間違った怪談話

裏道昇

間違った怪談話

 私は陽菜ひな。彼氏を探している女子大生である。今日は大学の女友達と哀しく遊ぶ予定だ。

 人通りが多い待ち合わせ場所でスマホを触っていると、すぐ隣に背の高い男の子がやって来た。

 同じくらいの年代だろう。顔が大変好みだった。私がそわそわとしていると、握っていたスマホが鳴った。

 見れば、メッセージアプリに通知が来ていた。女友達からである。

「む。澪の奴……」

 そこには『ごめん! 行けなくなった。でも損はさせない! 埋め合わせするから……楽しみに待ってて』とあった。謝罪のスタンプ付きである。

「損はさせないって言ってもねぇ」

 私は思わず愚痴を零してしまう。

「あれ、君が澪の友達?」

 唐突に、隣の男の子が声を掛けて来た。高い背に短い茶髪。自然な笑顔が私好みだった。

「……はい」

 私は緊張気味に返事をする。澪の知り合いだろうか?

「あー、何か急に来いって言われて……」

 そこで私はピンと来た。損はさせないとはこの事か! 二人で遊べと。

「私もなんだけど、澪が来れなくなったみたいで」

「え!? マジかよッ? じゃあ、俺何しに来たの?」

 彼は表情豊かに騒いで見せた。そして、少し悩むようにした後、こう言った。

「んー。じゃあさ、折角だし一緒に少し遊ぶ?」

 私は内心でガッツポーズをしていた。サンキュードタキャン。



「ははは! ゆうったら何言ってるのよ!」

「いやいや、マジマジ! そいつ、東京駅で飲んでたら酔い潰れて、朝起きたら北海道だったんだ。で、北海道でも酔い潰れて、気が付いたら沖縄だぞ」

「飲んだら次はどこ行くか分からないじゃない!」

 自分達も飲めるだけ飲んで、完全な酔っ払いと化しながら、二人でふらふらと歩いている。私達は完全に打ち解けて、大学生らしく楽しんでいた。

「さて、次はどこ行く!?」

「ははっ、まだ行くことは確定なんだな?」

 私の言葉に優が笑いながら答えた。私は「当然!」と笑い返す。

「でも、流石に店も減って来たしなぁ……あ、そうだ!」

「ん? どっか楽しいところあるの?」

「ここから駅までの帰り道にある怪談スポットでも冷やかすか!」

「大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。というのも、その怪談って言うのはな……」


 古い公園のベンチで男が一人で腰掛けていると、可愛らしい女の子がやってくる。

 男が女の子と話をしていると、女の子は訊ねてくる。

「私、可愛いかな?」

 男が顔を見ると、いつの間にか女の子には顔がない。

 男は次の日、死体で見つかった。


「……ってやつだ」

「ベッタベタだぁ!」

 あまりのテンプレっぷりに私は腹を抱えて笑い出す。


「でだ、俺達は二人だからそもそも問題ないということでは!?」



 問題の公園までやってくる。小さな公園だ。小さすぎてベンチしかないような公園だった。

 ふと気が付いてスマホを見ると、女友達からメッセージが来ていた。

「今日はゴメン。予定空けちゃった?」とあったので「大丈夫。優と遊べたし。今も公園で肝試し中」と書いて公園の名前も送った。

 打ち終わってベンチの前に立ってみれば、思っていた以上に薄暗かった。

「どうぞ?」

 優が冗談めかしてベンチを勧める。私は「こわーい」とふざけながら、ベンチに腰掛けた。

「ははは」

 優が笑って隣に座る。

 あれ? これってちょっと良い雰囲気かも? ひょっとして、優はこれを狙ってた?

 隣の優がこちらを向いた。


 持っていたスマホがピコン、と鳴った。ちらりと画面が見える。


『優って誰?』

『この公園って、女が座ってると男が話しかけてくるやつでしょ?』

『そして男は影がないって』


「ねえ――」


 優が笑って距離を詰める。

 私は動けなかった。


「――俺、格好いいかな?」


 影はなかった。

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