第11話『新たなる大陸を目指して』


 それから一週間後。俺たちは無事に資金を確保し、ロベルトさんと再会する。


「本当に集めてきやがったか。やるじゃねぇか」


 銀貨の詰まった袋を確かめると、ロベルトさんは満足顔で頷いた。


「これで西の大陸に連れて行ってくれるんですか?」

「ああ。海の男に二言はねぇ。三日後の早朝、西の港で落ち合おう」

「西の港?」

「わたしたちが飛ばされた森があったでしょ。あの森を迂回して西に向かうと、港があるの。普段は南の大陸に向かう定期船しか出ていないんだけど」

「お嬢ちゃん、よく知ってるじゃねぇか。西の大陸への航路はないが、位置的にあの港が一番近いからな」


 思わず尋ねると、朱音あかねさんがそう教えてくれる。


「長旅になるからな。準備はしっかりしとけよ」


 ロベルトさんはそう言うと立ち上がり、酒場をあとにしていった。

 残された俺たちは顔を見合わせたあと、テーブル席に腰を下ろし、準備物の話し合いを始めたのだった。


 ◇


 ……それから三日後の早朝。

 準備万端整えた俺たちは、西の港に移動する。

 小さな港には不釣り合いの巨大な船が停泊していて、その周囲を船員たちがせわしなく動き回っている。


「昼前には出港するんだぞ! モタモタするんじゃねぇ! 給料減らされてぇのか!」


 大きな声に視線を送ると、キャプテンハットを被ったロベルトさんが一段高い場所から声を荒らげていた。


「えっと、おはようございます」

「おう。来たか客人たち。見ての通り、まだ時間がかかる。もう少し待っていてくれ」


 どこか自信に満ちあふれた表情で言う彼に頷いて、作業の様子をなんとなしに眺める。

 船員たちはロープを使い、巨大な木箱や樽を器用に船の甲板へと運び入れていた。

 あれはあれですごい技術だと思う。


「……なんだか映画みたい。パイレーツなんとか」

「朱音ちゃん、それ、海賊映画だから」


 ボソッと呟いた朱音さんに、希空のあがツッコミを入れていた。

 というか朱音さん、映画好きなのかな。読書家って感じだし、ちょっと意外な気がする。


「それより、準備大変そうだね……あたしも手伝おうかな」


 腕まくりしながら、希空が言う。

 そりゃ、身体能力強化魔法を使えばいけないことはないかもだけどさ。


「そうですわね……少しお手伝いしましょうか。ファニー、ティック、おいでなさい!」


 その時、カナンさんが飛竜と魔獣を呼び出した。

 魔物と見間違うその姿に、船員たちは一瞬パニックになるも……カナンさんが事情を説明すると、一気に沈静化した。


「姫巫女様の使い魔かー。驚いたぜ」

「いやー、まったくだ」


 そんな安堵の声が聞こえる中、ファニーとティックは荷物運びを手伝っていく。

 ティックは港の倉庫に駆け込むと、その背中に巨大な箱をいくつも乗せて戻ってくる。

 一方のファニーは強靭な爪でしっかりと荷物を掴むと、空を飛んで直接船に運び込んでいた。


「すっご。これは希空さんも負けてられないねー。おじさーん、手伝うよー!」


 その様子を見ていた希空は居ても立ってもいられなくなったのか、虹色のオーラをまといながら集団へと飛び込んでいった。


 ……なんてパワフルな陽キャ聖女だろう。


 その一方で、陰キャ勇者である俺たちは特に手伝うこともできず、作業を見守るしかなかった。




 召喚獣たちや希空の助力もあって、それから一時間もしないうちに積み込み作業は終了した。

 俺たちはロベルトさんとともにブリッジ前面に立ち、甲板を見下ろしながら出港の時を待っていた。


「命知らずな野郎ども! ようこそ、俺様の船へ!」


 その時、ロベルトさんが甲板の船員たちに向かって叫ぶ。


「これから向かう海は、未だに踏破者のいない魔の海域だ。どんな魔物が潜んでいるかもわからん。正直、生きて帰れる保証はない!」


 突如として始まった口上に、俺たちは静かに耳を傾ける。


「少しでも怖気づいたのなら! 船を降りても構わん! それもまた、勇気だろう!」


 ロベルトさんは大げさな仕草を交えながら続ける。

 それこそ映画とかでよく見るシーンだけど、乗組員の士気を上げる意味合いがあるのだろう。


「だが、そのような者は誰一人としていないと、俺様は信じている! 違うか!?」


 続いた言葉に応えるように、甲板に集まった船員たちが雄叫びを上げる。

 船全体が揺れるような、すごい声量だった。


「ありがとう! そんな諸君らに朗報がある。我々の船には、勇者と聖女、そして姫巫女が乗っておられる!」


 ロベルトさんはそう言うと、俺を指し示す。


「紹介しよう! 勇者トウヤと、その頼もしき仲間たちだ!」


 直後、先程に負けないほどの歓声が響き渡る。そして無数の視線が俺に注がれた。


 ……あれ、この流れって、俺が何か言わなきゃいけないやつ?


 背中に冷たいものが流れるのを感じつつ、俺は右側に立つ朱音さんを見る。目が完全に泳いでいた。

 次に左側に立つ希空に視線を送る。彼女はなぜか親指を立ててきた。

 その奥のカナンさんは笑顔を崩さずにいるし、これは俺に丸投げされたらしい。

 いくらなんでも、ここで勇者が気弱な姿を見せるわけにもいかないし……どうしよう。

 そ、そうだ。ゲームだとどんなセリフが使われてたっけ。思い出せ、そして役になりきるんだ。

 俺は大きく息を吸い込み、一歩前に出た。


「……頼もしい限りだが、諸君らが抱える不安は、痛いほどわかる。前人未到の海域ともなれば、なおさらだろう」


 普段とはまったく違う声色で、俺は語る。


「だが、我らに任せておけば、恐れるものは何もない。いかなる魔物が現れようとも、海の藻屑としてみせよう」


 さらにそう続け、拳を突き上げる。


「――我らの旅路に同行してくれる諸君らに、最大限の感謝と、海の女神の祝福があらんことを!」


 その直後、割れんばかりの歓声が周囲を包みこんだ。


「よーし、野郎ども、いかりを上げろ! 帆を張れ! 出港だ!」


 そのままロベルトさんの号令が響き、甲板が慌ただしくなる。

 それを確認して、俺はゆっくりと後退。へなへなとその場に座り込んだ。


透夜とうやくん、おつかれさま」

「……見事な口上でしたわ」

「めちゃくちゃ緊張したよ……」


 朱音さんやカナンさんが労いの言葉をかけてくれ、俺は大きく息を吐く。思った以上にきつかった……。


「海の藻屑としてみせよう……ぷくく」

「笑うなっ!」


 そんな中、希空はわざとらしく低い声で言い、必死に笑いをこらえていた。

 即興で考えたんだから、褒めてくれたっていいのに。




 ……それからしばらくして、船はゆっくりと港を離れ、水平線へ向かって進み始める。


 ……目指すはオルティス帝国のある、西の大陸だ。


 ――俺たちの旅は、新たな局面を迎える。




 ~あとがき~


 いつもありがとうございます。川上です。

 この作品は『カドカワBOOKSファンタジー長編コンテスト』応募作品ということで、ここで一区切りとさせていただきます。

 ここまで多くの反応をいただき、本当に嬉しいです。

 もちろんこの先のプロットもありますので、最強の陰キャ勇者たちの旅はまだまだ続いていきます。続きはコンテスト後となりますので、しばしお待ちいただけたら幸いです。


 最後に評価や感想などいただけますと、作者のモチベーション爆増に繋がります。何卒よろしくお願いします。



                               川上 とむ

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二人で最強の陰キャ勇者~異世界転移した陰キャゲーマー、天才陰キャ少女と合体して世界を救う~ 川上 とむ @198601113

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