プロポーズされた話

昔から恋愛に縁遠く、私自身男女問わず他人を好きになったことがない。

おそらくアセクシャルとか、アロマンティックとかそういうものに分類される性分なのだろう。ま、そこらへんの名前は重要ではない。ともかく、私は人に恋しない人間なのだ。


そんな自分を小学二年生の時に自覚していたため、ぶっちゃけ恋人とか恋愛とか結婚とか、そういうものを身近なものとしてとらえたことがない。


だもんで、


「結婚してください」


という科白が、まさか自分に向けられる日が来るとは思わなかった。


先ほどの科白をはっきりと言い切った男は、真剣な顔で私を見つめている。

その瞳を見つめ返し、私は言った。


「なんで?」

「なんで、とは?」





……だって私たち、出会って2日ですけど……。






そのころの私は「ここ昔から好きだったんだよね」という安直な理由で、地元の博物館に勤務していた。近隣の団体とうまいことイベントをコラボしてみたり、企業を引っ張ってきて合同展をやったり、やりがいのある楽しい仕事だった。

相手の男性はそんな仕事の一環で一緒にイベントを行うことになった企業の社員である。共によいイベントにしましょう、いろんな人に楽しんでもらいましょうね! という気持ちで一致団結し、共に走りはじめた2日目、上記のセリフが飛んできた。


さすがに聞き間違いかと思った。


「ほとんど一目惚れです。ハムさんと結婚したい。考えていただけませんでしょうか」


誠実な言葉が全部ギャグにしか聞こえない。クソッ、(なんかまた私おかしなことになってる……)と若干突発的事件に慣れつつある自分の心も悲しい。

落ち着こう。

うん。

落ち着くんだ。


今の状況めちゃくちゃおもろいやんけ、ともう爆笑してしまっている心の中の自分をなだめつつ、冷静に切り出す。


「一目惚れって本当にあるんですね」


いや、違うやろ。

冷静に切り出すとこ、そこちゃうやろ。

どうも私も実はめちゃくちゃ動揺しているらしい。


「僕も初めてです。一目惚れ」

「そうですか……」

「いかがでしょう。僕には将来性も安定もあると思います。会社が会社ですから、倒産の心配もありません」


まあ、肩書は確かに安定感がある。ただお付き合いをスッとばして出会って2日の人間にプロポーズしてしまう君の不安定さがどうしても私は気になるわけで。


「転勤は常について回ります。でも、その分ボーナスは多いです」


相手が仕事のことしか言わないせいで、だんだん採用面接みたいになってきた。


「こんなんで信じてもらえないかもしれませんが、僕はハムさんが好きです!」


ありがたいことなのだが、


「だから結婚を!」


そこが飛躍しすぎなんだよな。

短距離走からの棒高跳びかよ。


だめだ。

全部おもしれえ。


なんで私の人生ってこんなアホみたいな奇跡が起こってしまうんだろうか。


私はしっかりと彼を見つめ、そして、


「お断りします!サンキュー!」


と言い放ってついに耐えきれず大爆笑をかました。

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