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トルエが病院での研修を受けている頃、フォルは薄暗い民家の屋根裏でトルエの妹のハナと一緒にいて、肩を寄せ合いながら話をしていました。
「フォル、さっきはどうしてあんな風に嘘を言ったの?」
ハナは少し非難するような声色で彼に問い詰めました。けれど彼はいつものように動じません。
「ああいった方が皆は喜ぶだろ? 実際、皆は教室を出るときうっとりとした表情をしていたぜ」
「けれどフォル、何も嘘をつく必要はないじゃないの。確かにあなたのお母さんは病気で寝込んでいるけど、それは手術するような重いものではないんでしょ? それに、いもしない弟の物語を作り上げるなんてやりすぎよ」
「ハナ。君はまじめすぎるんだよ。そういうところは君のお兄さんに似ているな。でもね、僕は自分の人生を楽しんでいるし、より楽しみたいとも思っているんだ。僕は確かにあんな風に嘘をついてみせたけれど、それは誰かを傷つけるものではなかっただろう? むしろ僕は、皆にエンターテイメントを提供してやったんだよ。教室の無垢なネズミ達は、いや、世の中のほとんどのネズミ達は、誰だってエンターテイメントを求めているんだ。そしてそれには、不幸の味が必要なんだよ。もちろん、自分の不幸じゃない。誰か他の奴の不幸さ。それは樹木から滴る甘い蜜みたいなもので、かぐわしい香りで皆を魅了して、自分の人生を忘れさせてくれる。つまり、エンターテイメントというのは自己からの逃避のためにあるのさ。でもね、僕は自分の人生を、自分で楽しむことが出来るんだ。だから自分ではエンターテイメントは必要ない。むしろ、皆にそれをわけてやることができるんだ。彼らはあれで十分楽しんだだろうし、僕は僕で、今後の人生をより楽しみやすくなるかもしれない。これは一石二鳥だと思わないかい?」
ハナには、フォルの言っていることがよく理解できませんでした。何より彼女は、他のネズミの不幸を聞いて、良い気分がしたことなどありませんでした。それで何かを言おうと思ったのですが、上手く言葉が出てこずに、
「そうかもしれないけど……」
とだけ返しました。彼女は自分の気持ちが上手く言葉で言い表せないことに少し苛立ちを感じましたが、とにもかくにも、フォルに悪意がないことを知り一安心しました。
「まあそんなに怒らないでくれよ。何も本気でチーズハンターになろうなんて思っちゃいないさ。僕は君がそばにいてくれるだけで十分なんだから」
彼はそんなキザな台詞を平気な顔で言うと、ハナの頬にそっと口づけをしました。
「まったく、調子いいんだから!」
ハナは呆れたように言いましたが、もうそこに非難の色は乗せられていませんでした。
ネズミの学校 砂糖 雪 @serevisie1
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