第12話 気弱な子供 4

「おや、今日は魔族の子供が来たのか珍しい」


 森の中に一人の魔族の子が流れついた。

 何度も転び、体のいたるところに傷が見えていた。


「君達は望みなんて考えるような人種ではないと思っていたのだけどね。これも時代というものなのかな。それで君は何を望む? その傷ついた体を治してほしいとかかい?」 


「ちがう。傷はそのうち癒える」


「そうか」


 魔女は草いじりを終えると、黒染めのワンピースの裾についた土埃をはたいてやる。


「仲間が死んだ。キャンプが勇者に襲撃され、やられたのだろう。」


「そうか」


「魔女よ、お前の力で仲間を蘇らせることはできないのか?」


「できないな。六〇年くらい前に自分で死者の蘇生はできないと証明してしまった」


 魔族の子供はその場でへたり込んだ。

 疲れた体は悲鳴を上げており、いつ気を失ってもおかしくなかった。


「粗暴な奴が多かった。野蛮な奴らばかりだった」


「そうか」


「気分を悪くするやつもいた。殺してやりたいくらい気分の悪いヤツも。だけど死んでほしいとは思うことは無かった。気を遣うような奴らじゃなかったんだよ」


「そうか」


「なあ、魔女よ。今代の魔王様は戦がまあヘタクソだ。前線に送るはずの物資も日に日に少なくなっていき、輸送係の私から見ても、いずれ私達は負けると悟っている」


「そうか」


「なあ魔女よ。本来ならここで復讐をする力を求めることが、同志たちに対する最も良い言葉なのだろう。だが復讐はきっと復讐の連鎖を呼ぶだろう。私が誰かを殺せばその誰かはきっと私と私に関係ないものまで危害を加えようとするだろう。戦争をしているのだ。互いに憎み合うことは道理だ」


「つまり君の望みとはなんだ?」


「武力ではなく、言葉や条約で交渉する世界が欲しい。そのために許すこと、忍耐をする心が欲しい。この先の未来で私は武力ではなく、知恵で全ての問題を解決できるようにしたいと思っている。それを実現するための堅牢な心と、他者を憎まず、自身の中の憎悪を鎮める不屈の心が欲しい」


「そうか。ならその願いを叶えてやろう」


 それから五〇年後。快進撃を続ける勇者は老衰により亡くなった。

 魔族と人族が手を取り合う都市が生まれたのは、さらに五〇年先のことだった。

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永遠の魔女は、もういない 春木千明 @harukichiharu

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