第二話 少女はアップルジュースを飲みながら待っている

突然の少女の発言に頭が真っ白になる。


「助けてほしいってどういうこと?え?な、え、何があったの?大丈夫?」

焦燥の念に駆られる僕と反対に彼女は落ち着いていて、彼女自身が発した言葉と合わない。


「貴方にしか頼めないことなんです。新宿にあるカフェに来ていただけませんか?」

一瞬頭の中を宗教じみた考えが浮かんだが、こんな少女がするはずはないとその思いは直ぐに沈んだ。今は夏休みだし、今日はやることもなかったためそのカフェに行ってみることにした。


「……分かった。どこにいけばいい?」

カフェと言っても数えきれないほどある。彼女からカフェの場所と八時集合という情報を受け取って電話を切った。時計を見る。針は七時三十分過ぎを指していた。急いで身支度をして部屋を出た。通り過ぎてしまったエレベーターの表示を見て、階段を下りる。数分後に来たバスに乗って揺られながら目的地へと向かった。


指定された場所に着いた頃、携帯の画面を見る。七時五十八分。見つけやすいように外で待っていろという指示に従ってその場に立ち尽くした。


「あの…柊さんですか?」

あの少女の声だ。振り向くと、少女は見上げて僕の顔をじっと見た。身長百五十センチ程で艶のある黒髪ボブで、サブカル系の上着に明るめブルーのストレートデニム服装を履いていた。


「そうだよ。君の名前は?」

れいです。」

僕は少女の名前に違和感を覚えた。聞いたことのある名前だったからだ。何処で聞いたのか。誰の名前だったかは思い出せない。声といい名前といい一体何なのだろう。


「とりあえず中入ろうか。」

僕は彼女を先に行かせ、後をついて行った。中はモーニングの時間帯なのもあってか既に賑わっていた。僕達は奥のほうの席へと案内され、座り、飲み物を注文して店員さんが注文を伝えに行ったあと電話のことを聞いてみた。


「それで助けてほしいって何?」

「実は私、探偵なんです。」

「……小学生探偵?」

「何かのアニメを思い浮かべていませんか?」

僕は少し口角を上げて否定した。


「とある事件を捜査していまして。その捜査に協力していただきたいんです」

「捜査?」

「殺人事件です」

「殺人事件!?」

近くにいた客が数名こちらに向いたのに気が付いた。僕は頭を少し下げ、声の音量も下げた。


「子供廃墟殺人事件ってご存知ですか?」

「ああ、今朝やってたニュースの?」

「そうです」

「そんな重大な事件、手伝うなんてできないよ。それに僕をどこで知ったの?僕、君とどこかで会ったことあったっけ?」


「会ってますよ。覚えてませんか?」

見覚えのある顔、聞き覚えのある声なのは確かだが、記憶の引き出しを探ってみても見つからない。零の情報がどこにもない。


「覚えてないな」

「そうですか。まぁいいです。貴方にとっても真実を知る鍵となると思うのですが」

「真実?」

「はい。でもその様子だと忘れてしまったみたいですね。どうですか、暇つぶし程度に私と一緒に謎解きしませんか?」


「少し考えさせてくれ」

「わかりました」

零はリンゴジュースを飲みながら外の様子を見て待っている。

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フィクション 碧海 汐音 @aomision

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