様は、「そうね、、」と呟いて。
「貴女たち二人の近衛魔導師達にもスライム生成に必要な魔力を貸してもらえるなら、最大値で五万ガルトまでくらい測定できると思うわ。それ以上の力の影響を受けたら、それが
五万ガルト!? そんな
「余の
「ええ、そうなるわね。もし彼が上限値を超える力を行使することができるようなら、私たち三人以外、誰も彼とは戦えないということになるでしょうね」
さすがにそんなことはないと思いたい。そんな大国を揺るがす力をあのマーガレットとアルクの息子が持ち得ているなど、、、
「ついでになんじゃが、第五次試験後にでも小僧の身体や頭の中を調べておかんか? 我の〝
ベアトリクス皇帝陛下のアイアンメイデンは、椅子の形をした
「ベアトリクス皇帝陛下も、試験会場に来られるということでしょうか?」
「当然じゃろ。なにせセリカに近衛魔導師を全員貸し与えるとしたら、我がその場におらんと近衛が責務が果たせんじゃろが」
「余も行くぞ。シュベルトの力をこの目で見定めてやる」
これは大変なことになった。御前試験? それとも天覧試験? 第五次試験でそんなことになるなど、まったく想定していなかった。警備の手配や、各部署への通達、近衛隊との示し合わせなど、今後のことを考えただけでも頭痛が、、、
マーガレットとアルクには嫌みの一つも言ってやりたい気分だ。
「君らの息子が元気に成長してくれて、私はとっても嬉しいよ」とね。
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滅ぼされた世界の叡智で、今度こそ名状しがたきモノたちを討ち滅ぼす カフカ @kafuka1219
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