エクスカリバー、もらわなきゃね
しかし、授業中の出来事は本当に夢だったのだろうか。ベッドに寝転がりながら考える。手には剣を握った感覚が残っていた。まるで現実のように。まあ、いいさ。一時でもアーサー王気分が味わえたから。
◆◇◆
あれ、ここはどこだ? ここは……夢で最初にいた森の中のようだ。やはり、鎧を身につけている。どうやら、授業中の夢の続きらしい。よくあることだ。前に見た夢の続きを見ることは。少し散策するか。と思ったが、どうやら今回は少し違うらしい。少し先に小屋がポツンと建っている。訪ねてみるか。
小屋に着くとノックをする。まあ、人なんていないだろうけれど。すると「どうぞ」と返事があった。声からするに老人だろう。こんな森の奥深くにも人が住んでいるのか。夢の中だから、何が起きてもおかしくないか。せっかくの夢なのだから、考えすぎては面白くない。
俺がドアを開けると、そこには予想通り一人の男の老人がいた。老人は変わった服装をしている。特に紫色のマントなんかは老人が着るものではないが、この人は似合っている。
「ようこそ、アーサー王。さあ、そのイスにかけてくだされ」
アーサー王! やはり、この世界ではどうやらアーサー王らしい。
「世間話は抜きで、早速本題じゃ。湖に行かねばならぬ」
「湖に行く? どうしてだ」
「決まっておろう。伝説の剣エクスカリバーをもらうためじゃ」
エクスカリバー。それはアーサー王伝説には欠かせないアイテム。どうやら、この世界では湖でもらうらしい。岩から引き抜いた剣がエクスカリバーという設定もあるが、今回は違うようだ。
「エクスカリバーさえあれば、無敵と言っても過言ではなかろう。さあ、善は急げじゃ」
「ちょっと待った! お前の名前を聞いてないぞ」
「これは失礼。我が名はマーリン。あなた様に仕える魔法使いです」
マーリン! まさか、こんなに早く出会えるとは。マーリンがいれば、魔法を使ってやりたい放題だ。
「よし、マーリン。湖まで案内してくれ」
マーリンについていくと、広い湖に着いた。いよいよ、ここでエクスカリバーを手に入れるのか。伝説では、「湖の乙女」が現れてエクスカリバーを授けることになっている。さあ、いよいよだと思ったが、視界がぐらつき始める。まさか、このタイミングで目覚めるのか? もう少し、この夢でアーサー王気分を味わいたいのに。
◆◇◆
気がつくとベッドの上だった。カーテン越しに朝日が部屋を包み込んでいる。後少しでエクスカリバーをもらえたのに。待てよ、二回連続でアーサー王の夢を見たのだ。もし、もしかしたら、次も夢でもアーサー王になれるのでは? それなら、もう一度寝て、確認すればいい。幸いにも今日は土曜日。二度寝しても問題ない。
◆◇◆
俺は再び湖の前にいた。隣にはマーリンが立っている。さあ、エクスカリバーをもらうぞ。
「アーサー王、いつまで湖の前にいるのですかな。さあ、小屋に戻りましょう」
「ちょっと、待った! まだ、エクスカリバーをもらってないぞ!」
「何をおっしゃいますか。先ほど乙女からエクスカリバーを差し出された時に、不要だとお答えになったではありませんか」
はあ? エクスカリバーをもらうのを断った? そんな記憶ないぞ。
「俺はそんなこと言った記憶はない。何かの間違いじゃないか? 少なくとも、俺はエクスカリバーが欲しい。もう一度乙女に声をかける」
「それはムダですな。一回断った以上、乙女は出てこないでしょう」
おいおい、エクスカリバーをもらわなきゃ、無敵じゃないぞ。あれの鞘にはどんな傷でも癒やす効果がある。あるのとないのとでは話が大きく違う。
「おい、マーリン。お前の魔法でどうにかならないのか? ほら、時を戻すとか」
マーリンはしばらく考え込むとこう言った。「不可能ではありません」と。
「じゃあ、頼んだ」
マーリンは俺には分からない言葉で呪文を唱え出す。すると、周りの景色が激しく移り変わっていく。時を戻すとこうなるのか。
しばらくすると、目の前に「湖の乙女」がいた。手にはエクスカリバーが握られている。そう、これでいいのだ。俺がエクスカリバーを受け取ると、乙女は湖の中に戻っていく。
「さて、エクスカリバーをもらったから、小屋へ戻るぞ」
「その前に説明を。先ほど使った時を戻す魔法ですが、残り2回しか使えません」とマーリン。
「残り2回!? なんでだよ。マーリンは優秀な魔法使いだろ?」
「私も万能ではありません。強い魔法を連発すれば、この身が持ちません。ですから、あと2回です」
何ということだ。エクスカリバーをもらうのが重要イベントとは言え、貴重な1回を使ってしまった。回数制限について、先に言って欲しかった。まあ、それを聞いても同じ選択をしただろうけど。
「それより、王よ。あなたはなぜ、考えを改めたのですか? 一回、エクスカリバーを拒否したのに」
そう、それが問題だ。俺は確かにエクスカリバーをもらう前に目が覚めた。だから、今回はエクスカリバーをもらうシーンから始まらなかったのはおかしい。いくら夢とはいえ、続きを見るのなら連続していなければおかしい。
もしかして――あくまでも仮定だが――起きている間も話が進むのでは? そう考えれば説明がつく。起きている間は俺とは別のアーサー王――つまり、偽のアーサー王が物語を進めるのでは?
俺は伝説通りにストーリーを進めたい。アーサー王好きとして。ならば、選択肢は一つ。目が覚めたら、もう一度寝ればいいのだ。現実世界に支障がない範囲で。もうそろそろ、目が覚めそうだ。今日は土曜日だから、寝たい放題だ。さて、起きたら仮眠でもとるか。
◆◇◆
俺はまたもやベッドの上で横になっていた。問題ない。もう一回寝ればいい。今は朝の9時。お昼までまだ時間がある。仮眠をとっても問題あるまい。
再び目を覚まして時計を見ると11時。あれ、2時間寝たのに、アーサー王になっていない。これはおかしい。嫌な予感がする。もしかして、一定の時間を空けないと、寝てもアーサー王になれないのか!? もしそうなら、今も偽アーサー王が物語を進めていることになる。おいおい、エクスカリバーをもらわない無能な偽アーサー王に任せてはおけない。頼む、早く夜になってくれ!
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