ツマリハツモリ
ハム
拝啓、泣くな、私よ。
異世界は一駅向こうだ。
すぐそこにある。
そんなことを書き置いたのが昨日のことだと思ったら2016年。
10年弱の歳月が流れているらしい。驚くべき時間の流れだ。心なしか手が震える。まあ、数か月だと思ってたら10年経ってんだから、手だって震えるってもんだ。
さて。
関西でボーッと働いていた私は、現在東京のドまんなかでこの文章を打っている。
自分でも何が起きたかわからない。
毎日「なんで私こんな都会におるんや……?」と呆然としている。
東京。
テレビで見てきた光の海が、私の部屋の窓から見下ろせてしまう。
東京。
環状線と言えば長らく大阪環状線にしか縁のなかった私が、山手線に乗っている。
東京。
東京。
以前にエッセイでもふれたが、私は長く東京という土地に対して物語的な憧憬を抱いてきた感があった。本当は実在しない土地なんじゃないかと半ば本気で思っちゃうくらいには夢を見てきた。
そんなところに、今、私は身を置いて生活している。
まあ、ぶっちゃけ来たくて来たわけじゃない。私の人生は9割が思い付きと偶然と場当たりでできてきた。今現在のこのどうしてこうなった的境遇も、完全にその場のノリだ。詳しくは後に書くが、そんなわけで本気で私は今自分が東京にいることに未だ毎日新鮮にビックリしている。
この文章を書くにあたって、ほぼほぼ忘れていた以前のエッセイも読み返してみた。
一人が大好きだったあの時の自分に、微笑みながら今の自分を見せたい。
お前、「面白そう」という理由で博物館と美術館と船舶と空港と一般企業を転々とした挙句、「受けてみっか!」と単純な気持ちで受けた試験に受かって公務員になり、その場のノリで転職キメて今は銀座のバーで働いてるよって。
泣くんじゃね?
10年前の私。
異世界はすぐそばにある、とのたもうた私よ。まさしく今ここはきみにとって想像だにしない異世界であろうね。
おそろしいかな、きみは「面白そう」と思った仕事をすべて奇跡のように手にして、多くの人に出会い、知らない世界を万華鏡のように垣間見、ここにいる。それが世間的なしあわせかどうかは知らないけれど、まあ、すごくおもしろい経歴ができたのは事実である。そして、微塵も役に立たないただ面白いだけの人脈もできあがってしまった。孤独だか孤高だか知らんが一人の時間こそ至高だと豪語していた私は、今や誰かと飯を食い、一瞬後には忘れているようなわけのわからん話をすることに夢中だ。
……よくも貴様手のひら返しやがってと過去の私がブチキレてそう。
いいえ、聞いてください。
何も変わっていないのです。
突然飛んできたインコに頭を蹴られたあなたが、
全裸の死神にエンカウントしてしまったあなたが、
家の階段から盛大に落ちたあなたが、
住む場所を変えようが同じように珍妙なことに巻き込まれ、時に叫び時に泣き、時にもう笑うしかなくなり、そんなアホみたいな「一駅向こう」のあなたが、今ここにいるだけなのです。
さて、では振り返ってみよう。
「一駅向こう」の私が、今現在の停車場にくるまでに何があったのかを。
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