第28話:ダンジョンだから!
フィフティタワーからの帰り道。
馬車に揺られていたけれど、妙に無言なのが気まずくてダンジョンの床に表示された文字のメモを見る。
慌ててメモを取ったけど、たぶん漏れはない。
【ダンジョン踏破成功】
順 位:4番
期 間:5日
回 数:1回目
踏破者:クリストフ
リディア
ムスタファ
ジーノ
報 酬:レベル+5
全ステータス+50
「レベル5アップ、ステータス50追加……?」
「ステータスを確認してみましょ」
「うん」
【クリストフ・マイスナー(16)】
ランク: F
L v: 83
H P: 89
M P:102
攻撃力: 86
防御力: 97
ジョブ:S級ビースト・テイマーLv.10
従 魔:S級 ダークネスレオパルド オス ムスタファ
S級 フェアリー・ベアー 性別不明 ジーノ
「うわっ! +50のおかげで三桁があるっ!」
「ほんと、クリストフの数字はバグすぎるわ……」
俺的には超嬉しかったけど、リディアは納得が行かないらしい。もっと増えてていいのに!と怒ってくれている。
【リディア・コルレアーニ(19)】
ランク: A
L v: 59
H P:552 補正値+90
M P:227
攻撃力:587 +110
防御力:417 +90
ジョブ:剣士
スキル:剣神の乙女
「めちゃくちゃ増えてる……」
「凄いわね、+50」
「うん。特になにか変化したような気はしないんだけどね?」
「そうなのよね。まぁ、『結局ダンジョンだから』で終わらされちゃうヤツよね」
「あはは」
ムスタファとジーノもレベルとステータスがちゃんと上がっていた。
ムスタファに至っては、見ちゃいけないものを見たような気がするほどに数字がエグかった。
【ムスタファ(生後11ヶ月)】
ランク: S
L v: 38
H P:4950
M P:7350
攻撃力:9950
防御力:9750
種 族:ダークネス・レオパルド
ジョブ:クリストフの従魔
スキル:暗闇の覇者
「うわっ……もうすぐ、一万いくんだね…………」
「……あんた……ステータス100単位で上がり続けてるのね。今回の+50がショボく見えるなんて……」
「キャウゥ?」
首を傾げて不思議そうにしながらも、馬車の横を走っているムスタファ。
可愛いのでポンポンと頭を叩いておいた。
俺たちがフィフティタワーを踏破したことは、既にギルドに知られていた。
「伝言はもらっていたが……マジだったか」
「ええ! やったわよ!」
「おぉ。……頑張ったな」
ゼストさんがとても柔らかな表情で、リディアの頭を優しく撫でていた。
「クリストフ、お前のそのステータスでよく頑張った! ムスタファもジーノもな!」
俺たちは手荒くワシワシと撫でられたが、表情はやっぱり柔らかくて、心がポカポカとなる。
「ゼストさんがいなかったら、俺、こんなふうになれなかったと思います。ありがとうございます」
「そうね。ありがと、ゼスト」
「っ! なっ、何だよお前ら…………グソッ」
厳しい顔つきのおじさんが、目を潤ませて鼻声になるものだから、ギャップが酷すぎてつい笑ってしまった。
「そいや、踏破した場合の手順書は――――」
「あー。確か金庫に……」
ゼストさんとリディアがギルド長室にある金庫をゴソゴソと漁っていた。
「うげ…………国に報告だとよ」
「そりゃそうでしょ。あ、宰相に報告みたいよ。従魔の使用は可ですって。鳥飛ばしなさいよ」
「お前は、マジでそうやって簡単に言うがな、相手は国のお偉いさんだからな!?」
二人のこういう雑な会話がなんだか懐かしくてクスクスと笑いながら、ゼストさんが報告書を準備する姿を眺めた。
宰相閣下からの返事は、『ぜひ後日に面会を希望する』とのことだった。
国王陛下の執務が調整できしだい連絡すると。
「お偉方って『希望する』なのに、返事は聞かないのよねぇ」
「えっ!? 国王陛下に謁見出来るんですか!?」
「お前は本当にスレてなくていいな」
なぜかゼストさんにまた頭を撫でられた。
翌日から世間はお祭り騒ぎ。
飲めや歌えやで都市中が大盛況になっていた。
俺たちは二人ともSランクに昇格。
「クリストフはタイミングよくSに出来て良かったぜ」
「ホントね。ずっとどうしようかと悩んでいたのよね」
手に入れた魔石や素材の買取価格が決まったと連絡を受けてギルドに行くと、集まっていた人たちに揉みくちゃにされた。
俺もリディアも、色んな冒険者に声を掛けられ、誘われ、断る。
その繰り返しだった。
「まさか、追い抜かれるとは思ってもいなかったよ。だが、君たちなら納得だ。悔しくもあるが、心から祝福の気持ちばかりが湧き出るよ」
「ファウストさん! 本当にいろいろとありがとうございました!」
今度ファウストさんのお屋敷で情報共有会をしようと約束した。
「おいおい、それにはオレ達も混ぜてくれるんだよな?」
後ろから聞き覚えのある声。
振り向くと、なぜかボロボロのヴァスコさんがいた。
「きゅー? きゅきゅ!」
ジーノが同じくボロボロになっているヴァスコパーティー全員にミスト・ウォッシュと回復魔法を掛けた。
「何だあれ! ぬいぐるみじゃなかったのかよ!」
「やだ! 可愛い!」
「え、広範囲の回復魔法!? フェアリー種!?」
ギルド内がざわついた。
ジーノはぬいぐるみ扱いした男性冒険者に飛び蹴りをかましていたけど、可愛いと撫でられていた。
たぶん、そのうち戻ってくるから放置でいいや。
ムスタファはなぜか全員に距離を置かれていて、ずっと俺に頭突きをしてきている。
ジーノがちやほやされていて悔しいのかもしれない。
「お前らが踏破したってダンジョン内に表示されたから急いで戻ったんだよ!」
「たぶん嶽度、全フロアの床に表示されてたみたいよ」
「何そのはた迷惑な機能……」
「「ダンジョンだから」」
あ然とするリディアと、苦笑いする冒険者たち。
とにかく不思議なことは『ダンジョンだから』なんだよね。
「あはははは!」
「ぷっ!」
「「わはははははは!」」
ギルドに集まっていた百人近くの冒険者たちで、大爆笑になった。
俺が夢見ていた冒険者は、まさにこんな感じ。
皆で協力しあって、楽しく、騒がしく、笑い合う。
――――俺、冒険者になって良かった!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます