第43話 午後、中へ
青枝の携帯端末の電源がふたたびオンになったのは翌日、午後だった。
夕方より、少し前だった。ヒトロが高校の授業を終え、放課後になり、その足でアップルのアパートへ到着した後になる。
キラヒラは自宅にいた。アムは地下の仕事場にいた。両者がアップルのアパートへ来なかった理由は同じだった。ネット回線速度を保つためだった。
ヒトロに関しては、自宅のネット回線より、アップルのアパートで使用しているネット回線の方が、優秀であるため、足を赴いた。
そして、ヒトロはアップルのアパートの階段に腰を下ろしている。
携帯端末は腰かけた段差に置いていた。青枝の携帯端末の電源が入ると、まもなく、グループ会話室に、全員が入った。
アップルがはじめに言った。
『生きていたのね』
そう投げかけると青枝は『ああ』と、いった。『だいぶ、へばってるけどな』
『あれからさ、あんたにかかった賞金額、スゲェ成長してるよ。たとえ、高品位な人格者であるわたしといえど、つい、くらっとなって、裏切ってしまいたくなるほどの金額だ』
『それほどの金額になってるなら、俺だって、俺を裏切るかもしれん』
『生命には無限の可能性があるというからねえ』
『セカイ、金持ってるんだな。やっぱ』青枝はそういって、続けた。『じゃあ、やるか』
簡素な宣言だった。
各端末の向こうで、キラヒラも、アムも何も言わない。
すると、アップルがいった。『そうそう、わたしたちのセカイに街をつくってくれた。ヒシミさんは来ない、ここから先のドンパチには参加しない。生配信を観ているって、ご武運を、的なことを言われた』
『あ、あの』と、キラヒラが声をあげた。『ヒシミさん………わたし、あの人、すきです。あの感じの人………いつか、会いたい』
アップルは『どうして、急にそんなことを言ったよ、キラさん』と、言う。
『ごめんなさい………ちょっと、どきどきで………どきどきで………』
そこへアムが読み取って言う。『あの人は、カミとの戦いには参加しないけど、悪く思わないで、ってあたりの、気遣いでしょ』
『あ、はい………』キラヒラは肯定した。『ぜんめんてきに、それです………』
「カミから」
ふと、ヒトロが発言した。
「カミから姉さんを剥がす。セカイに盗まれた姉さんを」
言葉にして、息を吸って吐く。それから言う。
「ありがとう、みんな。助けてくれて」
すると、即座に青枝が言う。『それを言うのは、まだはえぇ、たらねぇぜ、やっこさん』
「でも、おれは本当に―――」
『おれたちはこれから決着へにじり寄る。決着を、手掴みだろうが、歯で捕まえようが、ひきちぎって、こっちのもんにする。勝ち方を間違えないようにしつつ』
青枝がそう言った後だった。アップルが言う。
『作戦はこう、これから三世が自分のアカウントでブロックしているカミ、もとはミチカさんのアカウントのブロックを解除する。そしたら、きっと、カミは三世のセカイへ入って来る。わたしたちの不正なセカイを削除するために攻撃してくる。現れたカミを、わたしの不正改造した身体で攻撃する、格闘ゲームよろしく、パンチ、キックに空中戦と、カミを攻撃して、攻撃して、カミが奪ったミチカさんの仮想身体を破壊する。キラさんと、アムさんは同じセカイの中で好き勝手に動いて、わたしの攻撃アシストをお願い』
アムは『質の悪い作戦』と、言った。『いいけど』とも言った。
キラヒラは『濃厚な悪巧みは用意してます』と、言った。『カミへ炸裂させます』
『ヒトロンはセカイの中から動画を撮影して、消されないように、必死にセカイで生きて。動画はそのままチャンネルで配信する』
「わかってる」ヒトロはぎこちなくうなずいた。「おれの役目だ、わすれてない」
『わたしたちはカミと戦って、動画再生数を稼ぐ、君はお姉さんを解放する』
「わかってる」
すると、アムが言った。『わたしは消された子たちの恨みを晴らすから』
『ぞくぞくしてます』そういったのは、キラヒラだった。『わたしに流れる血がほしがっている、ぞくぞくです』
やがて、青枝が言った。
『じゃあ、カミを中へ入れる』
次の更新予定
セカイとひきかえ サカモト @gen-kaku
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。セカイとひきかえの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます