ロマンを求めて
ようやく夜になった。さて、偽のアーサー王がどこまで話を進めていたかが問題だ。ひとまず寝るしかない。俺はベッドの上で考えた。次にイベントがあるとすれば、円卓の騎士の結成だ。頼むから、このイベントだけはコンティニューなしでクリアさせてくれ。
◆◇◆
俺が夢で最初に見た景色は隣にマーリンがいる場面だった。
「マーリン、俺がいない間に何かなかったか? 例えば誰かが尋ねてくるとか」
「王よ、あなたはずっと私のそばにいたではないですか。お疲れなのでは?」
「そんなことはない。で、来客はあったのかなかったのか?」
「ありましたとも。ランスロットなる人物が面会に来たではありませんか」
くそ、円卓の騎士結成イベントを逃した!
「マーリン、今すぐ時間を戻してくれ」
「分かりました。戻しましょう」
前回のように景色がどんどんと移り変わる。最終的にある人物、つまりランスロットがひざまずいている場面まで戻った。
「王よ、これで残り一回になりました」
それは分かっている。つまり、もうあとがないに等しい。ひとまず、ランスロットを仲間にしなくては。
「ランスロットよ、お前を我が配下に加えよう」
「ありがたき幸せでございます」
これでよし。問題は次に寝るまでの間、偽アーサー王がどのように振る舞うかだ。こればかりは運頼りだ。
◆◇◆
俺は目が覚めるとベッドの上で思案した。次に起こりうるイベントは聖杯探求のはず。ここで偽アーサー王が探究をしなくても、残り一回のコンティニューを使えばいい。その時だった。スマホがブルブルと震えたのは。画面にはバイト仲間の名前が表示されている。
「はい、こちらフレッドです」
「お、フレッド起きてたか。バイトのシフト、変わってくれよ。急に彼女とデートすることになってさ。店長には話をしてあるから、あとはよろしく!」
はあ? いくらサービス業のバイトとはいえ、貴重な日曜日の分を押しつけるか。待てよ、バイトが入ったということは……夜に帰ることが確定した! つまり、聖杯探求イベントを逃す確率が高まった。もうここまできたら、ラストのコンティニューを使うのもしょうがなかろう。俺はバイトに向かうべく着替え始めた。憂鬱な気分で。
案の定、帰りは遅くなった。さて、問題は偽物がどこまで進めたかだ。俺は着替えるのもやめてベッドに寝転ぶ。
◆◇◆
早速眠りにつくと、そこには大規模な戦闘の跡が残っていた。そうか! モーガン・ル・ルェイとの戦闘か! すっかり忘れていた。しかし、状況からするに勝ったようだ。どうやら、偽のアーサー王も完全な無能ではないらしい。そうなれば、最後のイベントである聖杯探求が鍵となる。さて、イベントを進めるか。そう思った時だった。目の前の景色が大きく揺れる。おかしい。まだ目覚める時間ではないはず。だが、現実に引き戻されるのは間違いない。何が起きているんだ?
◆◇◆
目覚めるとお母さんの顔がすぐそばにあった。
「まったく、シャワーを浴びずに寝るなんて!」
おいおい、まさかそれだけで起こしたのか? 残りのコンティニューは一回だというのに。こうなると、明日の夜に託すしかない。それまでに偽のアーサー王が無事に物語を進めることを祈るしかない。
次の日の晩、俺は覚悟して眠りについた。ラストのコンティニューを使う覚悟をして。
◆◇◆
夢の世界に入ると、目の前には聖杯らしきものが置いてあった。まさか、偽物が聖杯探求をクリアしたのか!? 嬉しさと同時に残念さが込み上げてくる。せっかくだから、自分で見つけたかった。さて、これで一通りのイベントは終わったはず。あとはゆっくりとアーサー王気分を味わえばいい。うん? 待てよ。アーサー王伝説の中でまだクリアしていないイベントがある。それは……アーサー王が死んでアヴァロンへ行くというイベントだ! それだけは勘弁だ。夢の中で死んだら現実でどうなるか分からない。俺は無理やり夢から覚醒した。
◆◇◆
起きると、そこには見慣れた天井があった。よかった。どうやら無事らしい。夢の中で推しになるのも問題があるかもしれない。最後に死を迎える場合はなおさら。やはり、伝説は伝説のままが一番いい。妄想し、ロマンを求めることができるから。俺はそう思うと一冊の本を手にする。タイトルは『ブリタニア列王史』。やはり、これが一番だ。アーサー王のページに辿り着くと夜だというのも忘れて読み耽った。アーサー王伝説のロマンを求めて。
アーサー王好き、推しになって成り上がる 雨宮 徹@n回目の殺人🍑 @AmemiyaTooru1993
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