関節キスって何ぞ

呪わしい皺の色

以降の内容が頭に入ってこない

 気になる人の唾液が付着した飲食物を摂取して動揺する登場人物を慈しむ読者にとって興醒めな、あるいは奇怪な誤変換である「関節キス」について考えてみる。関節とは動物の骨と骨のつなぎ目、具体的に言えば肘や肩、膝などのことである。「関節キス」を文字通りに読めば、人の骨の継ぎ目に口づけるために身を屈める登場人物やら肘と肘をぶつけ合う場面やらを想像する必要があるが、私が読んだラブコメ作品の九割以上において主人公とその相手の仲は過度なボディタッチをするほど深まっていなかった。もし彼らが堂々と唾液を交換する仲であれば飲食物のシェアごときで動じたりしない。言うまでもなく「関節キス」は間接キスの誤変換である。

 では何故この誤変換をよく目にするのか。パソコンのキーボードを見てほしい。ラテン文字が並んでいる。我々はまず二十六種のアルファベットを組み合わせて五十種以上のひらがなを作る(この文章ではパソコン利用者のほとんどが使用しないひらがな入力については考えない)。次に変換キーを押し、お目当ての漢字を候補から選ぶ。つまり、①音素文字(アルファベット)、②音節文字(ひらがな)、③表意文字(漢字)と文字体系を変えて入力しているということである。誤変換をしやすい人はおそらく耳で言葉を覚えている。

 漢字は目で覚えた方がいい。私の高校時代の国語教師は『新明解国語辞典』の「字音語の造語成分」という枠囲みで漢字それぞれの主な意味をまとめたところを読むよう生徒に勧めていた。分厚い漢和辞典を読むよりましだ。一番良いのは国語辞典を丸ごと読むことだと思う。語彙も増やせるし。ただ、辞書を読むのが好きな人は少ないだろう。私が試した中で一番上手く行った方法は歯磨きしながら辞書を読む方法だ。ハードカバーや文庫本と比べて辞書は開いても勝手に閉じない。基本的に手を添えなくても読める。一回の歯磨きで一ページくらい進む。一日三回こなせば1700ページの辞書を読破するのに二年と掛からない。この数値は受験を控えた中高生にとっても救いとなるはずだ。

 熟語は視覚的にコンパクトであるという利点がある。学生時代にロシア語やドイツ語を勉強した人はわかると思うが、一単語綴るのに十文字以上書くことがざらにある。また、パソコンで入力する時、たとえばその行の残りスペースが五文字分だったとして十五文字から成る単語を打ち込むと次の行に表示される。この仕様のせいで文章が縦に伸びやすい。

 作者が同音異義語を区別できると読者にやさしい文章が書けるはずだ。頑張れ!

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