第5話 選択 / 願い
「君には選択して貰おう。家族と共に行くか、新しい世界を育てるか」
女はなにもない空間から父の持っていた石のキューブに似たものを取り出した。父の物より少し緑が掛かっている。
「これは君の雨石だ。選択次第で君にあげよう」
目の高さに持ち上げた雨石を透し、女の大きな目がより大きく見えた。
「こんな所に隠れ住んでいたのか」
剣呑な目をした初老の男が勝手に入ってきた。
「誰だ」
「お前があの家に来てくれなければ、全く分からなかったよ。ムショ友達とはいえ、仲良くしておくものだ」
男は勝手に話し出す。
誰だか分からない。面識はないはずだ。ただ、本能の警戒レベルは最大値まで高まっている。
「はじめましてだね。盗んだものを返してくれればそれで良い。都筑教授の息子といえば分かるかな。あの青い秘宝は僕のものだ」
何が楽しいのかくすくす笑い、
「私の父親はろくでなしでね。ものの価値が全く分かっていなかった。触らせて貰えなかったが、あの青い秘宝を売り飛ばそうとするなんてどうかしてる。死んで当然の愚か者だ。殺して奪おうとしたのに持ってなかった。お前が盗んだのだろう?」
「分かった。お前に渡す。だから早く帰ってくれ」
都筑の息子に雨石を渡す。
娘が来るのに、こんな奴と鉢合わせはごめんだ。渡してしまえばこいつは明日死ぬ。問題ない。
「ああ、これだ。ありがとうよ」
なんの躊躇も無く、いきなり石で殴られた。思わず蹲ると、続けて二度三度と石で殴られた。
頭蓋骨が砕ける音がする。周辺に血溜りを作っていた。
これが報いなのだろうか。
……美雨。
お前だけでも生きてくれ……。
「選択を尊重する。君の名前は?」
「美雨」
「いい名だ。君も世界を支える柱になってくれ」
女は華麗にお辞儀をすると、雨の中を帰って行った。永遠とも言える時間は終わった。実際には一時間も経っていなかった。
「さて、警察に連絡しないと……」
私の手には新しい雨石が残っていた。
雨の記憶が上書きされる 大和田よつあし @bakusuke
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