第14話 回避した破滅、輪廻。

 なんか、領主邸の使用人増えてないか?


「ユエ」

「お呼びでしょうか」

「どこからあらわれた?」


 呼んだら来るかな、と思ったら本当に来た。

 ここ俺の自室なんだけど。

 鍵したよな? してるな……。


 え、なんで部屋の内側にいるの?


「忍びの術は門外不出ゆえ、ご容赦ください」


 それで誤魔化せると思うなー!

 深くは聞かないけど!

 闇に踏み込むのが怖いからな!


 まあいい、まあいい。


「なんか領主邸に人が増えてる気がするんだが、何か知らないか?」

「わたしの同門がですね、『主様の魅力に気づきました! ぜひ男爵領に仕えさせてください』と」

「おい!」


 何しれっと仲間を集めてんだよ!


(え、ユエの同門って、つまり暗部組織『学校』の卒業生だよな?)


 伯爵家ですらユエ一人雇用するのに「高い金」と表現する彼女たちは、本来であれば俺のような木端貴族が雇えるような相手ではない。


「どうしよう、俺、お金ないよ」

「ご心配に及ぶようなことはなにもございません。みんなが主様のために資金を集めてきてくれるので」

「???」

「???」


 何言ってるんだろうと首を傾げた。

 ユエは何がわからないんだろうと言いたげに首を傾げた。


 え、俺が悪いの?


「すみません主様、少し席を外します」


 ぺこりと頭を下げてユエが扉から出て行った。


 あいついま鍵開けたか?


 ふむふむ、なるほどなるほど。

 デッドボルトが鋭利な刃物で切断されている。

 だから、施錠をしても鍵がかからなかったわけか。


 いや、じゃなくて。


(怪しい)


 ユエは絶対、何か隠し事をしている。


「おーい、ユエ……」


 部屋を出て、廊下に一歩踏み出して、硬直。


「んんーっ」

「あ」


 ユエがユエと同い年くらいの少女を簀巻きにしている現場を目撃してしまった。


 ユエは少し考えた後、ぺこりと頭を下げて廊下を歩いて行った。


 いやちょい待てちょい待てちょい待て。

 誰だよそいつ!


「わたしの同門です」

「さっき言ってた、いつの間にか増えていた使用人?」

「いえ、彼女は主様に差し向けられた暗殺者です。おおよそ、公爵の嫌がらせでしょう」

「そ、そうなのか。手慣れてるな……」

「三十人目ですので」

「なんて?」


 ねえいまなんて言ったの?


 と、聞きたいのだけど、ユエは足早に移動を始めたので俺はついて行くのでやっとだ。

 あれ、俺全力疾走なのに、なんで早歩きのユエに追いつけないんだ……?


 ユエが少女を連行していったのはエリクシアの部屋だった。

 あいつ、何する気だ?


「エリクシア、新しい入信希望者」

「はーい、ただいま」


 簀巻きの少女をぽいっと放り投げて、ユエがミッションコンプリート、と言いたげに額をぬぐった。


「げ」


 扉の隙間から室内をのぞき込む。


「皆さんが生まれてきた理由は何でしょう。苦しむためでしょうか、いいえ、誰しも幸せになる権利があるはずです。この世の艱難辛苦から一切衆生を救うべく天より舞い降りた超常的存在、それこそがわたくしたちが仕えるべき主、すなわちアーシュ・クロニクル様なのです。さあ皆さん、ご一緒に」

「「「「我が魂は主なるアーシュ様とともに」」」」


 カルト教団か!


「ユ、ユエ。あんまり危ないことはするな」


 特に洗脳とか!

 そういうのはね、よくないことだからね!

 わかる?


「大丈夫。テトテが作ってくれた装備は天下一品。実力が同じなら、テトテ装備のわたしが負ける道理は絶無」


 ふんす、とユエが胸を張る。


 テトテェ!

 お前もそっち側の人間か!


(やべえぞ。公爵が暗殺者をうちに送り込む。ユエが無力化する。エリクシアが洗脳を施す。テトテが武装強化するってサイクルが生まれてる)


 どう考えても過剰戦力である。


(こ、これって帝国が黙ってないんじゃ……)


 俺はただ破滅エンドを回避する最低限の防衛力があればよかったのに!


「アーシュ様! 大変!」

「スティアーナ!」


 うちの唯一の良心来た!

 いってやれスティアーナ!

 行き過ぎた防衛力はかえって争いの火種となるって!


「公爵領から引っ張ってきた民衆がとっても優秀なの! 仮設住宅はとっくに設営が終わっていて、いまは畑の開墾に治水をしてもらってたんだけど」


 お、そうか。

 さすがは天下の公爵領の住人だな。

 技能レベルが高い……じゃなくてだな、スティアーナ。

 もっと気になることがあるだろ。


 ほら、この、エリクシアの部屋を見て思うことがあるんじゃないか?


「でね、その作業と並行して外郭の整備もお願いしていたんだけど、さすがに材料が足りないみたいなの」


 何か問題でも? みたいな表情しやがった!

 問題しかないだろ!

 こんなの軽くホラーだぞ。


 はー、はー。


 で、なんだって。

 外郭をつくるのに材料が足りない、だって?


 いいよ別に。

 どこぞと戦争するわけでもないし、外郭作るのは後回しでも――


「大丈夫。その辺は、抜かりないから。すでにわたしの仲間に連絡して、予算を確保済み」

「本当に? すごいユエちゃん、でもいったいどこから……」

「国庫」


 コッコ?


 なんで突然鶏の物真似?


「なるほど」


 え、スティアーナには通じるの?


 俺がおかしい感じ?


「ついでに、材料も買い集めるように指示してるから、そのうち――あ、来た」


 ユエが屋敷の窓から景色を望めば、大量の幌馬車がうちの領地に向かってやってきている。


「さっすがユエちゃん!」


 ユエは親指を立てた。

 満ち足りた表情しやがって、こいつ。


  ◇  ◇  ◇


 半年後。

 クロニクル領の居住区をぐるっと囲うように外郭が完成した。

 公爵領にも劣らない代物だ。


(はえー、すっげー)


 と、口を開いているとスティアーナが手紙を持ってきた。


「アーシュ様、はい」

「なんだこれ」

「国家承認の証明書」

「ぶーっ!」


 え、なにそれ、なんでそんなものが?


「いつしかあなたが語った『富国強兵』、その一歩がようやく始まったのね」


 ふ、富国強兵?

 言ったよ? 確かに言った。

 でもそれってあくまで、生活水準レベルを向上させて民衆の幸福度を上げつつ防衛力を高めようって話で、別に独立しようなんてつもりは……。


(その説明したっけ⁉)


 え、じゃあなに、つまりスティアーナってば、俺が独立運動起こしたいと考えてると思ってたってこと?

 最初からずっと?


「アーシュ様? 顔色悪いけど、どうかした?」

「な、なんでもないぞ!」


 そ、そんな勘違いする奴がいてたまるかー!


 どうすんだよ、帝国から粛清宣告なんて受けたら。


(あ⁉ だから外郭の整備を最優先で……)


 つまり粛清に乗り出してくることを考慮して、防衛力を高めるためにこんな真似を?


「えへへ、頑張ろうね、アーシュ様!」


 言えない。

 そんな大層な野望掲げてなんかいなかったなんて、いまさら言えない。


「お、おう」


 俺はただ破滅エンドを回避できればよかったのに、どうしてこうなった……!


***おしまい***


 もしよかったら★投下していってください。


 次回作→https://kakuyomu.jp/works/16818093079995970836

 『モンスターがあふれる世界で最強にならないと生き残れない転生』

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選民思想強めの血統至上マシマシな悪役貴族に転生したけど、主義思想をかなぐり捨てて優秀なヒロインを引き抜きまくっていたら、いつの間にか世界最大の宗教国家が出来上がっていた。 一ノ瀬るちあ@『かませ犬転生』書籍化 @Ichinoserti

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