第131話 遊ぶことになってしまった




 テーブルの上には、木製のお皿が一枚。その上に、ウサギさんカットされた世界樹の果実が残り四つある。一つはすでにメノが食べたので、あとは現状から察するに俺、葵、アレキサンダーさん、シェリアさんの分ということだろう。


 そしてメノに食べるよう促された王様と王女様だが――先に世界樹の果実を口にしたのは、王様のほうだった。シェリアさんもほぼ同時に手を伸ばしていたのだが、アレキサンダーさんがシェリアさんよりも先に素早く口に入れたのだ。


 普通の食事なら逆なのかもしれないが、こういった危険そうな食べ物を食べるのなら、王様はもう少し安全に気を遣ったほうが――いや、メノが提供した以上、疑うことは失礼になってしまうのか。


「――っ!? こ、これはいったい……こんなに美味いものがこの世に存在したのか」


 アレキサンダーさんはじっくりと世界樹の果実を味わったのち、目をまんまるにしてお皿に残った世界樹の果実を見つめている。しばし親の反応をうかがっていたシェリアさんも、慌てた様子で世界樹の果実を口に入れた。


 すると彼女も王様と同様に、驚きの反応を見せる。そして二人はメノに向かって、「とても美味しかった」とか「こんなものまでいただいてしまって、やはりお礼はさせていただきたい」とか、色々言われていた。


「……これ、鑑定して」


 一度ニマニマと俺を見つめたメノは、部屋に残ってもらっている『鑑定』のスキルが使える黒髪のメイドさんに声を掛けた。彼女は困惑しながらもメノの指示に従い、テーブルに近づいて鑑定を行う。


 メイドさんが膝から崩れ落ちた。本当にごめんなさい。


「ど、どうしたのユミィ!?」


「顔が真っ青じゃないか。魔力切れか?」


 俺の中にある異世界のメイドさん像って、もっと適当に扱われたりするものだと思っていたのだけど、少なくともこの二人はメイドさんのことを大切に思っているらしい。公の場ではないからなのかもしれないけれど、二人とも心の底から心配しているのが見て取れた。


 優しい人たちだなぁ――と考えつつ、俺と葵も残った二つの世界樹の果実を食べる。そして葵が「メノお姉ちゃん、メイドさんの分も出せないかな?」と要求し、メノが「……さすがアオイ」と言いながらすぐさまもう一つカットされた世界樹の果実を出していた。


 たぶん、食べてもらえないんじゃないかな……。


「へ、陛下、シェリア様……こ、こちらは普通の果物ではありません」


「たしかに素晴らしい味だったが……青ざめるほどか」


「……鑑定するとすごく魔力を奪われる食べ物? そんなものあるのかしら? 私はそんな感覚なかったけれど」


 困惑する二人に、メイドさんはその場で立ち上がれないまま告げる。


「鑑定の結果は……『世界樹の果実』でございました。こちらは万病を治すと言われる、伝説の果実です」





 今しがた胃袋に入れた物の正体を告げられた二人、そして無邪気な葵に『気分が悪いならこれを食べたらいいよ!』と無理やり食べさせられたメイドのユミィさん。三人は感謝と謝罪を延々と繰り返すマシーンと化していた。


「あの、メノのちょっとしたいたずらみたいなもんですから、気にしなくていいですよ。ほら、メノもからかってごめんなさいって謝っておきな」


 俺がそう促すと、メノはためらいもなく「……からかってごめんなさい」と言って頭を下げていた。もしかして王様みたいに七仙も軽々しく頭を下げてはいけないとかあるのかな……? もしそうだったら俺のほうこそごめんなさいだけど。


 まぁそれはいいとして。


「気にしなくていいのにね~。あ、でもお兄ちゃん、世界樹の果実のこと口留めはしとかないといけないんじゃないの?」


「それはもちろん。お三方、どうかここで見た物食べた物に関しては、口外しないようにお願いします。どうか忘れてください」


「「「はい!」」」


 とても元気のいい返事をもらうことができた。なんだかすごく怯えてしまっているようだし、この分なら彼らが情報を外に漏らすことはないだろう。


 メノのいたずらが最初はどうなることかと思ったけど、彼らの精神をガリガリ削ったこと以外は平和に終わったんじゃなかろうか。そのガリガリ削られた精神も、世界樹の果実で中和されていることを祈ろう。


「じゃあメノからの罰という名のいたずらも終わりましたし、王城の見学をさせてもらってもよろしいですか? 俺も興味あるので――あぁ、先ほどは『好きなだけ見ていい』とおっしゃっていただけましたが、見せられる範囲だけで構いませんから」


 できるだけ優しい声を心がけて言ったのだけど、彼らの緊張が解ける様子は一切ない。ずっとびくびくしている。


「かくれんぼとかしたいよね~。広いし、いっぱい隠れるところありそうだもん」


「いやそれはさすがにダメで――「「問題ありません! かくれんぼをしましょう!」」――マジで言ってます?」


 王様と王女様が前のめりになって賛成――というか参加表明をしてきた。


「……アオイが楽しそうだから、私も参加する」


 メノはそう言ったあとに、ぼそりと「私はデキる嫁」などと口にしていた。鬼ごっことかかくれんぼとか、普段はルプルさんが参加しているからな。


 んーしかしこんなルプルさんが好きそうなイベント、後から彼女が知ったら文句を言われそうだ。そしてただ文句を言うだけならいいのだけど、彼女の場合『ルプルもやりたいのだ!』と駄々をこねまくって、再度この王城にかくれんぼをしに来訪しなければいけない未来がうっすらと予想できてしまう。


「……あの、本当にかくれんぼするんですか? いくらなんでも、王城ですよ? 遊んでいい場所じゃないでしょう? 常識的に考えて」


「メノ様方のご要望には全て答えさせていただきたい。それが我々のせめてもの誠意なのです」


 王様、なんか覚悟ガンギマリなんだけど……本当にごめんなさい。そしてまさかあなたたちまで参加するとは思わなかったよ。たぶん葵も、冗談半分だったんだろうと思うし。


 しかしどうやら、王様と王女様は本気でかくれんぼをするていで話をしている模様。コソコソと聞こえる会話の中には『制限時間はどうするか』とか『範囲はどうしましょう』などとさっそく詳細を決めようとしている。


 この世界に来て一番頭がおかしくなりそうな状況だなって思った。もしかしたら彼らは混乱しすぎて思考回路がおかしくなってしまったのかもしれない。


 まぁここまで来てしまったら、どうとでもなれだ。王城でかくれんぼしようとすること自体前代未聞だろうし、もう一つぐらい前代未聞がくっついても問題なかろう。


「じゃあついでにもう一つお願いしてもいいですか?」


「はい! なんでも言ってください!」


「魔王のルプルさん呼んでも良いですかね? 彼女、こういうの好きで……誘わなかったら後から文句言われそうですから」


 あとになって考えてみれば、王様たちにトドメの一撃を放ってしまったのは、もしかしたら俺かもしれない。



~~~作者あとがき~~~


やりたい放題してる……


★作者からのお願い★

メノさん可愛い!面白い!続きが読みたい!と思っていただけましたら、小説フォロー、お星様ポチポチ☆☆☆、いいね、応援コメント等どうぞよろしくお願いいたします。

執筆の励みになります!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【WEB版】生贄少女が流れつく無人島を楽園に改造したい~レベル9999転生者によるやりすぎWelcome~ 心音ゆるり @cocone_yururi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ