第29話:ほら、行くわよ!

 



 ダンジョン踏破から戻って、二週間。

 この二週間でいろいろとあった。


 先ずは引っ越し。

 俺とムスタファとジーノがいる間は、家の防犯は無敵に近い。

 だけど俺たちが出掛けてしまえば、家には父さんと母さんのみ。

 しかも父さんは仕事でいないことがあるし、母さんは普通の人だ。

 父さんの腕っぷしについては何も言わないでおこう……。




 ファウストさんのお屋敷で、上階での体験や魔獣の情報などを話しているときに、俺たちが今までに得た財産の話になった。


「――――は?」

「それを自宅に置いてるのか?」

「はい。やっぱり拙いですかね?」

「せめて……せめて金庫くらいは……」

「いや、家を買え家! てか屋敷を買って警備も雇え!」


 ヴァスコさんがバンバンとテーブルを叩き、その横でアミタさんが何やらメモを用意してくれていた。

 どうやら屋敷を買うための場所と、常駐の警備員を雇える場所を書いてくれているらしい。


「人の警備が苦手な場合は、自分の魔獣を配置したり、少し高価だけど、魔導具もありだよ」


 ファウストさんは魔導具派らしい。

 父さんも母さんも気遣いしいだから、人よりは魔導具の方が落ち着けそうだ。




 そんなこんなで小さめのお屋敷と魔導具を買うことになった。

 アミタさんからとファウストさんからの紹介というのもあり、とんとん拍子に進んでいった。

 気付けば一週間もしない内に少しこじんまりとした建て売りのお屋敷に住むことになった。

 新しい家は綺麗で広くて、自分達の部屋の他に会議用の部屋だったり、装備などを置く部屋もある。


 金庫付きの執務室もあった。

 執務室は父さんが使ってねと言うと、なぜか抱きついて大泣きされた。


「むずごがやざじぃぃぃ、おどごばべぇぇぇ!」


 何を言っているかは、分からなかった。


 新しいキッチンはとっても広くて、母さんは今まで以上にムスタファたちのご飯作りを楽しそうにやっている。


「クリストフちゃんもパパも少食で楽しくないのよぉ! ムスタファちゃんはいっぱい食べてくれるし、ジーノちゃんは可愛いく飾ると喜んでくれるし! あぁぁ! 何作ろうかしらー」


 早口で捲し立てられた。とりあえず、幸せそうな悩みっぽいから放置で良さそう。


 俺は、引っ越してきてから、今までの出納確認とかをやっていた。

 収益は大きかったけど、お屋敷を買っちゃったし、ちゃんと管理しつつ生活しないと。あると思って大きく使ったりしたら危ないから。


「……こんなに現実的な子、誰に似たのかしら?」

「ママ、俺だよ俺」

「ん? 無いわ!」

「まっ、ママァァァァ!?」


 両親はいつまで経っても楽しそうに騒いでるから、見ててほっこりする。


「どこの隠居したジジイみたいな感想を抱いてるのよぉ」

「あははは。俺、寝るね。おやすみなさい」

「「おやすみー」」


 最近リディアと逢えてないせいか、ちょっとだけ寂しくて考えが暗くなってるのかな?

 明日はムスタファたちとどこか散歩に出かけようかなぁ。

 そんなことを考えながら目を閉じた。




 ――――ん、そろそろ起きようかなぁ。


「クリストフ! 起きなさいっ!」

「へ?」


 聞こえるはずのない声が聞こえて、重たい目蓋を押し上げた。

 ぼやける視界に、頬を染めて少し怒り気味のシルバーブロンドの女の子。

 瞳はエメラルドのように美しいくて、いつまでも見ていられる。


「起きなさいって!」

「へ!?」


 ――――リディア?


 何故かリディアが俺の部屋にいる。

 俺の部屋にいて、ベッドに寝そべっている俺の顔を覗き込んでいる。


「へ? じゃないわよ!」

「へ?」

「次のダンジョンの攻略に行くわよっ!」

「へ?」


 寝起きでぼーっとなっていたせいなのか、リディアの顔が真っ赤だったからなのか、よくわからないけど、俺はずっと『へ?』だけ言っていた。

 着替えるように言われて、素直に着替えて、防具も着けて。

 気づいたら家の玄関。


 ムスタファとジーノは準備万端で玄関で待っていた。


「ガゥ!」

「きゅきゅ!」

「ほら、行くわよ!」


 どうやら俺たちは、まだまだパーティーのままらしい。


「――――うん! 行こう!」



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不遇オブ不遇のビーストテイマー、S級魔獣を手懐ける。 笛路 @fellows

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