妹と友達と
「優愛ちゃん! そこよ!」
「頑張って~」
「頑張りますぅ!」
田井中と宍道の声を受け、優愛がボウリング玉を転がす。
ゴロゴロと音を立てて転がった玉は綺麗に全てのピンを倒し、見事にストライクを叩き出した。
「次は明人だぞ~」
「妹ちゃんに負けんなよ~!」
「……おう」
涼介と真の声を受け、今度は俺が玉を転がしたのだが……明らかな失投をしてしまったことで、一つもピンに掠ることなく通り抜けた。
「何してんだ~!」
「これは……負けか?」
「兄さん~? もしかして妹相手に手を抜いてくれたんですかぁ?」
あ~うるせえ!
普段から教室でも一緒に居る彼らに挟まれ、ニヤニヤと見つめてくる優愛から視線を逸らす。
(クッソ騒がしいことになっちまったなぁ……)
今日という日曜日……朝からずっとだら~っとするのもどうかと思い、今日は俺から優愛を外に誘った。
基本的に家族になる前も優愛が俺を連れ出すことが多かっただけに、誘われた時の優愛の反応は面白くて、つい可愛いなと言葉が漏れたほどだ。
(それがこうなるとは……)
ウッキウキで腕に抱き着いた優愛を連れて街に出た瞬間、まず涼介と真と顔を合わせた。
元々彼らに誘われてはいたのだが、引っ越し諸々もあったことでしばらく優愛と過ごすつもりだったので断っていたんだ……それで彼らに出会ったかと思いきや、その直後に田井中と宍道にも出会い……せっかくだから一緒に遊ぼうということになったわけである。
「ボウリングも上手だし、話を聞けば歌も上手で……優愛ちゃんは何でも出来るんだねぇ」
「それほどでも! ですが、兄さんのことに関してだけはいつも上手く行きません!」
「あらそうなの? まあでも、こんな可愛い妹が居たら何だって言うことを聞いてしまいそうだけど?」
男女で分かれていたボウリングも、彼女たちの勝ちで終わった。
女子陣が話で盛り上がっている中、お疲れ様と涼介がジュースを渡してくれたので喉を潤す。
「しっかし……お前の妹、エロいな」
「人の妹をエロい言うな」
ぺしっと真の頭を軽く叩く。
まあでも……そう言われるのも分からなくはないと言うか、昨日を彷彿とさせる優愛の服装なので、それはもう二人で歩いている時だけでなくこうして六人で歩いている時も、優愛は多くの視線を集めていた。
田井中も宍道も人目を集める容姿ではあるのだが、やはりここは妹贔屓ということで優愛が色々な意味でとにかく凄いとだけ言っておこう。
「でもあれだよなやっぱ」
「なにが?」
「あの子が妹になってからお前、最近随分と楽しそうにしてると思ったんだよ」
「いつも変わらなくないか?」
「いいや変わってるね。妹ちゃんの存在もそうだけど、後はお母さんの存在も大きいんじゃないか?」
「……………」
そのことには……いや、最近楽しいんじゃないかと言われたことに否定は出来なかった。
優愛が居て、母さんが居る。
この事実は確かに心の余裕というか、家族の存在があることで家の中が騒がしくなること……その尊さを思い出させてくれた。
「……かもな」
「へへっ」
「良かったじゃん」
彼らとは仲が良いからこそ、母さんが亡くなったことも知っていた。
だからこそこうして俺の変化に喜んでくれているんだろうし、若しくは安心してくれたのかもしれない。
(家族にもそうだし、友人にも恵まれているなぁ俺は)
本当にありがたいことだなと、俺は人知れず笑みを浮かべるのだった。
そうしてその日は六人でずっと過ごし、引っ越し等で中々遊ぶ機会がなかったのを埋め合わせするかのように、最後まで遊び尽くした。
「兄さん! プリクラ撮りましょうよ!」
カラオケの後に、優愛がそう提案した。
俺を含めてみんながそれに賛成し、全員で撮った後に優愛と二人で機械の中へ……そこで、優愛がぴょんとジャンプして飛びついた。
「何してんねん」
「これで撮りましょ?」
……う~ん?
両腕を使ってしがみついているのはともかく、両足も使って俺の腰辺りをホールドしている。
俺たちのこの姿勢……所謂駅弁スタイルというやつなのだが、それをこの妹は分かって……るわだって顔赤くしてるし。
「恥ずかしいのは百も承知です! ですがこれもまた一つの思い出作りというやつです! もしかしたらいずれ、こうやって本番しながら写真を撮ることもあるかもですし!?」
「だから一体何を言ってるぅ!?」
この妹……最近頭がピンクすぎないか!?
ただでさえ色々と意識することがあるのに、頼むから誤解するというか俺を惑わせてくる言葉を口にするんじゃない!!
「わわっ!?」
「っ!」
優愛の体が落ちそうになったので、俺は不本意ながら彼女のお尻を持ち上げるように手を添える。
そのまま全身を軽くジャンプさせるように優愛を持ち上げ、ちょうど良い高さまで優愛を持ち上げたのだが……そこでまさかの事態が。
「どうしたの? 随分と騒がしい……え?」
「何があったの……わぁ♪」
「あ」
「あ」
もちろん、その後にしっかりと誤解を解いたのは言うまでもない。
その後は彼らと別れ、心から楽しめたのか優愛は満足そうな笑みを全く絶やそうとしない。
「楽しかったですね!」
「あぁ」
まあ、俺はそれ以上に色々と疲れたけどな。
ルンルンとスキップする勢いの優愛が、仕事帰りのサラリーマンにぶつかりそうになったので、そっと彼女を抱き寄せた。
「あ……兄さん」
「頼むから気を付けてくれ……まあでも、お前が楽しそうで良かった」
ポンポンと頭を撫でて帰路を歩く。
妹と過ごす時間……そこに友人たちが加わったとしても、前と変わらずに楽しく過ごせるのは良かった。
それに今回の出会いによって、優愛もみんなと今まで以上に打ち解けた様子だったのでそれもまた良いことだった。
「……兄さんはやっぱり妹たらしです」
「……………」
「聞こえないフリしないでくださいねぇ?」
それからずっと、帰るまで優愛の小言を聞き続ける時間。
そのことに面倒だと思いはしても、俺にとっては優愛が楽しそうにしているのであれば相手するのも吝かじゃない。
(……優愛が笑ってくれている姿を見れること、それが何より嬉しいだなんて恥ずかしくて言えないや)
これがきっと、妹を持った兄の気持ちなんだろうなぁ。
……でも事実、最近は優愛との色々なことにドキッとしたりすることが増えてしまったけど、その度に俺は優愛との接し方に少し悩む。
というか、触れ合いが多すぎてムラムラする。
これ……絶対に言えないし、知られたら兄貴失格だぜ……。
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