聴こえた声はあまりにも

 恋に一直線の女の子は強いのだ。


「ふんふんふ~ん♪」


 ご機嫌に鼻歌を口ずさむ優愛は、ベッドの上でスマホを覗いている。

 同学年の男子のみならず先輩、果てまでは大人の視線までを惹き付ける魅力ある体を小刻みに揺らすように、それだけ機嫌良く優愛はとある二人と連絡を取り合っていた。


『今日は楽しかったわ』

『本当にねぇ』


 聞こえてくる声は本日共に遊んだ女子たちの声だ。

 優愛にとって全く知らない仲ではなかったが、今日の出来事を経て連絡先を交換するだけでなく、名前で呼び合うほどにまで仲良くなった。


「美沙さん、明菜さんも……私も凄く楽しかったです!」


 さて、今回優愛が彼女たちと連絡を取り合っているのは理由がある。


「その……今日、こうして連絡をしたのは他でもないんです」


 優愛の真剣な声音に、通話先の二人も茶々を入れるようなことはない。

 しかもあの明菜が何も言うことなく、真剣に聞いてくれているのだからある意味で異様な光景だったりする。


「私、兄さんが好きなんです。心から大好きなんです」

『やっぱりね』

『あははっ、分かってたけどねぇ』


 笑い声に優愛は顔を赤くするも、次の言葉を紡いでいく。

 その紡ぎ出される言葉は全て優愛の明人に向ける気持ち……ただ流石に溢れ出る性の欲望は抑え、あくまで健全な気持ちを伝え続けた。


『改めて分かったけど、本当に好きなのね』

『恋する乙女って感じだねぇ……なるほど、優愛ちゃんは私たちに味方になってほしいのかな?』

「味方……そうですね――強いて言えば、兄さんを取り巻く外堀を完全に埋めていこうと考えています」


 性の欲望でなければ、目標への欲望は余すことなく伝えていく。

 明菜はわおっと楽しそうにしているが、美沙に関してはここまで熱烈だとは思っていなかったのか息を呑む仕草があった。


「兄さんと絶対恋人関係になりたい……絶対に、絶対に……だから協力してくださいって厚かましいことは言いません。ただ、私が兄さんに仕掛けても見守ってくれるだけで良いんです――自分の想いと魅力で勝ち取る恋だからこそ意味があるのですから」


 もちろん最初は協力関係と言うべきか、サポートをしてもらおうとは考えていた……けれど、自分の力で勝ち取るからこそ意味があるのだと優愛は考えていた。

 なので優愛は、その恋を勝ち取る戦いに関して見守ってほしい……自分が明人に対して何かをすること、それには必ず意味があるからということを知っていてほしかったのだ。


『本当に凄いわね……でも分かったわ。私たちはあなたの気持ちを知ったから全力で応援する。でももし何か困ったことがあったら力になるから遠慮なく頼ってね』

『うんうん! 外から眺めてるだけで凄く楽しそうだし、今日みたいにエッチなハプニングとかどんと来いだからね!』

『ちょ、ちょっと何を言ってるのよ!』

「……美沙さんって結構初心というか、エッチなことに弱いんですか?」


 優愛がそう言うと、どんがらがっしゃんと音が響き渡る。


『そうだよ~、美沙ちゃんはすっごくダメダメなの。冗談レベルのことでも顔を真っ赤にしちゃうんだからぁ』

『うっさいわよ! そもそも、私たちはまだ学生の身よ!? エッチなことをするのは大人になってからが普通じゃないの!』

『それはそうだけど……高校生でも薬局でゴムを買って盛るのはまあまあ普通の時代だし?』

『……マジなの?』


 まあ、そこは人によるとしか言えないだろう。

 その後、軽く話をしてから通話は終わり、優愛は天上に向かって大きく腕を伸ばす。

 ずっと同じ体勢だったせいで、解れていく感覚が気持ちいい。


「ふぅ」


 喋ることに白熱していたのもあるが、何より明人のことをずっと考えていたので体が熱くなっている。

 優愛は自然な動作で胸元のボタンを上から二つ外し、魅力溢れる双丘の谷間を露出させた。


「……今更だけど、ゴールデンウィーク前にこれなら良かったなぁ」


 今は五月の中頃……もう少し再婚が早ければ、長い連休をずっと明人と過ごせたのだが、今はそれを言っても仕方がない。


「兄さん……かぁ」


 優愛は、本当に明人のことが好きなのだ。

 勉強を教えてほしいと言えば教えてくれるし、買い物に付き合ってほしいと言えば来てくれるし、悩みを聞いてほしいと言えば黙って聞いてくれるし、甘えて良いかと問えば悩みながらも頷いてくれる。

 普通の男子なら下心が見えるはずなのに、明人にはそれがなかった。

 彼にとって優愛はどこまでも手の掛かる後輩という認識しかなかったのである……しかしながら本音を言えば、好きな相手だからこそ暴走してくれたらと優愛は何度思ったことか。


「体が熱い……はぁ」


 優愛はため息を吐き、部屋の鍵を閉めるために扉の元へ。


「よし……」


 鍵を閉め終われば、後はもう発散するだけだ。

 ベッドの上で掛け布団を頭から被り、念には念を入れるように枕に顔を押し付け……そして左手は胸に、右手は股へと伸び……そうして彼女の愛を求めるソロ活動が幕を開けた。



 ▼▽



「……あ、そういえばプリクラのやつ俺が持ったままじゃん」


 俺はハッとしたように思い出し、優愛と二人で撮ったプリクラを手に部屋を出た。


「優愛……あれ?」


 ノックをしてすぐ、いつもなら開くはずの扉が開かなかった。

 どうやら向こう側から鍵を閉められているらしく、こちら側から開けることは出来ない。


『ぅん……あ……あぁん……っ』


 ……なんだ?

 中から聞こえてくるくぐもった声というか、あまりにも色気がありすぎる優愛の声に……俺はよほど疲れたのかと思い部屋に戻った。

 これは、明日渡せば良いや……。


「……いやいやそんなまさか。そんなことをしてるわけが……」


 ……ダメだとっとと寝る!

 変な想像をするんじゃないぞ明人!!

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仲の良すぎる後輩が義妹になって外堀が埋められていく件 みょん @tsukasa1992

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