ネオンが滲む夜を泳いで【短歌/二十首連作】
烏丸千弦
ネオンが滲む夜を泳いで
時折漏れ聴こえるカラオケと母の声 今夜も独り夜を見おろす
欲しい物ないかと訊かれ首を振る 赤い爪の手ぎゅうぅと握る
玄関でつぶれた母に毛布掛け 朝陽を待ったキッチンの窓
お父ちゃん捜してきてと頼まれて サウナにパチンコ、最後にソープ
お隣は弁当持ちのノミ屋さん 十年経ってその意味を知る
好きな数字ふたつ訊かれて見事に当てた「春天*」の儲けはどこに
預かってくれとなにかの紙袋 断った父を今は褒めたい
独りきり過ごす長い夜が嫌い そっと家を出る朝も嫌い
お洒落もせんと本ばかりやと母が
周りでは 浮気に離婚、売春、レイプ 恋愛に興味もつわけがない
母に連れられ夜の社会見学 ホストクラブで男の勉強
生娘じゃもうないからと店に出る 知らず身についていた夜の生き方
香水と酒と煙草と化粧品 嫌いだったはずの母の匂い
初孫をあやす母の不器用さよ やっぱりあなたなにかずれてる
パーラメント二本咥えて火をつけて 昇る煙を見送る斎場
親孝行もっとしとくんやったなんて思てへんけど 天井を向く
遺影の横に花を置こうと見まわして これでいいやとビアジョッキ出す
父も逝き 独りきりには慣れてると息子ふたりの手をひいて帰る
夢で逢う母はいつだってノーメイク
我が子に小言を云いながらふと気づく これはいつかのあなたの言葉
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※「春天」・・・京都競馬場で行われる春の天皇賞のこと。
ネオンが滲む夜を泳いで【短歌/二十首連作】 烏丸千弦 @karasumachizuru
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