第8話 ネヴァーディング王国の歴史
夕食後、コマは自室のベッドに寝転がり、表紙の光る『ネヴァーディング王国の歴史』を読んでいた。
町井貴志王が転生する前の時代は、混乱を極めていた。群雄割拠の戦国時代であり、小国の王がひしめいていた。領土はそれぞれ150㎢程度の市区町村ほどの大きさから、北海道ほどの領土を持つ者まで様々だ。
水利権や鉱山利権、領土問題など争いが絶えず、どの王も常に頭を悩ませていた。
転生者の扱いも、今とは比べものにならない状態で、転生者が見つかると、基本的に王に報告が上がり、その王の采配次第という状況だった。ほとんどの転生者は、5〜6歳程度で美しく、サイズの合わない見たことがないような服を着ていて、どこかから落ちてきたかのように倒れているので、見たらすぐにわかってしまうのである。落ちてきたように見えるので、『落ち人』とも呼ばれるようになった。
知識を尊び、そばに置き意見役とする王もいれば、奴隷のように扱い、拷問のような手法で知識や能力を“利用”する王もいた。
そんなある時のこと。現在のネヴァーディング王国の王都であるタカシアスに、町井貴志が転生した。当時の街の名前は違ったが、時の流れと共に忘れ去られてしまった。
当時のタカシアスに君臨していた王は、傍若無人で人を人と見ておらず、使い捨てにできる駒としか思っていなかった。それゆえに、転生した町井貴志も、また落ちていたのか、育てるのもほっぽり出すのも勝手にしろ、という扱いを受けた。服だけはサイズの合うものを下賤され、わずかばかりの小遣いを渡されて、貴志は城下町で暮らすことになった。
王に謁見した時はまだ判明していなかったが、町井貴志はテレパシー能力を持っていた。そして、その力で、衛兵や冒険者、町人、商人のいざこざを抑えて回った。
喧嘩やすれ違い、意見の衝突などがあれば、すぐさま現れ、絡まった糸をほぐすように問題を解決して回る姿が、天使か神の僕のように見えたのだろうか、次第に貴志を王か神のように崇める人々が出てきた。
それで面白くないのは王である。我は王であるのに、なぜ落ち人の方が崇められているのか。
自分の行いを顧みれば、なぜそうなっているのかは火を見るより明らかだが、それをしないから傍若無人でいられるのである。
王は憲兵を町井貴志に差し向け、捕えようとした。しかし、貴志を守ろうとする人の方が多く、しかも、テレパシーで攻撃のタイミングなどは丸わかりなので、貴志の指示も完璧で捕えることはできなかった。
そんなことが起こってしまったら、民衆の意見は一つであった。反乱である。
町井貴志を王に据えたい民達は団結し、王城に押しかけ、門を壊し、憲兵を殺し、王城の打ち壊しをおこなった。王と王族は捕らえられ、瓦礫の山となった王城前で首を跳ねられた。
こうして、ネヴァーディング王国が建国されたのだ。
その後も、町井貴志は近隣の王国とトラブルがあれば、直接話し合って解決し、話し合いで解決しなければ戦った。貴志のテレパシー能力がどのようなものだったか、正確な記録は残っていないが、戦でもテレパシー能力を使い、全戦全勝したという。
そうしていくうちに、話し合いを行った国を従属させ、敗戦国の領土を割譲か併合し、徐々にネヴァーディング王国は強大になっていった。
現在国境を接しているのは、北の北方連合国、南のアルツファルナ王国、西のゼステライト帝国だけで、東は広く海に面している。
現在戦争は起こっておらず、100年以上は均衡が保たれている。貿易は盛んに行われていて、北方連合国は羊の毛で作った織物や駿馬、アルツファルナ王国は肥沃な大地で育てられた砂糖や穀物、ゼステライト帝国は宝石や貴金属、鉄などを主な輸出品目にしている。
強大になるにつれ、特に話し合いの末に従属させ、吸収した国で不満が生まれた。名代というのは格好がつかない、という不満である。
ネヴァーディング王国の統治体制は、従属国は元々の王様が名代として運営し、併合国は代官を置くという体制である。その名代や代官が、時を経る毎に自己顕示欲を増し、そのような不満を漏らしたのだ。
そこで、当時の王が画期的な制度を導入した。貴族制である。
領土の広さ毎に段階分けし、侯爵、伯爵、子爵、男爵を任命した。王都タカシアスで、国家の運営を任されていた者も、権限の大きい者から順に同様に任命された。王の兄弟は公爵で、王の娘を降嫁しない限り、3代目以降は平民となる。
大々的に任命式が執り行われ、不満は収まった。
当時の王は、その功績を讃えられ、貴族王と呼ばれた。
「コマ様、そろそろお休みになられたらいかがでしょうか。」
部屋にはエリが控えていた。コマ専属のメイドなので、当たり前ではある。
「あ、そうだねエリ。今何時?」
「今は11時でございます。1時間前にお声がけしようかと思ったのですが、あまりにも集中して読んでいらしたので……遅くなってしまい申し訳ありません。」
「そんな、今までもこれぐらいの時間に寝てたし、エリが気にすることはないよ。」
「ありがとうございます。こちら、ネグリジェでございます。お着替えお手伝いいたしますね。」
「え、自分で……いや、お願い。」
「失礼いたします。」
コマは自分で着替えると言おうとしたが、夕食前の会話を思い出したので、エリに任せることにした。
滞りなく着替えもおわり、エリは消灯して退室した。
本を本棚に置いてベッドに入り、目を瞑って思考を巡らせる。今日は色々なことがあった。いきなり扶養先が決定したと言われて、ネンリネン男爵と男爵夫人に会い、半日馬車に乗り、アイオルを初めて見て、仕立て屋で服を注文して、少し休んだら夕食。目まぐるしい1日だった。
明日はゆっくりできるといいな……
コマはそう願いながら、眠りに落ちた。
引きこもり転生物語〜時代ランダム転生国が強すぎる?!〜 春藤あずさ @Syundou-Azusa
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