第14話 ゴーンゾが帰ってきた


 ミリバ王国の王都ロソドリとなった街は、西に広がっている魔物ケモノの森は少しずつだが、ミリバたちがガーシェ大帝国から流れ出てこの地に来る途中で命からがら抜けてきた険しい山脈が連なる北へ、地平線の彼方まで草原が続く東へ、そしてゴーンゾが旅立つときに作った南へと続く道から斜めに南東へと街の規模を拡げていった。


 土魔法や風魔法に火魔法を使える者たちが先導して土地を切り開き、魔物を討伐し、安全に暮らせる場所にしていった。


 北のガーシェ大帝国から流れ出てきた者たちだけではなく、西のローダイ王国から魔物の森を越えてきた者たちもいた。


 ガーシェ大帝国の属国と化したローダイ王国にいても先の無い下級貴族の三男四男や正式に婚姻を結ばず産まれた貴族の子供たち(庶子・非嫡出子)たちだ。


 彼らは武器も使えるし、多少は魔法も使えるが、一番の強みは知識だった。


 貴族の子供として、最低限の読み書きや計算・領地経営の知識を持っている彼らが見たミリバ王国は、力のある者が運にまかせて街を作り、王国を名乗っている蛮族の群れに見えた。


 これはとてもあやういものだと思った彼らは、ミリバやその側近として街を切り盛りしている集落時代からの仲間たちに近づき、自分たちの知識を王国づくりに役立ててほしいと訴えた。


 彼らは母国のローダイ王国では実現できなかった立身出世をかなえるチャンスだと思った。


 彼らはガーシェ大帝国から流れてきた者たちの中から自分たちと同じような境遇にあった貴族の子供たちとも手を組み、ミリバ王国の文官集団として力をつけていった。


 もちろん彼らは集落から街の規模にまで拡大できた最大の功労者である『魔法の天才:ゴーンゾ』のことは知っていたが、数年後には帰って来ると言って海を目指して南にむかってから音沙汰が無いし、どれほど魔法が使えたとしても、もともとはミリバたちと同じ平民だから、王都となった街に帰ってきても、居場所が無く、またどこかへ行ってしまうだろうとたかをくくっていた。


 ミリバや集落時代からの仲間たちは、そんな文官集団をニガニガしく思っていたが、王国として発展していくためには、彼らの知識が必要なのはわかっていたので、支配者階級として台頭してきた彼らが暴走しないように頭を悩ませる日々が続いた。


 しかし彼ら文官集団もミリバ王国が発展するためには、武力のある者や魔法を使いこなせる者が必要であなどってはいけないと冷静に判断して、表立って波風を立てないように、ミリバ国王をうやまい、集落時代からの仲間たちを王国の重鎮として扱った。


 武器や魔法を使える文官たちだからこそ、ミリバや集落時代からの仲間たちが魔物を狩る名人であり、ゴーンゾ直伝の魔法も大きな威力を出せることを肌で感じていたから、あまり舐めたことをしていると、一瞬で首を切り落とされるのは間違いない。


 ミリバや集落時代からの仲間たちとガーシェ大帝国やローダイ王国から流れてきた文官集団とは両者の思惑が錯綜する微妙なバランスを取りながら、ミリバ王国を発展させていった。


 文官たちは北の山脈に鉱物資源を探させて、金銀銅や鉄をロソドリに持ち帰らせ、武器や防具を作成させ、通貨も発行した。


 森から食べれる草や実のなる木を集めて、畑で育て、安定して収穫できるようにもした。


 王国として必要になる官位や貴族階級制度も整備した。


 王家の下に公爵(王族)・侯爵・伯爵・子爵・(準子爵)・男爵・(準男爵)・騎士爵と決めたところで、ミリバから提案があった。


 将来的にミリバの血を引く子供たち(子孫たち)が、公爵位を賜るのだろうが、まだミリバの子どもたちは幼い。それはミリバがこの地に流れてくる途中で妻を亡くし、国王となるまではもちろん、その後も忙しい日々が続いたので、新たに妻をめとり子供が産まれてからまだ五年も経っていないからだ。


 ミリバは文官集団に言った。


「最初の公爵位はゴーンゾに与えて、王位継承者第一位とする、これは私が王となったときにこの街に暮らす者たちと交わした約束を果たすためだ。ここにいる者の中にはそれを聞いていない・知らない者もいると思うが、貴族階級制度を決めるならば、ゴーンゾに私に次ぐ地位を与える事にする。これは王としての決定事項だ、異論は認めない」



 文官の中には不満顔の者がいたが、ミリバ王や集落時代からの仲間たちに『魔物を狩る目』で睨みつけられては賛成するしかない。


「あとの貴族階級はお前たちが決めて私のところに報告してこい。貴族家の当主になるのがお前たちの望みだったんだろう?」


 ミリバ王はそう言うと、集落時代からの仲間たちとニヤリと笑いあった。


 ミリバ王に自分たちの思惑を読まれていた文官たちは、しぶしぶながら王の命令にしたがい、王位継承者第一位はゴーンゾ公爵として、残りの貴族階級は集落時代からの仲間たちを侯爵や伯爵に決め、自分たちもそれぞれ爵位を授かることに決めた。


 ーーーーーーーーーー 


 ゴーンゾがミリバ王国の王都ロソドリを旅立ってから十年以上が経った。


 安定した食生活と安全に暮らせる街になったことからのベビーラッシュやガーシェ大帝国やローダイ王国から流れ込んできた人たちが集まってきたことで、ロソドリは大きく発展していた。


 ある日のこと、土魔法使いが高く盛り上げ硬く固めた壁の上で南東方面を見張っていた兵士からの緊急報告がミリバ王に届けられた。


 【南東方面から大きな土煙が上がり、ロソドリに向かってきている】


 土煙はロソドリに近づいてきて、兵士たちが警戒している南東の門まで残りの五百メートル程度のところで止まった。


 土煙がおさまると、そこには巨大な車輪をいくつもつけ、頑丈な盾で囲まれた五十台ほどの箱馬車が並んでいた。箱馬車のまわりには大きなオオカミたちが何頭もいる。


 先頭の箱馬車から男が出てきた。一番大きなオオカミがその男についてきた。


「ここはミリバがいる街か?、ミリバがいるならゴーンゾが帰ってきたと伝えてくれ」


 一人で旅立ったゴーンゾが途中で出会った人たちを連れて街に帰ってきたのだ。


 門から装飾のついた鎧を身に着けた兵士が歩いてきた。その後にゾロゾロと兵士の一団が続いた。その誰もがゴーンゾが旅立ってからこの街に来た者たちで、当然のことだが、ゴーンゾの顔を知らない。先頭に立つ兵士が言った。


 「ここはミリバ王が治めるミリバ王国の王都ロソドリだ。ミリバ王を呼び捨てにするとは不敬であろう。お前はゴーンゾだと言うが、なにか証明できるものは持っているのか?」


 ゴーンゾは面食らった。


『こいつなに言ってんの?、オレがゴーンゾであることを証明できるものを持っているのかって、どういう意味で言ってんだろう?、しばらく離れているうちにずいぶん立派な街になったようだけど、ミリバが王様でもなんでもいいから早く呼んでこいよ』


 ゴーンゾは魔力を眼に集めてその兵士をジーッと見た。


「おい!、スカム。お前はスカム・オクタ・サナバガンって名前だな。オレがゴーンゾだという証明を見せてやるから驚くなよ」


 ゴーンゾは空を見上げると両手を上げて言った。


「た〜〜まや〜〜」


 はるか上空に巨大な火の玉が出現し大きな爆発音と衝撃が伝わってきた。


 『いけね、ちょっとイラッとしたからデカすぎたかな、へへへ』


 箱馬車からワラワラと人が出てきて、ゴーンゾをジトーッとした目で見た。


「大将〜、なにやってんですか!」


「デカい魔法打つなら言ってからにしてくださいよ」


「大将、この街攻めるんですか?」


 グズっている小さな子供を抱いた女はプリプリしながら近寄ってきて、ゴーンゾの胸ぐらをつかんで言った。


「ゴーンゾーー!、子供が寝てるときに近くでやかましい魔法を使わないでって言ったよね。どーゆうつもりなのさ?」


「アハハハハ、いやぁそこにいるバカがイラッとすることをほざくもんだから……つい。ハハハハハ」


「ハハハじゃないわよ。それでミリバって知り合いには会えたの?」


「いやまだなんだけど、なんか王様やってるんだってさ」


「ゴーンゾの知り合いって王様………なんだ」


 ゴーンゾが『どうしようかなぁ、めんどくさいからまた他の土地へ旅立ってもいいけど、父さんと母さんの顔だけでも見ておきたいしなぁ』と思っていると、門のむこうから鎧を着込み、剣を抜いた集団が走ってきた。


 「オリャ〜〜、お前なにもんじゃ………んっ?」


 先頭にいる大男が剣を振りかざしながら叫んだが、ニヤニヤ見ているゴーンゾの顔を見て、アレッ?という顔で立ち止まった。後ろに続く者たちも、同様に立ち止まってゴーンゾの顔をしげしげと見ている。


「お前…、ゴーンゾか?。ゴーンゾなのか?」


「そうだよ、久しぶりだねミリバ。それにおっちゃんたちも元気そうだけど、まーた森に行くのをサボっているようだね。危ないから剣を振り回すのはもうやめなよ、ハハハハハ」


 ミリバたちがゴーンゾの顔を見てもすぐにわからなかったのは、十年以上見ていなかったので、記憶にある子どもの姿と成長した青年の姿が重ならなかったのと、ゴーンゾの焦げ茶色だった髪が真っ黒に変わっていて、よく見ると瞳も黒く変わっているからだ。


「ゴーンゾ、お前ずいぶん背が伸びたけど、髪と瞳の色も変わってるぞ。どうしたんだ?」


「よくわからないけど、いつの間にか変わっちゃったんだよね。街を出てからバンバン魔法を使っていたからかなぁ」


「う〜〜ん、そうか…。ところでさっきのデカい魔法は何だったんだ?」


「ああ、それはそこにいるスカム・オクタ・サナバガンがミリバを呼び捨てにするのは不敬だとか、オレがゴーンゾだって証明するものを持っているのかとか言うから、ちょっとイラッとしてやっちゃった、へへへへへ」


「んっ?、なんでコイツの名前を知ってるんだ?」


「魔力を眼に集めて『鑑定』するとわかるよ。ミリバに教えてなかったっけ?」


「そんなの聞いてねえよ〜〜、まったくお前はホントに………」とミリバがブツブツと言い出したが、それは無視して顔なじみのおっちゃんたちと話していると、ミリバが言った。


「ところで、後ろいる人たちはお前の仲間か?、街に住み着くつもりか?」


「そうだよ、オレの仲間たちだ。この街に住むかどうかは決めてない。とりあえずミリバやおっちゃんたちに会いたかったのと、父さんと母さんにオレの嫁たちと子供たちを見せたくて帰ってきたんだ」


「そうか、悪いがこんなに大きな箱馬車は街の中には入らないから、ここで野営して交代で街の中に入ってもらうようだな。それと残念だが親父さんは亡くなったぞ、お前が教え込んだ治癒魔法使いが治そうとしたけど、無理だった…。お母さんはまだ街に住んでいるから、誰かに案内させよう。それとそのオオカミも街には入れられないからな」


「そうか………父さんは死んじゃったか………。ずいぶん長くここを離れていたからなぁ…。じゃあ箱馬車とオオカミはここにおいて野営するから、誰かに頼んでオレの仲間たちにこの街の中を案内させてくれないかな。魔物の皮とか牙に干した魚や塩があるから、それと街の中で欲しいものとを交換してほしい。オレは家族と一緒にお母さんに会いに行くから、それも誰かに案内してもらいたいんだけど」


「それならオレが連れて行ってやる。オレも久しぶりに会いたいからな。魔物の素材や塩との交換も誰かにやらせるから心配ない」


 ミリバはそこにいる兵士たちに指示して、野営場所を決めさせた。それからゴーンゾの仲間たちを案内することやゴーンゾたちが持ってきたものと通貨との交換やその使い方を教えるようにも指示した。


 ミリバと集落時代からの顔なじみのおっちゃんたちは、ゴーンゾとその家族を連れてロソドリの街なかに入っていった。






 





 





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転生した元アイドルはヲタクの夢を見る 市ノ瀬茂樹 @ichinose_shigeki

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