ガジラ/-230.0/-e(マイナス・トゥー・サーティ/マイナス・イー)
本稿のタイトル「/-e」とは、「マイナス・エディション」(=改稿前)の意味です。
小説執筆ツール「PC版Nola」の新機能「AI読者ネコのヨミスケ」にアドバイスを受け、改稿したものが「/-e」なしバージョンとなっています。
※「ヨミスケ」については別稿のエッセイにて詳細を紹介しております。
🔗https://kakuyomu.jp/works/16817330653444146510
改稿個所は、ガジラが江戸にタイムスリップしたところから。(その他細かい箇所の誤りや表現などの修正も、ついでに入れていますが……💧)
果たしてヨミスケのアドバイスで作品は良くなったのか? 実際にみなさんの目でお確かめください。
――――――――――
「巨大生物が東京湾から隅田川を遡上。永代橋付近で上陸しました!」
「あれは……『ガジラ』!」
◆◆◆
2024年1月東日本を襲った巨大地震。福鳥原発を襲った津波は原子炉を暴走させ、炉心融解に至らせた。
原発周辺には大量の放射性物質が流出した。
その一部は「福鳥バナナ園」に流入し、園内に飼育されていたオオトカゲを突然変異させた。
こうして生まれた巨大怪獣が「ガジラ」だ。
政府は直ちに防衛隊を緊急出動させ、ガジラを攻撃させた。しかし近代兵器の数々はガジラの前に無力だった。
防衛隊の精鋭をあざ笑うかのように、ガジラは小見浜港から太平洋の海中に消えた。
「くそっ! いったい俺たちは何をやっているんだ!」
現場指揮に当たった陸上防衛隊橘一佐は、ヘルメットの下で歯を食いしばった。
◆◆◆
「ガジラは永代橋から日本橋方面に進行!」
「いかん! このままでは被害が広がるぞ!」
「長官、ガジラに通常兵器は効きません!」
自衛庁長官石田吉男は司令部の喧騒に眉を寄せた。
「落ちつけ」
低い声で告げたが、興奮する幕僚たちの耳には入らなかった。
「とにかく空爆だ!」
「避難が間に合わん!」
「避難より足止めだ。今は非常時だぞ!」
「落ちつけと言っとる!」
石田の怒号が司令部に響き渡った。
唾を飛ばして怒鳴り合っていた大人たちが、一瞬にして静まり返る。石田の声にはそれだけの気迫が込められていた。
「木更津からアレを出せ」
「長官! アレはまだ試作段階です!」
「ちょうどいい。ガジラ相手にテストしたらいいだろう」
「ですが、環境への影響が評価できていません」
石田長官の指示に、研究統括部の早乙女一佐が抗弁した。
「承知の上だ。早乙女君、今はそんなことを言っている場合ではない」
ガジラが上陸しただけで、その進路は空爆を受けたように破壊されていた。
「このままでは都心は壊滅する。わかるな? ここで止めるしかない!」
「――了解であります! 木更津の『重力波研究所』に至急連絡! 開発名称『D2』を日本橋方面に展開せよ!」
「D2でありますか?」
事情を知らぬ副官が早乙女一佐に聞き返した。
「そうだ。『ディメンション・ディストーター』、次元歪曲砲だ!」
◆◆◆
開発名称D2こと次元歪曲砲は偶然の産物だった。
地対空攻撃手段として構想された「重力波兵器」の基礎実験中、特定の電磁パターンに時空間に歪をもたらす現象が観測された。
最高機密管理の下、研究は木更津駐屯地内の重力波研究所に移された。そこで研究されたのは次元に裂け目を発生させる次元歪曲砲のプロトタイプだった。
「D2でガジラを撃退すると?」
「ガジラの体に照準を合わせてD2を照射すれば、発生した次元の裂け目がガジラの生体を破壊する」
「しかし、ミサイルも効かないガジラですぞ!」
「D2は物理的破壊手段ではない。次元そのものが断裂する時、そこに存在するものはどれほどの強度があろうと同一性を保てない。すなわち、完全に破壊される!」
研究内容に疎い幕僚に対し、早乙女一佐はD2の威力を説明した。
「実験段階と聞きましたが、あれほど巨大な対象に通じるでしょうか?」
「理論上はいける。十分な電源さえ得られれば――」
「東京駅だ」
目をつぶって腕組みしていた石田自衛長官が言った。
「長官、東京駅でありますか?」
「D2を東京駅に展開! 国家鉄道東日本の車両用電源をD2に振り向けろ!」
「はっ! 直ちにJ-Railイーストと連携します!」
航空防衛隊が必死のスクランブルでガジラを足止めする傍ら、輸送用ヘリCH-47JAにより東京駅に展開された次元歪曲砲がJ-Railイーストの電力網に接続された。
「長官! D2配備を完了しました。撃てます!」
「よし! 首都圏送電網をJ-Railイーストに優先! 距離100メートルにガジラを引きつけた後、D2最大出力にて発射せよ!」
「距離100メートルにてD2最大出力発射致します!」
日本中が固唾を飲んで見守る中、ついにその時が来た。
「D2発射!」
音も光もない攻撃がガジラを襲った。
ガジラの周辺空間が漆黒に染まり、一瞬後には元に戻った。
「D2照射完了!」
司令部は静まり返っていた。
「――ガジラはどこに行った?」
石田長官は呆然とつぶやいた。
◆◆◆
「なんでぇ、ありゃあーっ!」
「ば、ばけもんだあー!」
突如日本橋に現れた巨大な
真冬の江戸はパニックに陥った。
2024年
次元の裂け目はガジラを飲み込み、時空連続体からはじき出した。
ガジラは230年の時を遡って、寛政6年(西暦1794年)正月の江戸に出現した。
直ちに江戸城内で11代将軍家斉の御前で会議が開かれた。座をまとめるのは老中首座松平
「
「は? てつとは?」
信明は顔を真っ赤にして絶叫した。
「銕じゃ! 『本所の銕』を呼べえっ!」
直ちに登城したのは「本所の銕」こと火付盗賊改方、長谷川平蔵
「挨拶は省け。銕よ、アレのことは存じおるな?」
「日本橋を荒らしておる
眉一つ動かさず、「鬼平」と巷間に噂される男は老中松平伊豆守の視線を受け止めた。
時に平蔵49歳。火盗改方として功成り名遂げた最晩年である。
「何とかせよ。御先手を動かしても良い。討ち払え! 退治せよっ!」
「これはまた。源頼光公の鬼退治か、はたまた
鬼の平蔵、微塵も揺るがず。唇に小さき笑みさえ浮かべていた。
「臆したか?」
「――何と仰せで?」
微笑みを浮かべたままの平蔵の一言に、老中首座三河吉田藩7万石の当主松平伊豆守がうっと気圧された。
ぱくぱくと口を動かすが、言葉が出ない。
「妖物退治の御下命とあればこれは戦。戦場作法で構いませんな?」
ぎろりと見上げる本所の銕。伊豆守は頷くしかなかった。
「ならば申し上げやしょう。憚りながら本所の銕、
裃姿の身なりながら、そこにいるのは本所の悪党、銕三郎だった。
「な、何を――」
「何をもへったくれもあるもんけえ! まだるっこしくっていけねえ。御老中、江戸中の塩と活き魚、平蔵の勝手次第と一筆書いておくんなさい」
何のことかわからぬながら、勢いに押されて伊豆守は祐筆に命じて平蔵の求めるまま書付を渡した。
「これさえあれば鬼に金棒。いや、銕に塩か? 事を急ぎやす。真っ平ごめんなすって!」
平伏もそこそこに平蔵は嵐のように広間を去った。
◆◆◆
「銕っつぁん、急な話だねえ」
「文句はかなへび野郎に言ってやれ。いいからさっさとやってくれ」
魚河岸人足に料亭、果てはボテ振りの魚屋から寿司職人までかき集めて、平蔵が命じたのは「塩辛作り」だった。
「活き魚なら何でもいいんだ。鱗もはらわたもそのままでいい。口からありったけの塩を押し込んだやつを、大甕に漬け込んでくれ」
「そんなもん、誰が食うってんで?」
「日本橋の大食らいさ」
魚河岸から甕一杯の塩辛を、できる側から大八車に乗せ、日本橋に運び込む。それを大通りにぶちまけたものだから、真冬と言えども辺りは鼻を摘ままねば歩けぬほどの臭気が漂った。
すると臭気に惹かれ、ガジラが近づいてきた。腹が減ったと見えて、甕ごとバリバリと塩辛をかみ砕く。
「よし! その調子だ。どんどん甕を運んでくれ!」
餌に惹かれたガジラはやがて隅田川に行き当たり、永代橋のたもとで丸くなった。
「食えば眠くなるだろう? 冬場のかなへびなんざ、ろくに動けたもんじゃねえんだから」
平蔵には煙草をふかす余裕すらあった。
以降も塩辛作りを継続し、ガジラの周りに大甕の山を築かせた。
「八岐大蛇には甕の酒を飲ませたって言うがよ。オイラにゃ
そういう平蔵の手には酒を満たした杯があった。
「うわっ! くせえっ!」
大甕を運ぶ人足たちが騒いでいる。どうやらガジラが
「出物腫物ところ嫌わずってな。塩ばかり食らってりゃ腎虚にならあ」
大量の塩分を一度に摂取してはガジラといえどたまらない。急性塩分中毒となり全身の細胞から水分が失われてしまった。
「相手が悪かったな、かなへび野郎。こちとら本所深川生まれよ。井戸を掘りゃあ塩っ辛い水が出る土地で育ってんだ」
平蔵は杯の酒をぐいっと空けた。
「おととい来やがれ、いなかもんめえ!」
明くる寛政8年、長谷川平蔵は病を受け享年50歳でこの世を去った。
(完)
ガジラ/-230.0(マイナス・トゥー・サーティ) 藍染 迅@「🍚🥢飯屋」コミカライズ進行中 @hyper_space_lab
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