第42話 敵に、まわしている

 青枝にかけられた賞金額は二十四時間の中で、不規則に増えていった。はじめは、古い年式のセダンが購入できる金額だったが、発表から二日後には新車のセダンが二台購入可能な金額まで増額された。

 金額増加の不安定さは、状況をウオッチしている者たちに、この依頼者は誰かに賞金をかけることが不慣れなのではないか、という印象を与えた。確固たる証拠はないが、この依頼が、仮想世界提供サービスを行う、セカイによるものだと認識していた。

 このイベントに対する違法性の有無の議論はあった。そして、あくまでイベントであるという想定で、青枝感治を探し始める者たちは、増えていった。その半分は、動画配信者だった。賞金稼ぎとなる参加のフォローの桁数は、かなり幅があった。

 建前上は、あくまで、尋ね人だった。青枝感治を探し出し、依頼元へ引き渡すこと。この件を知るほとんどの者が無人で運営されている、仮想世界提供サービスであるセカイが依頼者だとわかっていた。どうも、青枝のアカウントで作成されている仮想世界が、セカイから嫌われている。セカイは青枝のアカウントごと削除したい。だが、なにかシステム上の制約か、もしくは不備があり、一歩的にアカウントが消せない。

 動画配信者である、青枝という男が、完全な無人運営の仮想世界提供サービス、セカイと対立している。セカイは現実の世界で青枝を捕まえて、その後、現実の世界にある方法を使用して、アカウントを削除させようとしている。きっと、現実の世界にある方法とは、人が人にする、荒事に属する手段を使い。

 情報が情報を生み、過激な憶測の創造、そして、アップデートは加速していた。機械が人間を雇い、人間を制御下、もしくは征服をしようとしているのではないか。

 しかも、この状況の中で、数日以内に、なにか大きな起こりそうな気配がある。

 青枝がセカイに、何かを仕掛ける。

 ネット上では、そういった発言が多数生産されていた。

 その情報源は、アップルだった。意図的に流していた。

 一方で、最後に青枝を視認したという情報から十時間経過した頃だった。青枝の携帯端末の電源が入り、位置情報は一瞬で、ネット上に拡散された。

 国内最南端の岬だった。そして、すぐに携帯端末の電源がオフになる。

 さらに十時間後、携帯端末の電源がオンになる。場所は国内最北端の岬だった。また、電源はオフになる。

 賞金首はわかりやすく、情報かく乱のために、極端な移動をしている。誰もがそう認識した。

 以降、青枝の携帯端末の電源がつくことはなかった。賞金額はその間も増加していった。

 それでも、青枝は誰にもみつけられなかった。

 当の青枝は、天狗が出るという噂の山中にいた。雨の降る森は、昼でもかなり暗い。

 青枝は雨が降る中、木の下で、新聞の上へ座った青枝は、こわれかけたビニール傘で焚火を覆いつつ、串にさしたウィンナーを黙って炎で炙っていた。

 そうしてウィンナーの表面が黒焦げになった頃、青枝はつぶやく。

「死ぬほどセカイを敵にまわしてる感じがするぜ」

 そして、焦げたウィンナーを口へ運び、かぶりつく。

「アツいぜベイビー」

 そのとき、森の奥で物音がした。青枝が視線を向けると、そこに、四肢で立つ獣がいた。犬のようなシルエットだった。だが、雨も降り、視界も悪いため、犬らしき輪郭しかわからないただ、森の中で翳り、雨で濡れた全身が独特の光沢を放っている。

獣はじっと青枝を見ていた。

 対して、青枝もじっと見返していた。

 やがて、青枝は獣へ敬意を払った。

 すると、獣は静かに森の奥へと消えていった。

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